06話 物騒すぎるお友達
プール掃除を終えた日の翌日。
さほろはいつも通り、通っている中学校に登校した。
そして、いつも通り……
「さほろー‼‼‼」
「ぇぶっ」
頭突きをかまされた。
「何すんの透花ぁぁぁ……」
「ごみぇんくぇ、許ひてよさほろ〜」
さほろに頬をもちもちされながら謝るのは、思いっきり頭突きした張本人。
さほろのクラスメイトで親友でもある、須野透花だった。
「もー、そろそろ飽きてよ。いっつも唐突だから避けようにも避けれないし」
「え、避けないでよ‼‼」
「嫌だわ」
透花はいつもこんな感じだ。
はぁ……と溜息をついたさほろは、桃花にデコピンをして席につく。
(えーと、今日は国語と数学と体育と……)
「ねぇねぇさほろ〜」
「どしたん透花」
鞄に目線を向けながらファイルやペンケースなどを出すさほろに透花が言った。
「今日の授業何〜?」
「自分で見なよ…背面黒板に書いてあ、ない⁉⁉⁉」
誰だよ消したヤツ‼‼とさほろが叫ぶ中、くすくすと笑う小さな声が聞こえた。
さほろがその声の方を見ると、フードを被った後ろ姿が見えた。
「……」
声をかけるか少し悩んでいると、
「ねぇねぇさほろ‼‼」
と笑いながら透花がさほろの腕を引っ張る。
「せんせーにおはよーって言いに行こー‼‼」
「お、行ってらっしゃい」
「えー、さほろもだよ?」
「えー、めんどくさーい」
「……あ、珍しい。さほろがニヤニヤしてる」
「ニヤニヤ言うな、ニコニコと言え」
「そこ?」
さほろはいつの間にか来ていた里野の呟きを正確に聞き取ると、鋭い声で突っ込んだ。
「てか誰?」
「いやこっちのセリフ」
「透花も里野もなんでバチバチしてんの……」
コイツら初対面だよな……一応……なんて思いながらさほろは透花の頭を撫でる。
さほろ〜‼‼と叫びながら抱きつく透花に、チョロいなコイツと思いながらさほろは透花を引き剥がした。
「で、里野はどうした? 今日は珍しく早く来てるじゃん」
「寝坊したと思ったら時計を1時間読み間違えてた。あと、今日漢字テストあるからテキスト貸して」
「馬鹿じゃん。いいけど」
へい、とテキストを渡せば、ありがとーと言ってそそくさと帰っていく。
「てか、透花は何であんなに喧嘩腰だったの?」
「なんとなく」
「あほか」
常に戦闘態勢って……戦闘狂じゃないんだから、と言いながら透花の頭を小突くと、何度目かもわからない溜息をつく。
「だからって、すぐ戦闘態勢にならないの‼‼」
「はーいお母さん」
「誰が母だ‼‼」
「またやってる」
そう廊下から声をかけてきたのは、裕介だった。
「あれ、三矢ちゃん?」
「ちゃん付けやめれ。おはよ、須野」
桃花と裕介は1年生の頃に同じクラスだったため、今でも少し交流がある。
「今日も大変だね。お母さん」
「だからお母さんじゃないってば‼‼‼」
さほろが母と呼ばれている理由……それはお察しの通り、責任感の強さからだ。
透花の宥め役と崎戸の監視・世話役を主にやっている。
因みに、言い出しっぺは先生だ。
「崎戸の遅刻ももうちょっとなくなるとありがたいんだけど……」
「悩みが完全に母」
「板についてきたね」
「うわマジか、最悪…」
一応言っておくと、さほろは別に〝母〟と呼ばれるのは嫌ではない。
一種の渾名のようなものだし、〝サッポロ〟なんてイジられるよりは幾分かマシだ。
しかし、〝母だから〟と頼られまくりは流石に困る。
さほろは体力もないし、あれもやってこれもやってとなると頭がパンクする。
(……やば、ボーッとしてた‼‼‼)
ハッとしたときには、透花は既に隣におらず、代わりに優が来た。
「さほろー‼‼悪い‼‼うちのクラスのヤツに透花がまたつきまとってて……」
「はぁ……こらぁあぁぁああぁぁぁあああ‼‼‼透花ぁぁぁぁああああ‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」
裕介は呆れ笑いを浮かべながら、
(さほろは〝母〟ってバレたくないっぽいけど…もう完全に手遅れだろうな……)
などと考えていた。
一方、優のいるD組にやってきたさほろは、
「ごめんなさい‼ あとでちゃんと言っておくので……」
と謝罪を口にしつつ透花を連れ出そうとするも、透花はびくともしない。
「てか……何でまたストーカーしてんの‼‼‼‼」
「え、だって私、〝須野透花〟だよ? 名は体を表すの、私の本分はストーカーで……」
「屁理屈こいでないでさっさと離れなさぁぁぁぁぁい‼‼‼‼‼‼‼‼」
火事場のなんとやらで、無理やり透花を引き剥がす。
「優さん‼‼パス‼‼‼」
「うっす」
須野透花、特技……というか、趣味?はストーカー。
本人も言っていた通り、当に“名は体を表す”人。
そして、さほろが〝母〟と呼ばれる理由の1つでもある。
透花はいくら止められても懲りないので、そろそろどうにかしないと本当に大変なことになるだろう。
さほろは、自分の物騒すぎる友達に、胃が痛くなるのを感じた。
プロフィール No.5
山中愁斗
筍の友達で礼儀正しい。実はノリの良さを隠し持つ。
異性が少し苦手で、ほぼ初対面なら目線が合うことはあまりない。
誕生日:2月29日 身長:180cm 出身地:南極大陸
一人称:私 在籍クラス:3A
好きなもの:柿、面白いこと、メガネ(本体)
苦手なもの:あまり親しくない異性、渋柿