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5.ミミィさん

 

 ご飯の兎肉を食べ終えて満足したミミィさんは、ゴロゴロと喉を鳴らして俺の脚に頭突きをしてくる。


「イテッ、痛っ、いってぇ~! わかったわかったミミィさん」


 “寝ようよ”の合図だ。


 急いで着替えて寝支度を整えて一人用の狭い寝台に横になると、ミミィさんも寝台に飛び乗って俺の腹に着地。


「グヘッ!」


 そして、モゾモゾと俺の隣に寝そべる。寝台せまっ!


 窓から差し込む僅かな明かりでも、ミミィさんの毛並みの艶が分かる。

 俺がミミィさんの着地の衝撃を堪えつつ、背中や脇腹、尾の根元を撫でてあげると、気持ち良さそうに喉を鳴らし、やがて眠りにつく。


 ミミィさんの寝息を聞いていると、昔を思い出すな……。


 王都(ここ)から遠いド田舎のロックイドっつう村で、俺は天涯孤独になってすぐに成人の魔力検査を受けた。

 母は俺が幼い頃に亡くなり、親父と兄貴がいたんだけど、二人とも山の開拓作業中にモンスターに襲われて死んじまった直後だったな……。

 本当は楽しみにしていた成人の儀も、ほったらかそうと家に引きこもってたら、領主様の騎士に手を引っ張られて魔力検査に連れて行かれたっけ。

 で、魔力を持っているって判明してあれよあれよと王都行きの馬車に乗せられたんだっけ。


 今になって思えば――

 領民の中から王都で騎士になる人間が出れば、国から領主様に報奨金みたいなものが出るし、15年後にその騎士を領主家の騎士への『賜与(しよ)』を願い出ることも出来るから、王国全土でこの制度が定着したんだろうな……。


 訳も分からず一週間以上野営しながらの馬車旅で、領内から集められた同年代の平民でギュウギュウ詰めになって王都に向かったっけ。

 飯時と寝るときくらいはゆったりしたいと、みんなから離れた場所で休んでいたら、草陰で弱々しく鳴くミミィさんに出会った。黒くてちんまかったから石と見間違えたかと思った。


「ミィ、ミィ、ミミィ~」

「……なんだ猫か、ビビったぞ。」


 その時のミミィさんは生まれて間もないようだったけど、ガキだった俺の手に収まるくらい小さくやせ細っていた。

 近くに親が潜んでやしないかと、周囲を窺っても何もいないし、見張りの人も騒いでいない。


「ミィ~」

「なんだ、お前もひとりなのか?」


 俺も天涯孤独、この猫もたぶん親無し。俺に至っては、勝手に見知らぬ土地に連れて行かれる最中だ。

 とりあえず、俺の晩飯のうっすいスープに浸したパンをやったら、何とか食べた。

 もう要らないって素振りをするまで食べさせて、しばらく掌に載せて様子を見る。


「おい、猫さん」

「ミィ?」

「近くにアンタの親はいないのか?」

「……」

「いないんだったら、俺がこれから連れていかれる所に一緒に行くか?」

「……ミィ」


 ま、言葉が通じて意志疎通できているとは思わなかったけど、俺も寂しかったから「……行く」って事だと受け止めて、麻袋に隠して王都まで一緒に行った。で、今日まで20年以上一緒に暮らしている。

 あれよあれよという間に大きくなってしまって、毎日のエサ代が嵩んで思ったように金を貯めることが出来ていないけど、これはこれで幸せだなって俺は思ってる。


 いつもこんな感じで俺も眠りにつく。


 ……で、朝は――


「――ッ()ってぇぇええっ!」


 ミミィさんに噛まれて起きる。

 腕だったり太ももだったりふくらはぎだったり……。ミミィさんは俺の傷口から出た血をペロペロと舐める。

 ミミィさん用の飲み水を用意しても、朝は俺の血を欠かさずに飲む。痛いし止めて欲しいけど、これも20年以上続く日課となってしまった。

 不思議と毎日違う部位を噛むし、首とか死ぬような場所は噛んでこない。いい子だ。


「起こしてくれてありがとうな」

「ミィ」


 そして、俺は身支度を済ませて庁舎に向かう。


お読み頂きありがとうございます。

短編小説ですが、話数があります。

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