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一話 始まりの物語

蝉の声が鳴り響く夏の森。

あまりの暑さに揺れる車で寝ていた少年が目を覚ました。

「あら、まだ起きるには早いわよ?」

「ううん、暑くて目が覚めちゃった。」

「今日は一段と暑いそうだからな?ちゃんと水分補給するんだぞ」

「分かってるよ」

少年は近くにあった水を少しづつ喉に流した。

水も夏の暑さにやられたのかぬるくなっている。

車の外を見てみると、まだ森の中で何度見ても同じ景色に飽き飽きしていた。

「ねぇ、父さん。いつになったらおばあちゃんの家に着くの?」

「もう少しだよ」

少年は退屈そうに足をばたつかせてもう一度、外の景色をながめてみる。

すると木々のあいだに人影が見えた

大きくてじっとこちらを見つめている。

「この森って誰か住んでるの?」

「何言ってるの。こんな険しい森に住んでる人なんているわけないじゃない」

「でも、あそこに人がいるよ」

人影がいた方向に指を刺したが

次に見た時には消えていた。

「きっと陽炎だよこんなに暑いんだ。きっとそうだよ。」

父は笑いながら言ったので少年はモヤモヤしながら頷いた。

そうこうするうちに車は森を抜け、小さな村が見えてきた。

「よし、おばあちゃん家に着いたぞ」

父が車を止めるとすぐにおばあちゃんが玄関から出てきて「よく来たねぇ」と優しく声をかけてくれた。

「お久しぶりです。

今日と明日とお世話になります。」

母はおばあちゃんに挨拶をして少年はその後で軽く会釈する。

「ゆづるちゃんもよう来たねぇ。

ほら、お上がり。美味しいお菓子も用意してるよ、」

「うん、ありがとうおばあちゃん。」

父と母は荷物の整理があると言い、

少年は先に靴を脱いで家に上がる。

風鈴が鳴るベランダで食べた羊羹はよく冷えていて、先程の暑さが嘘のように消えた。

すると、向うから歌が聞こえてきた。

「あら、トキちゃんまた歌ってるわ。」

「トキおばあちゃんは元気?」

「元気さね。寝たきりはつまらないって言っていたよ」

向かえに住んでいるトキおばあちゃんは思い病らしく寝たきりで、いつも歌を歌っていた。

「トキおばあちゃんはなんで歌っているんだろう。」

歌を聴きながらポツリとこぼした。

「昔出会ったお友達を呼んでるんだって」

「歌うと来てくれるの?」

冷たく冷えた麦茶を軽く喉に通した。

だが、おばあちゃんは「さぁ、どうだろうね」と返したので、ゆづるは「なーんだ」といい、残りの麦茶を飲み干した。

少年は森で見つけた黒い影について聞いた。

「ねぇ、おばあちゃん。

この森って誰か住んでるの?」

「いんや。住んではおらんよ。」

おばあちゃんは笑って答えた

「でもね、この近くには物の怪の森があると言われていてね。たまにここに現れるという言い伝えがあるさ」

「おばあちゃんは見たことあるの?」

「いんや。おばあちゃんは見たことないねぇ。でも、おじいちゃんは見た事あるかも」

おばあちゃんがふっと横を向いたのでゆづるも向いているとそこには仏壇が置いてあった。

おじいちゃんは末期のがんで他界している。

「おじいちゃんが?」

「そうよ?おじいちゃんは若い時、よくその森で友達と会っていたっていってたわぁ」

「……そうなんだ。」

ゆづるは仏壇をじっと見つめて、手元にあったせんべいをパリッと口で割った

「ゆづるちゃんがもし見たらおばあちゃんに教えておくれ?」

その言葉にゆづるはうんと返事をした。

その夜、夕食が終わった後ゆづるはお風呂に入り寝床に着く。

そこでもあの人影ばかり気になっていた。

おじいちゃんは見たことがある影。

その影が気になりしばらく暗闇に目を慣らしていく。

「…トイレにでも行こう」

起きていても仕方ないと思い、朝と比べて冷えた夜に寒気を感じながらトイレに向かった。

