【第四幕】
私の歌声はそれなりに人を惹きつけるモノのようで。どんな人の歌声もその工夫でいくらでも魅力的にできるのですが、その人間が持つ潜在能力というモノはとても大事なモノでして。いくら努力しても「報われない」と感じる人はそもそもその分野が向いてないという現実に直面されているのです。
えっ? 血も涙もない事を言うなって?
私は当たり前の事を言っているのですよ?
自分がどんな適性を持っているのか?
それを見定める為に学校に通い、学習に励んで、自分自身の心と身体で見つけるモノなのです。ときにそれは他人が教えてくれる事もございます。でも、自分自身が何に心をときめかせるのか。それは自分自身でこそ感じ得るモノでありませんか。
考えないで下さい。感じるのです。
そう、ただし正しい理性と常識を身につけて。
ああ、今日も無事に学校が終わりました。
私には苦手な科目がないようです。
いえ、本当はどうだったか分かり兼ねますが。
少なくともどの科目も9より下の数値を記録しておりませんから。
ただ力を入れている科目があります。
英語ですね。
メルシィさんたちが世に躍動したとき、私たちは海外にも視野を広げなければと思うのですね。成功を納めたならばドンドン貪欲にいくべきなのですね。
私たちのお母さまはその意味でとても優秀です。
愛らしい見た目でお茶目なお姉さまの活かし方や私の才能から性格を客観的に分析され、どのような方向性でメルシィさんたちの活動を展開してゆくか。常日頃から真剣に手堅いマネジメントを施してくれました。
お蔭様で私たちの地下ライブはいっつも満席。予約を必要とされるほど。
ユーチューブチャンネルは10万人の登録者数を突破しました。
そして遂に願ってもないチャンスが訪れたのです。
「メテオシャワーフェス」
「ええ。これをキッカケにユーチューブの登録者増強は勿論、メジャーレーベルとの契約だって夢じゃないわ」
「すげぇ!!! やったぁ!!!」
「凄いお手柄ですね。お母さまの手腕が遂に実を結ばれましたか……」
「何を言っているの? ここまで私達がやってこられたのも芽久のお蔭様よ?」
「いいえ……私は……」
吏愛さんが私の背中を優しくたたきます。そしてこう言ってくれました。
「芽久が路上ライブを初めて、そこから全てが始まったでしょ。ウチらの楽曲の全てが芽久の作った歌。それが世間でウケたからこそ、最高のチャンスが掴めたって事でなくて? ま、私の可愛さもあってこそだけども?」
「そうよ。才能だけでここまでやれる事ですら珍しい」
「そうですか。でも私たち3人は家族で1つのチーム。それぞれが今、出来る事を最大限に頑張りましょうね。お母さま、吏愛さん、宜しくお願いします」
「芽久」
「はい」
「あなたって私が生んだ芽久よね?」
私はすぐに答えられませんでした。でも答えなくちゃいけません。
「はい。私の母は棚原曜子、ただ一人です。双子の姉は吏愛さん、ただ一人でございますよ」
「ううん。ごめんね。高校生になってから芽久は別人になったみたいだから」
目を閉じて首を横に振ったお母さまは何か迷いを振り払っているようでした。
私が目覚めてすぐに取り掛かった事は私が元々やっていた事。
夕焼けのオレンジに町が染まる時、ギター片手に歌を歌います。
ギターを弾くのはその時が初めてでした。
でも父が弾いている側で私は歌っておりました。
父の見様見真似です。ですがコレが思ったより上手くいったものでして。
ああ、やっぱり神様は私を見捨てなかったのです。
ああ、やっぱり私は夢を叶える為に生まれ変わったのです。
一人ぼっちの路上ライブ。
私の歌声に沢山のお客さんたちが集まってきました。
あ、そういえばその時にもいましたよね?
私のことを羨ましそうに睨んでくる御方が。
ええ。とっても気持ち悪かったですよ。吐いてしまいそうなぐらいに――
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