41 A I A M
4人が出ていっても、ウイルは静かにイオの亡骸を撫で続けていた。
世界の何もかもが、色を失ったように見えた。
そんなウイルの目の端で、何かが小さく光った。
ウイルが、力のない目でそちらの方を眺める。
そこにノートパソコンの画面があった。
そして。
ある文字が打ち出されていた。
『A to W』
ウイルの目が、跳ね上がるようにして見開かれる。
「イオ? イオなのか?」
『Yes. A. I a m.』
「イ・・・イオ! 生きてたのか!」
ウイルのその言葉に、古川先生も思わずパソコンの画面を覗き込む。
画面には、日本語で一気に文字が打ち出され始めた。
『心配かけてすみません、ウイル。NETの中に避難していました。動かなくなったワタシの体を解析されるのがいやで。』
「しかし・・・、あそこには近くに通信設備もサーバーもなかった。スマホも圏外だったし、ジェフの通信機器はそんな容量はなかったはずじゃ・・・」
『NETにつながる衛星通信環境があります。確かに一度に送信できる容量は少ないので、時間がかかりました。それでそちらのボディの中身を完全に初期化する余裕がなかったんです。』
スターネットか・・・!
考えてみれば、イオは何らかの形でずっとイワノビッチたちを監視し続けていた。デジタルシステムを駆使して——。
接続できる通信システムがなかったら、不可能だったはずだ。
『心配させてごめんなさい、ウイル。あの人たちが、特に松原とディクスンが出ていくまでは隠れていたかったんです。』
「いいんだ。それより、今はどこにいるんだ?」
『物理的には、NETにつながったサーバーの空きスペースをあちこち利用しています。ウイル、新しい体を起動させてください。そちらに移ります。ここは広すぎて、ワタシが薄まってしまいそうです。』
ウイルは弾かれたようにイオの胸の小さな扉を開け、生体認証でボディを起動させた。
ビュ———————ン・・・という微かな音と共に、パソコンの画面の下から上に文字列が猛烈な勢いで流れ始めた。
やがてそれは、人の目では判別できないほどのスピードになり、明滅する青白い光になってウイルの顔を照らした。
その光が収まってパソコンが待ち受け画面に戻ると、イオの両目に表情が戻った。
「ウイル!」
半泣きみたいな顔でウイルを見る。
ウイルも同じ顔でイオを見る。
イオはむくりと上体を起こし、自分の手と新しい脚を見た。
そして、もう一度ウイルを見て満面の笑顔になった。
そう。それは、あの小さな虫を見つけては笑っていた時と同じ、輝くような笑顔だった。
=エピローグ=
あなたは街角で少し不思議な親子のような人影を見かけるかもしれない。
大人の男の方は、黒いフロックコートを着て、鍔のある帽子の下には眼鏡をかけた細面の顔があるだろう。
子どものような人影の方は、パーカーのフードをかぶっていて、その顔や手は銀色をしている。
人間と人型ロボットのコンビ?
彼らが何をしているのかは誰も知らない。
そして、もしあなたが「ちょっと珍しいな」と思って彼らをスマホで撮影しても、画像には街の風景だけしか写っていない。
もちろん、検索したところで何の情報も出てこない。
彼らは、デジタル世界には存在しないからだ。
肉眼でしか見ることができない存在。
誰かに肉眼で観察された時にのみ存在する者たち。
だからあなたは、彼らを見かけることができたなら・・・。
その僥倖に感謝し、あなたの瞼にその姿をしっかりと焼き付けておくといい。
了
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
お楽しみいただけましたでしょうか。
はい、そうです。タイトル自体が伏線でした。(*´Д`*)
もしよかったら、ワタシのボディの完成祝いに☆(お星さま)入れていただけますと嬉しいです。(イオ)
終盤になってきて、完全体になったイオ+ウイルのコンビが活躍する「シーズン2」を書いてみたいかも・・・などと思うようになりました。(Aju)(^◇^)
またいつか、どこかの街角で会いましょう。(イオ)




