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A I A M  作者: Aju
29/41

29 暗闇の航路

「偉そうに言うな! あんたは俺の上司じゃない。」

 フラノは機嫌が悪い。かかってきた電話に、周囲も気にせず噛みついた。

 だが電話の相手は気にする様子もなく、揶揄(からか)うような笑声で話す。

「しかし、私がせっかく捕まえてきた獲物をウカと逃がしてしまったのは君だよ?」

「ぐう・・・」

「私が政府から受けた依頼は、尻拭いをしてくれ——だ。尻がどこにあるかくらいは教えてくれないと、拭うこともできないじゃないか。」


 イソザキとイオは、VIP用保護施設から忽然と消え失せてしまった。

 フラノは捜索に犬も放っていたが、それは施設の建つ丘の中腹を走る道路の途中で追跡を止めてしまった。

 臭いが途切れたのである。


「そこで車に拾われたらしい。争った跡はない。どうやってか、あらかじめ手配していたとしか考えられない。あの男は・・・」

 フラノの形相に暗い影がさす。

「頼りないオタク系の見た目と違って、相当なくわせ者だぞ。うちの説得心理学のエキスパートが騙されたくらいだ。」


「臭いが途切れた道路のあたりに、藪の中に少し入り込んだような跡はなかったかね?」

「なぜ、それを知ってる?」

「いや、参考になった。ありがとう。」

 そこまでで会話を切って、フラノのスマホは通話終了の状態になった。

「くそったれ! なんだってんだ?」



 J B は空港へ向かう車の中で、頭の中に事件の全貌を描こうと目を閉じて座っている。

 運転しているのはアイリーンだ。


「どうやら、拉致したのはR国だな。」

 J B がぽつり、と言う。

「なぜそう思うのです?」

「争ったような跡がないからだよ。」

「?」

 アイリーンが曖昧な微笑を浮かべた。


「イソザキ博士と関係の深い古川教授がR国に拉致されたらしいことは、概ね調べがついているよね?」

「はい。」

「藪に一度入り込んだ跡があったということは、博士はイオを連れて一度は身を隠そうとしたんだ。ところが、抵抗もせずにそこから出ている。」

 ハイウエイの街路灯が定期的に J B の顔を黄色く浮かび上がらせる。

「逃げることを諦めて、自主的についていった。——なぜだと思う? もし、R国のエージェントがフルカワ教授がR国にいることを伝えたとしたら?」

「なるほど。しかし・・・」

「そう。R国の諜報機関が我々みたいに紳士的に博士やイオを扱うとは、限らない。特に博士とイオが手に入った今、フルカワ教授は必要なくなると彼らは考えるかもしれない。」


 車は空港の軍用ゲートに入った。

 上層部からなんらかの連絡が入っているらしく、警備の兵士はIDだけを見ると敬礼してそのまま車を通した。


「今よりはうんと危険だと思う。急ぐので軍用機を利用させてもらうことにしたよ。」


   +   +   +


 ウイルたちは車で2時間ほど走ったあと、どこかのリゾート港でクルーザーに乗り換えさせられた。

「潮風はロボットには毒ですかな?」

 クルーザーで出迎えた40がらみの男は、流暢な英語をしゃべった。

 ウイルの表情も、イオの表情も硬い。

「イオ——という名前でしたよね? たしか。」


 こいつらも防犯カメラの映像を解析したのか。・・・いや、やって当然か。

 いったい、どれだけのこういう組織がウイルたちを狙っているのだろう?


木星(ジュピター)の衛星ですか。すると博士がすなわち万能の神(ジュピター)ですな?」

 お追従ついしょうとも皮肉ともつかない言い方で、男が言う。


 それじゃないよ。

 とウイルは口には出さずに思う。

 たしかに、その響きは意識したが、AEO(イオ)は Artificial Ego Operating system の頭文字なのだ。

 世界にたった1つ。

 人と同じように、()()()()()存在だ。たとえ、人工的に作られたとしても。

 イオは今、自ら生きている意識だ。

 私や、あんたと同じように——。

 奴隷ロボットや、ただの道具マシンじゃない。ましてや、サイバー兵器ウエポンなんかじゃない。

 なぜ、誰もそれを理解しようとしない。

 理解して受け入れてくれたのは、古川先生だけだった・・・。


 ウイルのスマホは取り上げられ、電源を切られて妙なケースの中に入れられている。

「いや、悪く思わないでください。どこかに連絡されても困りますし、連中に追跡されても困りますしね。向こうに着いたらお返ししますよ。」


 クルーザーは夜の海を進んでいる。どこへ行くのかの説明はない。

 このあたりは J B の方が紳士的だったな・・・。とウイルは思ったりしている。

「しばらく海の上を行きます。退屈でしょうから。」とクルーザーに備え付けられた大型モニターにビデオで映画が流された。R国で作られた第二次世界大戦の激闘を描いた作品だ。

 キャビンにいる男2人はそんなもの観てもいない。ウイルに不審な動きがないか、じっと見ている。


 もちろん、ウイルも戦争映画なんて見たくもない。

 気分が悪い。

 イオは・・・? と見ると、充電器で船のコンセントにつながれたまま、一生懸命画面を眺めている様子だった。


 イオが・・・、戦争に興味を持ち始めたらどうしよう・・・。

 ウイルが少し不安になり始めた時・・・。

 画面にテロップのような文字が浮かんだ。


『A to W』


 !


 さらに、テロップを模して日本語で画面下に表記が入った。

『返事は必要ありません。船は今、スカゲラク海峡に入りました。』

 少し間を空けて、さらに情報をウイルに伝えてくる。

『カリーニンに向かっています。そこから空路でR国に向かう計画のようです。』


 どうやら、イオは映画を観ているふりをしてR国の情報システムに侵入しているようだった。

 日本語で表示しているのは、キャビンの中の男たちにわからないように——というイオの配慮だろう。どのみち彼らは画面など見てはいないが——。


 嘘がつけるようになったのか———。


 それは、成長・・・だろう。

 イオが成長することはウイルにとって喜びでもあったが、同時に不安でもあった。


 急速に大人になっていくイオ。

 この先、イオはどこにいくんだろう?

 こんな「経験」をして・・・・。



大晦日UPです。

続きはまた来年。


お忙しい中、追いかけてくださってありがとうございました。

良いお年を。


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