おやすみなさい
「ミカ、もう寝なさい」
この言葉を聞くたびに、ミカは嫌になってしまいます。
「ねえママ、本当に寝なくちゃいけないの?」
「何を言っているの?当たり前でしょう?さあ、早くお布団に入ってしまいなさい」
ミカは、寝るのが大嫌いです。正しくは、夢を見るのが大嫌いです。だって、夢なんてろくなものじゃないんですもの。それに、もっとやりたいことがあるのにどうして何時間も何もせずに夢を見るなんてことをするのでしょうか。
「本当に嫌。どうして寝なくちゃいけないのかしら」
目を瞑ると、昨日見た夢を思い出しました。ママに怒られた夢、友達に悪口を言われた夢……。またあんな夢を見るなんて考えるとぞっとします。
その時、どこかから声が聞こえました。
「あれ?あなたはいい夢を見れていないの?」
優しくて甘い、きれいな声。どこから聞こえてくるのかを不思議に思う前に、ミカはすぐに眠りについてしまいました。
気がつくとミカは、お花畑に立っていました。
「ここはどこ?」
そよそよと暖かな風が吹いてきます。何と心地よいのでしょうか。後ろを見ると、一人のかわいらしい女の子が立っていました。
「ようこそ!夢の世界へ!」
女の子は両手を大きく広げて、くるりと回ります。
「あなたは誰なの?」
「私?私は夢の配達人、リリアよ。あなたが寝るのを嫌がってたから、一緒に夢の中で遊ぼうかなって思ってさ」
「夢の中で遊ぶ?」
「そう!あなたは何がしたい?ここなら何でもできるよ!」
何がしたい……。ミカは魔法使いになることが夢でした。呪文を唱えてステッキを一振りすると、いろんなことができるのです。
「魔法が使いたいな。でも……できるの?」
「もっちろん!」
もうミカは大喜びです。将来の夢は魔法使いと言うと、みんなできないと笑いますが、リリアは子供っぽいと笑うことはありません。その上魔法が使えると言っているのです!
「魔法のステッキ出てこーい!」
リリアが人差し指をくるくると回しながら、元気一杯の声で言います。すると、いつの間にかミカの手はステッキを持っていました。
「それを持って、呪文を唱えてごらん」
呪文はどうしましょうか。うーんと考えます。そうだ、こんな呪文はどうでしょう。
「パタパタ」
そう唱えると、羽が生えて、体が突然軽くなりました。羽を動かすと、体がふわふわと浮きます。
「すごい!すごいよリリア!リリアもおいでよ」
「うん」
ミカはリリアと一緒に空の旅をしました。
「キラキラ」
そう唱えると、ステッキの先からたくさんのお星さまが出てきました。青空だったお空は、一瞬で夜空に変わりました。宝石のようにきれいな星々に、ミカはうっとりとします。家ではこんな景色見られません。
ミカはリリアと一緒に星に腰掛けました。
「リリアは夢の配達人なんだよね?じゃあみんなに夢を配っているんでしょ?どんな夢を配ってるの?」
「んーと、私はこんな感じできれいないい夢を配っているよ」
「でも、時々イヤな夢を見るよ」
「それはバクのせいだね」
「バクって?」
「夢を食べちゃうの。せっかく私達が配った夢を食べて悪い夢に変えてしまう」
それは困りました。バクのせいで悪い夢しか見られないなんて。
「魔法で倒せたらなあ」
ボソリと呟くと、リリアがハッとこちらを向きました。
「それだよ!配達人の私はバクを倒せないけど、あなたなら魔法で倒せるかも!」
いよいよ魔法使いらしくなってきました。ミカはわくわくしてきます。
「あっ、見て!バクが誰かの夢を食べてる!」
「あれは……ママの夢だ!」
大変です。大切なママの夢をバクなんかに食べさせるわけにはいけません。
「急いで行こう!」
羽を早く動かして夜空を猛スピードで進みます。
やっとバクの元に着きました。ママの夢をムシャムシャとゆっくり食べています。ミカはステッキを向けて、願いを込めます。
「ママの夢をたべるなぁ!」
ステッキから光が出て、バクにあたります。すると、バクの体が光り輝いて、砂粒になり消えてしまいました。
「やったぁ!リリア!バクを倒したよ」
「うん、すごい。すごいよ!バクを倒しちゃった!」
ミカとリリアは夜空を渡り歩いてみんなの夢を見に行きました。バクに食べられずに、幸せな夢で溢れています。
「これでもう安心だね。さあ、私たちも時間いっぱい遊ぼうよ」
太陽が昇って、ミカが目を覚ますまで、二人は楽しく遊びました。
そういえば、この夜、街の人全員が光り輝く二人の天使の姿を夢に見ていました。その天使たちのおかげで悪い夢がいい夢に変わったらしいのです。
「ミカ、もう寝なさい」
ミカはこの言葉を聞くたび、わくわくしてしまいます。
目を瞑ると、一人の女の子が現れます。
「ミカ!遅いよ〜」
「ごめんごめん」
二人の天使は今日は何をして遊ぶかを話し合っています。夜空の星々がとてもきれいに輝いていました。