十話 家出の物語
興味本位に窓から顔を出しみると先程の森や家や町が小さくなっていた。
風も地上に比べると肌寒い。
「これこれ、人間。そんなに顔を出すと落っこちまうぞ。」
朧車に指摘され、「すみません」と顔を引っ込める。
今、朧車の中には狐と椿だけ。夜だけもあって静かな空気が余計に緊張感を誘う。だが緊張感がないのか、狐は羽織った女性の体を隅々まで見ていた。
「…お狐様は羽衣様と言うんですか?」
朧車の中の空気に耐えきれず、疑問を投げかける。
「あぁ。そうじゃが?それよりさっきからなんじゃ?そのおキツネ様というは」
オウム返しのごとくすぐ質問を返された。
「稲荷崎神社の噂話ではそう呼んでるんです。」
「ほぉ、噂話とな。妾のことはもうそこまで広まっておるのか。」
クククッと笑う。
「お主、名は?」
「神崎椿です。」
「椿か。うむ、良い名じゃ。」
すると金髪の髪に指を通した。
「して、この髪は生まれつきなのか?」
「いえ、多分染めてるだけだと…。時間が経てば色が落ちます。 」
椿がそう答えると、「それは困るな」と髪を見つめた。そうこうしているうちに外が何やら騒がしい音が聞こえる。
「そろそろつきますぞ。」
朧車がそう伝えるとだんだん騒ぐ音が近づいてきた。もう一度今度は顔を出さず外を覗いてみる。目に映ったのは現代の時代では考えられない、きらびやかな街灯。そびえ立つ綺麗な建物。何よりも自分とははるかに違う住人達。
全てが椿の目を引きつけた。
「美しいじゃろ。なんていったって妾が作ったからの。」
「ここはどういう場所なんですか?」
「ここは狐の宮。強いていえば遊楽の街じゃ。」
浮いていた朧車は一際目立つ摩天楼へと降りて行く。下にあったはずの雲が上に通り過ぎ、ドスッと地面に着いた。 椿は外に出ようとのれんに手をかけると朧車は「まだ出るな」と止めた。
ドスドスドス
なにか踏みつけるような大きな音が近づいてくる。
「何奴じゃ何奴じゃ。ここから先はいかなる者も通さぬぞ。」
「不届き者か。盗人か。」
あまりに気なった椿は窓ののれんを少し開けてみるとそこには白と黒の巨人が持っていた槍で道を塞いでいる。
「ワシじゃ!朧車だ。道を通してくれ!」
「おぉ!はいはいはいはい。ただいま」
すると今度は巨人の間から手のひらに目がついた妖怪が姿を出した。
「お前達槍を下ろして道を開けろ。」
その妖の一言で巨人は簡単に道を開ける。
「すまんな手の目。夜遅くに。」
「いえいえいえ。もう慣れっこでさぁ」
軽く会話を交わすと朧車は摩天楼に向かって動き出した。
「あの…さっきの方は?」
「図体がでかいのがここの門番の黒坊主と白坊主。後から出てきたのが管理人の手の目じゃ」
「はぁ…」
扇子で自身を仰ぎながら羽衣は答える。
たが、疲れているのか少し口調に荒さを感じた。
するとまた朧車は止まったと同時に女性の声が聞こえてきた。
「随分と遅い帰りだな。朧車?」
「お、お雪さん………」
そこには短い髪に白い着物を身にまとった女が腕を組んで立っていた。何故かその妖がいる当たり一面が急激に冷気が漂う。寒いの言葉しか考えられない程に……
「い、いやぁ~今晩は満月ですなぁ~。あまりの美しさに見とれて遅くなってしまいました。」
ハハハッと笑う朧車には大量の汗が出ていたが急激な寒さのせいでその汗さえ凍っていた。
「そうか、ところで羽衣が見当たらないんだが何処にいるか知ってるかい?」
女がニコッと笑うと朧車の周りに氷の柱が出来上がっていた。
中にいる椿でもなんとなく怒っていることがすぐ分かる。一方羽衣は何故かこの状況にすやすやと寝息を立てて深い眠りについていた。
「…こんな時によく寝れるのね」
呆れを通り越し関心してしまう。
朧車に連れてこられ降り立った場所は美しい街だった。しかし、ある妖怪がそこに待ち構えており…




