05話 掃除だ!!差し入れだ!!!中学3年生だ!!!!
「んーっ、疲れたぁ」
「だなー」
ぐぐっと伸びをするさほろ、呟きを肯定する優、びしょ濡れの男子勢。
流石に盾を持っている上に高いところにいる女子2人には勝てなかったようだった。
「空地、難波、お疲れ」
「あ、先生」
普段は上下ジャージの先生が珍しくスーツの姿で来た。
(……あぁ、そういや出張って言ってたっけか)
教師の出張事情はよく知らないが、それにしてもスーツとは違和感がある。
(……なんて口が裂けても言えないなぁ……。流石に失礼だし)
そんなさほろの思案も知らず、先生は持っていたビニール袋を漁りだした。
「ほら、差し入れ。お疲れさん」
「あ、清涼飲料水だ。ありがとうございます」
センスいいなぁと思っていれば、
「夏のプール掃除と言やコレだろ? 青春だよなぁ」
と先生が得意げに言う。
ジジくさいよ先生、という言葉は一口分の清涼飲料水と共に飲み込んだ。
「崎戸、新村。あと……里野と山中、三矢か。お前らも……って何でそんなびしょ濡れなんだ」
「ちょっと戦争をしてまして」
「なんて????」
裕介の簡潔すぎる状況説明に、先生はよく意味を理解できず。
まぁそりゃそうだよなと思いながら、もらった差し入れをもう一口飲んだ。
「……あれ、先生はコーヒーなんだ。ブラックだし」
「大人なんでな」
「おい新村‼‼敬語‼‼」
さほろが慌てて言うと、先生はけらけらと軽く笑って、いいよ別に、と言った。
「先生ー、これ温いでーす」
「先生ー、僕はこれよりエナジードリンクが良かったでーす」
「先生ー、俺アレルギーなのでこれ飲めないでーす」
「うるせぇ文句言うな‼‼‼崎戸はごめんな‼‼‼」
「怒りながら崎戸には謝ってる……」
「何この状況。面白すぎんか」
プールサイドに座り、男子らと先生がわちゃわちゃしているところを見守る。
めちゃくちゃ微笑ましい。母ってこんな気持ちなんだろうか。
「崎戸はブラックコーヒー飲めるか?」
「飲めます。徹夜のときの必需品ですよね」
「お前は早く寝て、遅刻せず学校来い」
「先生、もっと言ってやって下さーい」
「さほろ⁉⁉⁉」
崎戸の焦り具合を見て優と共に笑いながら、さほろはまた差し入れを飲む。
「あーっ……疲れたぁ」
プールサイドで寝転び、目を閉じる。
纏わりつくような暑さで寝れる気もしない。
寧ろこんなところで寝ていたら焦げてしまいそうだ。
「あーあ、受験なんて滅べば良いのに」
「え、急に超物騒なこと言うじゃん」
優が頭でも打ったか?と心配そうに聞いてくる。
流石に酷くないだろうか。
「一生遊んで暮らしてたーい」
「はは、それはそう」
里野も笑いながら言った。
「家でずっと寝てたい。偶にアニメとか漫画とかでのんびりしたい」
「わかる」
崎戸は心の底から同意するような声を出した。
「はぁー……中3なんて不便だぁー」
むくりと起き上がれば、うんうんと頷く裕介と愁斗が見えた。
「……ほら、掃除は終わりでいいからそろそろ帰れ」
「え、でもまだ泥とか流しきってないです」
さほろが焦ったように言うと、
「あとは先生がやっとくから」
と先生が言った。
「それより明日、遅刻すんなよ。特に崎戸」
「崎戸、名指しされてんじゃん」
「流石は常習犯」
「ヤメテ⁉⁉⁉」
里野と愁斗がイジると、崎戸は叫んだ。いつものことだけれども。
「さほろ、先生もこう言ってるし、お言葉に甘えて帰ろう」
「ん、わかった」
裕介に言われ、さほろは腰を上げる。
「新村たちもいくよー」
「おう‼」
「疲れたぁー……」
新村や愁斗たちもプールから出た。
荷物を持って、世間話をしながら校門へと足を進める。
「それにしてもやっぱ暑いなぁ……」
「俺はそうでもないな」
「僕も。さほろに思いっきり水かけられたしね」
「ごめんて」
「あ、俺これから塾だわ」
「マジか難波さん、よくそんな体力残ってるね……」
「崎戸は満身創痍すぎ」
「てか崎戸が1番濡れてるじゃん。大丈夫そ?」
「大丈夫、上手く行けば風邪ひけるかもしれない。そしたら合法的に学校も休めてゲームもし放題……」
「寝ろ病人。まだ違うけど」
「てか崎戸って、なんだかんだ病気しないよね。何でだろ」
「じゃあ風邪の心配はほぼないな。明日、崎戸に鬼電してやろうぜ」
「モーニングコールだモーニングコール」
「余計なお世話ですが???????」
「遠慮すんな」
「遠慮じゃなくて拒否なんよ」
「そういや、もう国語のテストってやった?」
「あ、やったよ。割と簡単だった」
「うち、この中学に通う人が言う〝簡単だった〟は信用してないから」
「わかる」
「里野も信用してないからな???????うちは知ってるぞ、里野は頭が良いこと」
「いや良くないって……」
「家帰ったら受験勉強とか嫌すぎる」
「それな。でもやらんとやばい……」
「ぶっちゃけ受験よりテストの方がやばいんだけど」
「完全に同意」
「そうか?」
「新村は口を慎め‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」
「俺らは大丈夫じゃねぇんだよ‼‼‼‼‼‼‼」
「酷ぇなぁ……」
飯メンはこんなことを話しつつ、暑さと荷物で重い足を前に出しながら家へと帰っていった。
プロフィール No.4
新村尊
一言で言うと人外。力が強い。
喧嘩を売ろうものなら一瞬で返り討ちにされる。
誕生日:6月23日 身長:172cm 出身地:日本
一人称:俺 在籍クラス:3B
好きなもの:食べられるもの、自分を楽しませてくれるもの、他人の絶望
苦手なもの:つまらないもの