14話 やらかし
そんなこんなで土曜日を迎えた。
さほろたちの学校で入学説明会がある日である。
この日は2限分だけ授業を行い、3限目にはさほろたち3年生が合唱を披露する予定だった。
未来の後輩が見に来る、ということで、クラスメイト共々に緊張が走る中、
「……………………はぁ~……………………」
さほろは撃沈していた。
そう、今日は飯メンで初の外食の日なのだが。
「今日っていう大事な日に財布忘れてくるとか、本当さほろっぽいなあ」
「…………やめて…………傷心中だから今…………」
普段は母と称されるくらいにはまともなのだが、大事なときにずっこけるのがさほろである。
「まあまあ、私はちょっとドジっ子なさほろも好k…………
「って、こんなことやってる場合じゃないんだった‼誰かに言っておかないと…………‼」
…………さほろぉ、無視やめて…………」
ガタッと立ったさほろ(としょぼくれながらついてくる透花)はまずA組に向かった。
「あー、山中と里野? 山中は先生の手伝いに駆り出されてったよ。里野はまだ来てない」
「そっか、ありがと」
続いてC組に向かう。
「三矢くん?まだ来てないよ」
「うーん、そっか」
決して早すぎる時間という訳ではないが、飯メンはまだ来てない人が多いらしい。
「ねぇさほろ、山中って誰?」
「今日一緒にご飯食べる人の1人。透花も会ったことあるよ」
「えっ嘘、いつ?」
「うちに猫じゃらし持って来たとき」
さほろが盾にした里野の盾にされかけたのが山中愁斗である。
「うーん、まだ来てない人多いし、一旦B組に戻るか…………」
さほろはそう言って3Bに戻ったが、まだ飯メンは誰1人来ていなかった。
「崎戸はまだしも、新村もいないもんなぁ…………」
「まぁ今日は土曜日で、休日ダイヤだし。いつもと登校時間はちょっとズレるよねえ」
「よし、D組にも行ってみよ。誰かいるかも」
ということで、今度はD組へ向かった。
「…………お、さほろ‼」
「優さん‼おはよー」
「おはよう。何だ、透花もいたのか」
「やっほー難波ちゃん‼今日もゴリラしてるね‼‼」
優はにっこり笑ったまま、透花の鳩尾を勢いよく殴る。
「ぐふっ」
「…………あー、ごめん優さん…………」
「いいよ。コイツ、初対面で俺をゴリラ呼びしてたから、慣れてるし。許してはねぇけど」
「マジでごめん」
そんで、どうした?と聞く優に、あー、とさほろが言った。
「今日のお昼ご飯だけどさあ、」
「待て、俺今日は行かないぞ?」
ゑ?と間抜けな声を出したのは、透花だった。
「あ、そうだった。塾の振り返りと被っちゃったんだっけ」
「おう、悪いな」
「いーえー。頑張って」
「えー何それ、知らなかったぁ‼」
一緒に行こうよ難波ちゃん~、と駄々をこねる透花を、煩い、と優が一蹴する。
「行けるなら俺も行きたかったよ。次の機会があったらまた誘ってくれん?」
「もち。てか飯メンでしょ優さん、絶対誘われるしうちらが誘うよ」
「ん、ありがと。…………あ、そうだ。透花も飯に入れるか」
「あ、いいね‼透花、スマホある?」
「え?」
「飯のグループチャットに入れるから、確認してほしくて」
「3秒待って、取ってくる」
びゅん‼‼‼‼‼と風を切って透花が走っていく。
そしてすぐに戻って来た透花の手には、スマホが握られていた。
「今は先生いないけど、バレたら怒られるから、こっそりね」
「うい」
「2人共、こっち入れ。今D組には俺以外誰もいねぇから」
「「はーい」」
D組の教室に入った3人は、しゃがんで手元を隠しながらスマホを点ける。
「…………よし、できた」
「できたってよ。透花、確認」
「ういっ」
透花がスマホを操作すると、すぐ顔を明るくさせた。
「入れたぁー‼‼‼‼‼‼‼」
「よかった‼」
「これで女子もさほろと俺と透花とで3人目か」
「うっそ、そんな少ないの? 飯メンジョッシーズ」
「「……………………ん?」」
「え? あれ?」
「透花、今何て言った?」
「〝え? あれ?〟って」
「違う、その前だよ」
「〝飯メンジョッシーズ〟…………?」
「え、ジョッシーズって何それ」
「〝女子〟の英単語が咄嗟に出てこなくて…………」
「……………………なぁ、それ〝ガールズ〟じゃね……………………?」
「「「………………………………」」」
数秒間の沈黙のあと、
「はははははは‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」
D組で大笑いをする3人。
「ちょっ、ジョッシーズって、何それ初めて聞いたwww」
「私も初めて言ったwww」
「流れるように新しい言葉を生み出すなwww」
一頻り笑ったあと、涙を拭った優が立ち上がった。
「はー、面白かった」
「だね。傑作だったなあ」
「…………なんか今更恥ずかしくなってきた……」
「今更かよ」
「あ、もうスマホ戻さんと。先生と鉢合わせでもしたらやばい」
「わっ、本当だ。じゃ、お邪魔しました」
「うい。今日、楽しんで行ってこいよー」
「「はーい」」
優の優しさが滲み出る挨拶で3人が別れる。
「いやー、やっぱ難波ちゃんって面白くていい人‼」
「そうだね。透花も入れれたしこれで…………って、うちが財布忘れたの誰にも言えてない‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」
「…………あ」
『飯』 現在:8人
空地さほろ、須野透花、難波優、里野筍、三矢裕介、新村尊、山中愁斗、崎戸真慈