12話 嫉妬とは(哲学)
崎戸の髪の湿気もある程度取れたので、さほろはタオルを丁寧に折り畳む。
その様子を見た裕介は、あれ、と呟くと
「そのタオル誰の?」
とさほろに聞いた。
「同じクラスの古山ってヤツから借りた。今は止んでるけど、今朝は雨降ってたじゃん?」
古山は教室に来るのが早いタイプなので、登校時はそこそこ強い雨が降っている時間帯だった。
なので、濡れた足や鞄を拭く用に持ってきたタオルの予備を貸してもらったのだ。
「事情を話したらすぐ貸してくれてさ。なんか責任感じちゃったみたいで」
「完全に崎戸の不注意なのにな」
「それな」
「傷を抉るのやめてくんない??????」
さほろと裕介の会話に崎戸が叫ぶ。
そのとき、崎戸にすっとタオルが差し出された。
「真慈、タオル。体も拭いちゃいな」
「あ、恭弥。あざっす」
「全く、気をつけなよ」
「はいっ」
裕介が
「おー、兄弟みたい」
と言う隣で、さほろはぽかんとしていた。
「…………さほろ?」
「なんで…………?どうやって…………」
ぎゅっと拳を握りしめたまま、さほろは崎戸と恭弥に詰め寄った。
「ねぇ恭弥……………………どうやって崎戸手懐けたん⁉」
今度は恭弥がぽかんとし、裕介と崎戸、そして里野がずるっとずっこけた。
「え、さほろ。そこ?そこなの?」
「え、何が?」
里野がさほろに言う。
「てっきり〝恭弥のときだけ崎戸が素直なのがずるい〟とかって言うかと思った」
「僕も…………。嫉妬の言葉でも来るのかなって」
「嫉妬って…………うちが、中尾に? 崎戸関係で? ないないないない」
「さほろ、それ地味に俺も傷つくやつだからな」
別に嫉妬されたい訳ではなかったが、こうもはっきりと、それも即答で拒否られると崎戸のガラスのハート(笑)が傷つくというものだ。
「今、〝嫉妬〟って言葉が聞こえたんだけど‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」
「何で来た⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉」
顔に〝面白そう〟と書いたまま目を光らせた透花が、教室から飛び出してきた。
「なんか面白そうな気配を感じた」
「お前もか古山‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」
古山もひょこっと出てくる。
暇人しかいないのか3B、という言葉を飲み込んだ里野が、反射で突っ込むさほろを落ち着かせる。
「で、どういう状況?」
「かくかくしかじか」
「ほへー」
流石、話がわかる透花である。
「あ、古山。タオルありがとう」
「良いってことよー」
知ってたけどいいやつだなコイツ、と思いながらさほろは古山にタオルを渡した。
「てか、さほろって嫉妬するの?同担大歓迎タイプでしょ?」
「へー、さほろさんって同担大歓迎派なんだ」
「そりゃまぁね」
最初こそモヤッとしたが、視点を変えもし同担がいなければを想像すると、あの神作品も神絵も生み出されなかったのだ。
そう思うと同担様々なのではという考えに2秒で行きついたため、同担大歓迎派である。
寧ろ推す人が増えてほしいと願っているくらいだ。
「まぁ推しに対してだったらあぁだけど…………嫉妬とか、人並にはするよ。それこそ透花関係とか」
さほろにとって透花は一番大切な友達であり、ストレートに愛をぶつけてくれる唯一の女子だ。
友愛とはいえ、いつも慕ってもらえるのは嬉しいものである。
「さほろ~~~~~っ‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」
「?」
透花が抱き着いたさほろに、里野が聞いた。
「じゃあ、みかさんにも嫉妬するの?」
「いや別に」
「透花に彼氏ができたら?」
「普通におめでたい。見る目あるなって思う」
「透花が他の人に抱き着いてたら?」
「和む。仲良いんだなぁと」
「嫉妬とは???????」
「哲学?」
思いつく限りのシチュエーションを持ってきたが、さほろはこの程度で嫉妬などしないらしい。
「ほんっっっっっとさほろってそういうとこあるよね…………」
「?」
透花が死んだ(生きてるよ by透花)。
「じゃあ逆に聞くけど…………空地さんが嫉妬するのってどんなとき?」
古山が聞いた。
「えーーー……………………っとーーー」
さほろがすっと目線をズラす。
「…………うっっっっっっっそだろ」
「まぁさほろっぽいけども…………」
「…………何でうち呆れられてんの」
嫉妬しないタイプだったか…………と古山が思っていると。
「でも、さほろはヤンデレわからせ監禁話とか好きでしょ?」
「大好き‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」
「癖が出てんぞ」
「さほろっぽいわマジで」
よくわかってんな透花~、とさほろが透花の頭を撫でる光景を見ながら、崎戸と里野が呟いた。
「…………どゆこと?」
唯一状況についていけていない古山が首を傾げる。
「あー…………古山、だっけ。お前って非ヲタ?」
裕介が古山にをう声をかけた。
「ゲームとかは好きだけど…………」
「おっけ非ヲタな」
さーてどこから説明しよーかなー…………と裕介が呟いた。