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A I A M  作者: Aju
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8 微かな手掛かり

 スティーブ・ローズは、部下のもたらした情報にその鋭い目をさらに鋭くして表情を引き締めた。


 ケント・ミシマ。

 このアジア系の若いスタッフは時々、思いもつかない方法で成果を上げてくる。

 同僚とのコミュニケーションの下手くそな男だったが、常人とは違う思考方法をとるらしく、誰もが気がつかない方法で有力な情報を掴まえてくるのである。


 今回彼がスティーブのところに持ってきたのは、犯人の居場所を劇的に絞り込む情報だった。

 ()()とは、1ヶ月前突然起こったデジタルシステムの大混乱を引き起こした「犯人」のことだ。

 その後、犯人からの接触もない。声明もない。侵入の痕跡すら残っていない。動機も手段も不明。


 あらゆる国の情報機関が、血眼になって「犯人」を探していた。

 ローズの所属するA国中央情報局もまた、どんな非合法なことをしてでも「犯人」を割り出すように大統領から厳命を受けていた。

 当然だろう。

 あれほどのサイバー脅威を見せられておきながら、尻尾も掴めません、何も分かりません、で済むわけがないのだ。

 その犯人の居場所を、ケント・ミシマは絞り込んだのだ。


 表向き、各国政府は互いに敵対する国の仕業である可能性が高い、と非難し合っていたが、それはあくまで自国民向けのパフォーマンスである。

 あれほどの混乱を引き起こされておきながら、「何も分かりません」では政府の格好がつかないのだ。

 非難合戦がなんとなく茶番くさいのは、お互いに政府同士はそれが分かっているからであろう。

 本音は、1分1秒でも早く「犯人」を割り出し、自国の防衛システムの中に取り込んでしまいたい——というものだろう。

 熾烈な情報捜査戦が、水面下では繰り広げられていた。


 この国の中央情報局の中でも、中心になるのはどうしたってローズ部長率いるサイバー防衛部門になる。

 ローズの部下たちもまた行き詰まっていたが、そんな中でこのケント・ミシマという若い男は有力な手掛かりを掴まえてきたのである。


「日本だと?」

 スティーブは思わず鸚鵡(おうむ)返しに問い返した。

「はい。すべての障害は、まず日本から始まっています。」


 ケントは自分のノートパソコンを開いて、ローズ部長に分析した結果の図やグラフを表示して見せた。

「起こった事象ごとに、秒単位で、どの時刻にどの地域に拡がったのかをマッピングしてみました。秒単位でのデータを集めるのに苦労しましたが。」

「それで1ヶ月かかっていたのか。」

「いえ、データの収集と分析のためのAI を作っていました。苦労したのはその部分です。」

 ケントは、にこりともせずに言う。


 ケントは真っ赤に染まった世界地図から、1秒ごとに時間を遡って、その拡散の様子を逆回しでローズ部長に見せていった。

 障害の種類は100を超えていたが、そのほとんどが時間を遡るにつれて日本列島へと縮まっていった。

「まるでビッグバンでしょ?」

 ケントが口元に笑みを浮かべて言う。

「徐々に拡がるんではなく、いきなり我が国に跳んだりはしてますけどね。」


 この(おぞ)ましいサイバー脅威の現象を、そんなふうに笑って話せるミシマというこの男の精神状態を、スティーブは思わず疑いたくなる。

 だが・・・・。

 これは有力な手掛かりだ。


「よくやってくれた。日本に増援の諜報員を送り込むよう、局長に話してみる。」

 スティーブが立ち上がりかけると、ケントはそれを手で制して(なんという態度! 上司を上司とも思っていないのか?)抑揚のない口調で言葉を重ねた。

「それよりも、日本のSNSの情報を分析してみようと思うんです。もちろん直接的な証拠なんか出てこないでしょうが、悪意のない日常的な投稿の中に、手掛かりが紛れ込んでいることもあるものです。我が国にはそうした情報をすべて収集保存している機関がありますよね?」

 それについてはあまり公けに語ることのできないものではあるが・・・。

 しかもローズのような立場の者でさえ、その全体像は知らされていないという組織である。アクセスには局長以上の許可が要る。

「そんな膨大な情報・・・」

「ええ、ですから今、それを収集分析できるAI を作っているところです。僕にアクセス権を認めてください。日本の防衛省を含むあらゆる組織の内部に、不正アクセスする許可も——。」


 こいつは・・・、とんでもないことを言い出す・・・。

 しばらく逡巡してから、スティーブは内心の動揺を悟られぬよう、静かに言った。

「局長に相談してみる。」


 愛想笑いひとつするでもなく部屋を出て行こうとするケントに、スティーブが声をかけた。

「それにしてもなんだな。日本といえば君のルーツにあたる国だが、()の地には時に天才が生まれる血筋でもあるのかな。」


 スティーブとしては誉めたつもりだったが、ケントは露骨に嫌な顔をした。



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