【第五幕】
北海道へ飛行機に乗って向かいました。
思えば人生初めての遠征でしょう。ずっと地元に根を張ってのアイドル活動に邁進してきたものですから。
メテオシャワーフェス。
いろんなジャンルのアーティストが3つのステージに出演する巨大な音楽フェス。アイドルとロックバンドが融合するという類稀なる音楽イベントでございますね。私たちが出演するのはムーン・ホールとかいう200人規模の会場。
ここに登場するのはインディーズバンドから私たちのような地下アイドルなどメジャーシーンに轟いていないアーティストたちのようです。
そういえば、私たちはコノヒトさんっていう暗い色を持った感じの男性とコラボレーションするということがございました。
その事前打ち合わせで彼がやたら私に近寄ってきたのです。
「ねぇ、これからもユーチューブの撮影なんかでコラボしようよ?」
「それは私じゃなくて母に聞かれたらどうですか?」
「いや、僕は君のほうが話しかけやすい」
「迷惑です。執拗に迫られるなら運営に訴えますよ」
「おい、そこまで言うなよ」
「ちょっと、芽久が迷惑しているでしょ。控えてよ」
「ハイハイ。すいませんでした」
後で聞いた話なのですが、彼は異性を口説く事なんて普段はしない男だそうです。じゃあ何で急にそんな事をしたのでしょう?
『メルシィさんたちって双子ユニットだったかなぁ? 片方の陰キャなコがどうも妙な雰囲気を持っていてね。何かありそうな気がしたのね』
そう彼がラジオで熱く語っていたと吏愛さんから伺いました。
彼は歌手でありながらも、都市伝説やオカルトなどの研究を趣味としている者であるみたいで。
ええ。ドキドキしましたよ。
何か見破られているみたいで。
フェスの出演は大成功でした。でも特にこのフェスで盛り上がったのはサン・ホールとアース・ホール2組の大トリが中継を結んでコラボした時らしいですが。
「歌ウ蟲ケラと綺羅めくるが組んで歌われちゃあ、誰も敵わないよね……」
「吏愛さん、私たちが1番の話題になると思われていたのでしょうか?」
「そういう訳じゃないけどさぁ。せっかく掴んだ大舞台じゃんかぁ」
「ええ。そうだと思われますが?」
「だから注目されたいじゃない?」
「注目はされると思いますけどね」
「ツイッターをみてみなよ? 誰も私たちの事を呟いてなんかないよ?」
「吏愛さん、エゴサをされているのですか?」
「えっ? するでしょ? 普通?」
「いえ、私はそういうことってお時間の無駄かと思ってしまうタチでして」
「なんか前向きだか後ろ向きだか分からないなぁ。芽久ってさ」
「そうですか?」
「不思議には思うよ。毎朝骸骨の玩具に祈っているかと思えば、家族にすら敬語ばかりで話すし。でも私たちの成功は芽久の歌があってこそだしさ。でも、でも、私の記憶のなかにある中学時代までの芽久とはまるで別人なの!」
「吏愛さんは私の事がお嫌いなのですか?」
「嫌うワケないでしょ! 大好きよ! だけど何か変な気持ちになるの!」
そうですか、いや、そうなのでしょう。
私たちはどのような事があっても、血が繋がった家族なのですから。
「綺羅さん、ユイマールさん、歌がとっても御上手」
私はちょっと話題を逸らせます。
「うん。あとこの北海道限定版のカップラーメンも超絶美味くねぇ?」
「ええ。とってもおいしゅうございます」
このお姉様はとっても愉快なお姉様だと思います。
意外と協調性もおありの御方でもあります。
アナタはそんな彼女を大事にされていたのです?
甚だ疑問で仕方ありません。
ただフェス後のホテルでお姉様と過ごした夜はあっという間でした。
だけど、そのひと時のなかで私はある決意を致します――
さて、私たち一行が地元に帰った時にはもうメジャーレーベル各社から契約申込みが殺到していたみたいで。お母さまも対応に追われておりました。だけど私は地元に帰って開口一番にこう宣言したのであります。
「アイドルはやめます。勉強して、海外にでてみたいのです」
お母さまも吏愛さんもただ口をポカンと開けて言葉を失っておりました。
でも、それで良かったのです。
私は高校を卒業してアメリカに向かいました。数年後はアメリカの国籍を取り、アメリカの大学に進学させて頂きました。そして音楽関係の仕事に就きましたけど、ミュージシャンの裏方に励むお仕事です。決して目立つ事はありません。
そして私は街が夕闇に染まる時、地下深くにある教会へと足繁く通っております――
『ナンバーを言え』
『NAPAJ4567666ASU3210666』
『通れ』
人間や動物たちの骸がそこかしこに散らばれた床。
絶え間なく刻みこまれている血文字の羅列。
ああ、私は今日も私は祈りを捧げます。
私に起死回生のチャンスを与えてくれたお父様に。
私の替わりに生贄となって頂けたアナタに。
憎悪と感謝を超える想いを誰よりも深くこめて――
∀・)読了ありがとうございます♪♪♪本作はここで読み終えても構いません。だけどこの物語の真相を知りたいのならば次の最終幕を開いてどうぞ?