11話 終了10分前の話
「~……」
「うお、ビックリした。崎戸か」
1限終了後、が教室から出ると、同じように廊下に出てきた崎戸と遭遇した。
「今日も寝坊した?あと、いくつか突っ込みたいんだけど」
「寝坊はした。突っ込みはできれば言わずにいてほしい」
「……ごめん無理……………………どしたんマジで???????」
しんなりした崎戸がきゅっと口を噤んだ。
里野は遅れて教室から出てきたさほろに説明しろの目線を送る。
「先に言わせてもらうと、うちは何もしてないからね」
信憑性ないだろうけどさ、と言いながらさほろは手に抱えていた大量のプリント類を持ち直した。
「てか、さほろの持ってるのって……何それ」
「この崎戸から守りきったプリント」
「マジで何やった崎戸おい」
がしんなり中の崎戸に問いかける。
「さほろー‼‼言われた通り、布いっぱい持ってきたよー‼‼」
「うん確かに布持ってきてとは言ったけどなんで雑巾っていうチョイスにしちゃったのかな???」
透花が両手にどっさりと抱え持ってきた雑巾に、さほろが突っ込む。
「えーでも新品だと思うよ?綺麗だし」
「よーし透花、ゆっくり学んでいこうな。人の心と常識を」
「でもしんなり崎戸にすぐ渡せる布はこれぐらいしか…………」
「…………あ、しんなりって比喩表現や修飾語じゃなくて物理的になの?」
「床見てみ。濡れてるだろ」
「本当じゃん…………」
取り敢えずその雑巾は片づけてこい、とさほろは片手で透花の背を押した。
「……あっ」
さほろが両手でギリギリ抱えきれていたプリントの束を片手で支えていたため、プリントをバラまいてしまった。
「あああああやばいやばい先生から押し付けられt…………渡されたブロマイドが…………」
「押し付けられたんだ」
「まぁ要らんわな」
「1000円あげるって言われても要らんかも」
「恐ろしいことにこれ500枚の束が49個あるんだよね」
「てことは、24500ま…………
「言うな言うな」
だな」
「計算早かったね」
「これ1枚1円で売ったら24500円の収益が出るってこと?」
「全部売れたらの話だろ」
「あ、そっか」
「しれっと毒を吐くのやめなさい」
さほろはタオルでわしゃわしゃと崎戸の頭を拭きながら透花といつの間にかやってきた新村を止める。
「しれっと崎戸の世話焼いてるさほろもさほろだぞ」
「お、裕介」
呆れながら指摘した裕介は、
「んで、何やったん?」
と続けて聞いた。
「技術室行くまでに池あるじゃん。そこでね、見事なピタゴラスイッチが起きたんだよ」
さほろは尚も乱雑に崎戸の髪を拭きながら話し始めた。
「崎戸はアレか、〝いめちぇん〟ってやつか」
「違うし。イメチェンじゃねぇし、言えてねぇし」
「初めて外来語に触れる人の言い回しじゃん」
新村の言葉に崎戸が反抗、さほろが笑う。
「あ、そうだ崎戸。遅刻届、貰いに行ったんだろうな」
「行ったよ。この2年半、伊達に遅刻魔やってないし」
「反省して直す努力をしろバカ」
そのときだった。
「そこのいつメンのお三方、ちょっと手伝ってくれん?」
崎戸とさほろが振り向き、新村が爪先立ちをして見たその先にはクラスメイトの男子がいた。
「古山か。何の用なんだ?」
「珍しいね、そっちから話しかけてくるとか」
古山陽史は、普段はさほろたちと接点がない。
それでも声をかけたのは、ただ単に暇だったからという訳ではないだろう。
「実はさ、これ」
「?」
陽史は大量の紙をずいっと前に押しやる。
「うわ、紙多いな。どしたんこれ」
「先生に持ってくように頼まれたんだけど、この量があと4つほどございましてですね」
「あー、それを俺らに持っていけってことか」
「そういうこと。俺たち、1限は自習じゃん。だから、終了間際にこっそり教室抜け出して行ってくれって先生が」
「生徒に授業を抜け出すように勧める先生っているんだ」
「自習だし問題ないのは確かだけどな」
「待って今日の1限って自習だったの?」
「遅刻した人は知らなかったんだね可哀相に」
「思ってないだろ」
さほろ、崎戸、新村のサクサク進む早い会話についていけなくなった陽史は、
「じゃあよろしく~…………」
と言いながら気まずそうに去っていった。
「1限終了間際でいいっつってたけど、先に行っとくか?」
「えぇ、間際でいいなら間際でいいじゃん」
「だね。そもそも、まだ崎戸に怒り足りてないから。うち」
「ヒッ」
「じゃあいいか」
さほろの説教が始まりそうなそのときにチャイムが鳴ったため、3人はそれぞれ自分の席へ戻った。
「てなことがあったから、10分前くらいに3人で教室抜け出したんよ。3B出て、プリント回収するまではよかったんだけど…………」
さほろと崎戸が1束ずつ、新村は2束のプリントを持って技術・家庭科準備室から出た。
「まさか担任の担当教科じゃなくてシンプルな雑用だとは思わなかったな」
「しかもよりによって遠いところまで行かされる羽目になるとは……」
「むりおれねむい」
「崎戸、せめて運び終えてから寝ろ」
そんな会話の最中だった。
「……あ、床濡れてる」
「本当だ、池の水か? 気をつけろよ崎戸」
「んー……」
せっかくの新村の忠告も、半分夢の世界に行っていた崎戸には聞こえておらず。
「えっ」
「お?」
「あ……」
足を滑らせて崎戸がバランスを崩す。
さほろが咄嗟に手を出してプリントをばら撒く前に掴み、新村がさほろの襟元を引っ掴み2人は濡れることはなかった。
「あっぶな…………って、崎戸ー‼‼‼‼‼‼‼」
「盛大に入ったな、頭打ってないか?」
「…………寒い…………」
「という訳」
「人の話を聞いてなかった崎戸の自業自得ですね」
「辛辣すぎてつらい」