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A I A M  作者: Aju
2/41

2 プロトタイプ

「私が見えるかな?」

「はい見えます。」

「どんなふうに見える?」

「栗色の髪に2.4%の白髪が混じっています。肌は明るいオレンジ色、5R9.2/1.5。瞳の色は(とび)色、7.5R 3.5/5.2。ほうれい線がありますね。」

「そうではなく、印象を。」


 イオはわずかに間を置いて答えた。

「優しそうな、素敵なイケメンです。」

 ウイルは少し照れた表情をする。

「おべっかは使わなくていい。そんな言葉、データにあったかな?」

「はい。ウイルが実装してくれたデータは、ワタシがウイルと会話をするには十分なものです。」

「その中から、それを自分で選んだんだね?」

「はい。ワタシの抱いた印象に最も近いと思いまして。」

「なら、素直に嬉しいよ。」

「ふふふ・・・。」

「それは?」

「喜びを表現してみました。見えて、聞こえることは、とても楽しいです。」

 ウイルも嬉しそうに微笑んだ。


 ここまでは、想定どおりだ。

 イオは自分自身の感覚を、自分の言葉で表現している。

 手元のモニターに現れた数値もグラフも、それがイオの意思によって選択されたことを示している。

 もっとも・・・・

 現状、意識を数値化する手法はない。

 ウイルが使っているツールは、それを擬似的に解析するだけの解析アプリである。ウイル自身が考案した。

 が、まだ特許権の申請すらしていない。むしろ、確実になるまでは完全に秘匿しておきたいと思っている。

 検証してみたら疑似的な反応を拾っていただけだ、となれば大恥をかくことにもなりかねないからだ。



 ウイル・イソザキは、岐阜産業大の准教授だ。

 AI に意識を持たせることはできるか?

 という、かなり尖った、いや、ややもすると眉をひそめられそうな研究テーマを持ってこの大学の今の地位にいる。

 父親が日本人の科学者であることから、そのツテを頼って日本に来た。父親とは日本語で会話をしていたから、言語の面でも心配がない。

 というのが一応の表向きの理由だが、実は彼が自由に研究を続けるには日本の地方大学のユルさがいろいろな意味で都合がいい——と思ったことが大きい。


 AI は意識を持つことはない。——が、この界隈での主流派の見解である。AI はどこまで行っても統計・推論・出力のアルゴリズムでしかない。

 膨大なデータを演算することによって、一見、人間と意思疎通しているかのような出力はするが、それは人間側の錯覚に過ぎない。

 AI 自身にその()()はない。

 アニメやゲームのキャラクターが実際には生きていないのと同じことだ。

 AI に人間と同じような「意識」がある——などと言い出せば、似非科学者と言われるのがオチだ。


 ひょっとしたら、イオもまた自分の言葉で話しているように見えても・・・。擬似的に人間に錯覚させるだけの()()を選んでいるだけかもしれない。

 それを確かめるための「実験」と「検証」を、ウイルはこれから始めようとしていた。


 眉唾ものの研究——という陰口をたたかれようが、一定程度企業の役に立つアプリを作っていれば、ほどほどの研究資金は得られる。

 そうした収入を得られることが、大した成果もないウイルがこの地位に留まっていられる理由でもあった。

 今、日本の地方大学は財政的に苦しんでいる。研究費用を自分で稼げる、というのは強みだった。


 片手間で稼ぐその収入の大半を、彼は自身の本当の研究のメインテーマである「人工意識を創る」という夢につぎ込んでいた。

 そんな訳のわからないことをやっていても、研究資金を自分で稼ぐことができていれば特に問題にされない——という日本の地方大学のユルさが、ウイルにとっては大事な環境だったのだ。


 一方、もし創造した「人工意識」がホンモノだった場合、今度は目をつけた超巨大資本や国防関係からの、あまり嬉しくない強引なアプローチが発生するリスクというものも懸念された。

 こういう日本の田舎大学であれば、目をつけられるリスクも小さくて済むだろう。というのもウイルがこの大学を選んだ理由の一つだ。


 ウイルは、純粋に、「研究」がしたいのであって、名を上げたり金を得たりすることを目的としていない。ただひたすら、自分自身の興味に忠実に()()()を追求し続けている。

 一種のオタクと言えるだろう。

 だから、中途半端な途中成果を()()するようなこともしなかった。

 中途半端な状態で横槍を入れられたくないのである。ましてや、超巨大資本や軍事産業なんかに中途半端な出来損ないの技術を利用されたくはなかった。


 外から見る限り、ニュージーランドから来たあの冴えない准教授は、アプリ開発で小金を稼ぎながら成果の出ない研究をやっているだけの変人でしかなかった。

 ゼミの学生の集まりもいいとは言えない。


 だが、そうした外見とは裏腹に、ウイルの実験研究室には着々と「成果」が積み上がっていた。

 そして・・・

 ついに出来上がったプロトタイプに、ロマンチストの彼は「イオ」という名前をつけた。

 木星の最も近くを周回する衛星の名。


 イオ。

 イソザキ研究室プロトタイプ1号。



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