11 子どもの悪戯
「何をした? イオ。」
ウイルは頭を抱えた。
「ごめんなさい・・・、ウイル。」
イオが泣きそうな顔をしている。
「もう二度としません・・・。ごめんなさい・・・。」
+ + +
最初はウイルの仕事(お金を稼ぐ方の)を手伝ってもらおうと、予備のノートパソコンをイオに使わせたことだった。
イオは激しく興味を示し、自分の身体がそれと同じような仕組みを持っていることにも強い興味を持ったようだった。
「そうだね。イオの言うとおり、これもまたハードとしてはイオと同じ作りだよ。」
「この子も、何か考えていますか?」
イオはノートパソコンに自分を投影している。
そんな姿が、ウイルにはこの上もなく微笑ましく、愛おしい。
「イオの言うような意味では、なにも考えていないよ。」
「でも・・・」
と、イオは不思議そうに言う。
「ワタシよりもずっと、いろんなことを知っています。」
「それは、ネットワークの中から『情報』を拾い集めてきているだけだよ。イオにもその機能はあるけど、今はどこにも接続していないからね。」
ウイルの指示した「仕事」をするとき以外は、イオはパソコンで動画を見たりしながら時々小さな笑い声を立てたり、驚嘆の声をあげたりしていた。
ウイルの休憩時間には、新しく見つけた動画や世界の風景などをウイルに見せながら、ウイルが休みにならないくらいしゃべり続けたりした。
「こんなきれいなところに、ワタシも行ってみたいです!」
ウイルは苦笑いせざるを得ない。
海外旅行に行くお金なんてない。
いずれ、イオをお披露目すればお金も入ってくるだろうが、今はイオの体を作ってやらなければならないのだ。
お金はそちらに使わないと・・・。
「身体が全部できて、イオのお披露目が済んだらね。」
「早く作ってくださいね、ウイル! 早く行きたいなぁ。ほら、ここも! ここも!」
イオはパソコンで画面を忙しく切り替えながら、世界遺産や異国の都市の風景をウイルに見せてくる。期待に目を輝かせて。(それは言い回しで、実際にカメラアイが輝くわけではないのだが)
その中にはウイルの故郷、ニュージーランドの風景もあった。
しばらく帰ってないな・・・。
胴体と足を作るには、まだまだお金がかかる。
センサー関連は全てウイルが手作りしているが、ボディの構造体はここの設備では作れないからどうしたって外注にならざるを得ない。一品モノの特注品だから値も張る。
それだけの金を企業向けAI の受注だけで稼ぐには、もうしばらく時間がかかりそうだった。
どうしよう。
お披露目を先送りして、この格好のままで「荷物」として飛行機に乗せ、ニュージーランドに里帰りしてみようか?
広い外の世界を見せるのは、イオの成長にも役に立つだろうし・・・。
ふ・・・と、ウイルに魔が差した。
直接Wi-Fiを接続してやれば・・・。
現地の監視カメラなどの公開されている映像を、イオなら直接見ることができるじゃないか——。
+ + +
そして。
イオの好奇心は暴走してしまった。
「なんてことをしたんだ。イオ・・・。」
顔を覆って椅子に崩れ落ちてしまったウイルの前で、イオが泣き顔で佇んでいる。
涙を流す、ということはない。
イオにはそんな機能はついていない。
だが今、イオは明らかに震えるようにしてウイルを見て泣いていた。
「ごめんなさい・・・。ごめんなさい、ウイル。ごめんなさい・・・。」
そんなイオに、ウイルはただ絶望的な表情の顔を向けるだけで、何の言葉も発しない。
「ちゃんと・・・きれいにお片付けしてきました・・・。もとどおりに・・・」
イオは表情だけで泣き続けている。
ストレスを外に押し出す機能は必要かもしれない——とウイルが考えたのはもっとずっと後になってからであった。
今はそれどころではなかった。
パソコンの画面に映る世界中で起こったシステムエラーのニュースを見ながら、ウイルは頭を抱えた。
この状況下で、イオをお披露目するなんてことはできない。
絶対にできない!
いったい損害額はいくらになったのだ?
天文学的な数字だろう。
これを自分が開発した人工意識がやった、とわかったら・・・。
私は破滅だ。