用を足し部屋に戻ろうとするゆづるの前に、ふと、青い蝶がゆづるの前を通った。

見たことない蝶だ。

「あんな蝶いるんだ…。」

ただの蝶のはずなのに、それが通った跡は何故か光り輝く鱗粉りんぷんを残していった。

そのまま森の奥に入っていったのでゆづるもそのまま追いかけた。

あの影と関係あると考えたからだ。

「待って。どこにいくの?」

蝶は止まることなく森の奥、そのまた奥に進む。

ゆづるも追いつこうと走るが、裸足の足では限界があり見失ってしまった。

気がつけば周りは知らない場所にいた。

見渡しつ見るとあちらこちらに赤い光がゆづるを囲んでいる。

人間だ。人間よ。珍しい。珍しい。

色々なところから声がする。ゆづるは急に怖くなりその場にうずく待ってしまった。

「おい、そこの坊主何してる」

急な大きい声に驚き、ゆづるは顔を上げるとそこには古びた着物をきた大きく太ったネズミが立っていた。

「ここは坊主がくるとこじゃあねぇ

さっさと帰りな」

「あの僕、蝶を探してるんです。

青く輝く蝶をみませんでしたか?」

「はぁ?知らねぇな。ほら早く帰んな」

ネズミがシッシッと手を振る。

しかし、最悪なことに蝶に付いてきただけなので帰り道は分からなかった。

「ごめんなさい…僕、帰り方分からない…です。」

その言葉に「はぁ?」とネズミは呆れてため息をついた。

「どうしたもんか」

「なぁにしてんねん。鉄鼠」

すると大きなネズミの隣から今度はマフラーをした細身のネズミが現れた。

「なにじゃねぇよ窮鼠。人間の坊主が迷い込んだんだよ。」

「人間が?」

窮鼠と呼ばれた細身のネズミに睨まれ、一瞬にして体が固まってしまった。

「青い蝶を探してきたそうだ。

何か知ってるか?」

「いんや。知らんな。初めて聞くわ」

「帰り方もわかんねぇらしいんだよ」

「そりゃ困ったな…」

ネズミ同士が話し合っていると

ゆづるは恐怖や自分の情けなさについに泣き始めてしまった。

「ごめんなさい。ごめんなさい。グズッ…」

「あ~あ~、泣くなや。」

「仕方ねぇ。連れて帰るか」

鉄鼠は泣き出したゆづるを担ぎ歩き始めた。

「…一旦口裂け姐さんとこに連れてこか。」

「そうだな」

「こいつ裸足で走ってきたな

足がぼろぼろじゃねぇか。」

そう言い残し、森をあとにした。

赤い人魂たちに珍しがられながら森を抜けると

そこには明治時代のような街並みが広がっていました。辺りは暗く照らしているのは人魂の街頭だけ。

そこにザリザリと2匹のネズミが砂利を蹴りながら歩き、そして立ち止まった先には昭和感が溢れる1件の店があった。

「おい、姐さん。姐さんはおらんか?」

ガンガンと鉄鼠が戸を叩くと、中から階段を降りる音と共に女性が現れた。

「何時だと思ってんだい!

やっとひと段落ついたってのに」

「いや、すまねぇな姐さん。

たのみがあってよ。」

女は不意に鉄鼠の担いでいたゆづるに目をやった。ゆづるは泣きつかれたのかすやすやと眠っている。

「なんだい?その子、随分と人間臭いね」

「人間臭いんじゃない。本物の人間のガキだ。帰り道がわかんねぇって泣いちまってよ」

「はぁ?なにやってんだい。」

女は鉄鼠に指を指しながら怒鳴った。窮鼠もやれやれとため息をついた。

「まぁまぁ、落ち着きや、姐さんにはこの子供を預かって欲しいんや。もちろん、こき使ってもかまへん。」

人手欲しいゆうてたやろ?と窮鼠が言うと女性は大きくため息をついた。

「こんなところじゃ風邪をひいちまう。中に入んな。」

「ありがとよ。姐さん」

女性は空き部屋を用意しそこをゆづるの部屋にした。ネズミたちから事情を聞いたが女性もまた青い蝶を知らなかった。

そのまま夜が明け日が昇る。


運良く窮鼠たちに保護されたゆづる。目が覚めた場所は知らない部屋だった。そこには初めて見る妖怪たちで…

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