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A I A M  作者: Aju
17/41

17 逃走

 カーチェイスが始まったようだった。

 ウイルたちの乗った車は猛スピードで走っている。

 カーブを曲がるたびにタイヤが軋み、何かにつかまっていないと車内を転げ回りそうになる。

 映画ならそれを外側から見ることができるのだろうが、ブラインドで窓を隠された車の中にいるウイルにとっては、ただ激しい揺れと走行音と、銃撃音と弾丸が車の装甲に当たる音が聞こえるだけの箱の中でしかなかった。

 ウイルはイオを抱えたまま、車内の手近なパイプにしがみついている。


 そんな中で、先ほどのスタッフがイオに防弾チョッキを着せた。

 この揺れる車内の中でも身体の安定を器用に保っている。こういう場面に、よほど慣れているらしい。

「ヘルメットはこれしかなくて・・・。」

 と、イオにバイク用のフルフェイスをかぶせる。

「イオさん、見えますか?」

「あ・・・はい。見えます。」

 いきなり別の人からも名前で呼ばれたことに驚いた様子を見せながらも、イオは首を回して返事をした。

 むしろ、イオの首が180度回転して真正面を向いたことに、スタッフの方が驚いたようだった。

「そうか・・・。ロボットだもんな。人間と同じ可動範囲である必要はないわけだ。博士もどうぞ。頭を守ってください。」


 ウイルは、スタッフが差し出したフルフェイスのヘルメットをかぶる。

 少し視界が狭くなるが、しかし、安心感は増えた。


 車は体当たりをされているらしく、時々、ガガーン! という大きな音と共に車体が激しく横に揺れる。


 何度目かのそんな衝撃の後、ひときわ大きな衝撃音と共に車の右後方が浮き上がった。

 タイヤが路面をこする音と同時に、一瞬、重力が消える。

 そのまま車は横倒しになって、ギャリギャリと金属が路面をこする音と共に100メートルほども滑ってから止まった。


 一旦宙に浮いたウイルは、イオを抱えたまま車の反対側の窓の天井付近に落下して背中を強かに打った。

「うっ!」

 息が詰まったが、イオを抱えた手は放さない。


「ウイル! ウイル! 大丈夫ですか?」

 ウイルは体を丸めて、その中にイオを抱え込むような格好になった。

 すぐには声が出ない。


「うっ・・・う・・・。だ・・・大丈夫だ。イオが無事なら、大丈夫だ。」

「そんなの! 何の合理性もありません! ウイルの身体からだはワタシと違って修理や交換ができないのですから!」


「博士! 大丈夫ですか? どこかお怪我をされましたか?」

 さっきのスタッフがウイルの元に這ってきた。

「大丈夫です。背中のぶつけた所が痛いくらいです。」


 ブラインドの落ちた窓から、車の外部後方部分に炎が上がっているのが見えた。

 窓はどこもヒビだらけになっているが、割れてはいない。


「博士! こちらへ! ルーフハッチから逃げます!」

 スタッフの青年はサスペンションからサーバーをケースごと外し、それをリュック状のものに入れて背中に背負い、横倒しになった車のルーフハッチを開けた。


「ま・・・松原さんは・・・?」

 ウイルが松原の方を見ると、松原は倒れた機材か何かに足を挟まれてもがいていた。

 首だけをこちらに向けて叫ぶ。

「行け、ディクスン! 最優先事項は博士の安全確保だ! プランBの合流地点に急げ。10分以内にヘリが来るはずだ!」


 外へ出ると、横転した車のかげに隠れながら2人の男が敵と撃ち合っていた。

 外は既に暗い。


「博士、こっちです!」

 ディクスンと呼ばれたスタッフが手招きする。

「炎で敵からは見えません。」

 車の後部車輪のあたりから大きな炎と黒煙が上がっていた。


 ここがどこだかは分からない。

 ただ、どうやら人家のない山の中の1本道のようだった。

 ディクスンはそのままウイルとイオを引き連れて、森の中へとわけ行っていく。

 森には少し雪が残っていた。

 すぐに斜面になる。

 イオの4輪でしかない足ではこんなところは登れないから、ウイルが抱き上げて登ろうとする。

 が、イオはけっこう重い。こんな場所で持ち上げるには、ウイルの体力はいささか心もとなかった。

 足元がふらついた。


「交代しましょう。博士はこのサーバーを背負ってください。イオを私が背負います。イオ、おんぶだ。しっかりつかまって。」

 ヘルメットは脱ぐように言われた。


 イオはウイルの方を気にしながら、ディクスンの首に手を回す。

「あなたはいい人ですね。」

 ディクスンは、多くの修羅場をくぐってきたとは思えないような子どもっぽい笑顔を見せた。

「そいつは嬉しいな。世界初の人工意識にそう言ってもらえるなんて。」


 ウイルはリュックの方を背負った。

 打ち付けた背中は少し痛んだが、この重さなら大丈夫だ。

 リュックにはクッションが付いていて、サーバーを保護するようになっている。

 ここまで準備をして来たのか・・・。

 素人に太刀打ちできる組織ではないんだな・・・。


 慣れない山道に悪戦苦闘しながらも、ウイルは遠ざかってゆく銃声に安堵の気持ちを覚え始めていた。

 余裕ができてくると、いろんなことに頭が回り始める。


 松原さんは大丈夫だろうか?

 あの車・・・爆発するんじゃ・・・?


「あの・・・、車の中の松原さんは・・・」

 ウイルが言いかけると、ディクスンは前を向いたままでさえぎるように言葉を返してきた。

「我々はプロです。我々の最優先任務は、あなたを無事に本国まで送り届けることです。」

 少し歩いてから、付け足すように言葉を継いだ。

「そのために必要な犠牲なら、(いと)う者はいません。」


 ウイルは黙って歩き続けた。


 松原さん・・・。

 もう少し、ちゃんと話しておけばよかった・・・。

 年恰好からして、手塚治虫のファンだったのかな・・・?

 ・・・・・・・・

 家族は、いたんだろうか・・・。


 ウイルがそんなことを思っていた時だった。

 突然。

 何の気配も感じさせずに、前を行くディクスンの頭に木の陰から銃口が突きつけられた。

 ディクスンの足が止まる。



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