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恋人じゃなくて妹です!  作者: にとろ


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「妹と読書」

「お兄ちゃん、退屈です」


 俺が一人でリビングで読書をしていると茜がそんなことを言い出した。


「スマホがあるじゃん」


 身も蓋もない話だがスマホは非常に効率がいい時間消費ツールだ。あまり有意義なことに使う人はいないのだが、とにもかくにもスマホでSNSを見ていれば東側にあった太陽が気がついたころには西に沈みかけているくらいに暇つぶしは出来る。


「『お兄ちゃんと』一緒に何かしたいんですよ!」


「わがままだなあ……」


 俺は今読んでいる本の一巻を差し出した。『灼熱の家』というホラー小説だ。二巻以降はバトル小説になっているが小説を無理矢理続ければよくあることだ。探偵漫画がいつの間にかバトル漫画になっていることくらいにはよくあることだ。一巻は怖いので普通にホラーしているし面白い。二巻以降については賛否が真っ二つに割れている。


「私、本を読むと余命が縮むんですけど……」


「人間は息をしているだけでも余命は縮むだろうが……むしろ余命が伸びる方法があるとでもいうのか?」


 人間が未来に向かって進んでいるかぎり余命は短くなっていく。某探偵漫画のように気がついたら子供になっているようなことはあり得ない。


「ちなみに漫画じゃないですよね? 文字ばかりの本ですか?」


「ああ、挿絵もないぞ」


「うへぇ……活字は苦手なんですよねえ……」


「スマホをそれだけ見ているのに活字を否定するのか……つぶやいたーに流れているフォントと紙に印刷された活字がそんなに違うものか?」


 茜は理解できないようで本をパラパラとめくってぼんやりしている。フォント大手だって昔は写植屋だったわけで、突然デジタルデータのフォントに変わっただけでそこまで違うものだろうか?


「読み聞かせてやろうか?」


「私を幼稚園児扱いしないでください!」


 それでもスマホをしまって茜は本を読み出した。数ページめくる度にウトウトしているのが端から見ていても分かる。文句を言わなくなったので俺は五巻を読むのに戻った。


 少なくとも序盤は非常に評判がよかったのでそこでさえ挫折しているならその先を読むのは辛いだろうな。茜が机で本を読みながら寝ているが、どちらかというと寝ながら本を読んでいるといった方が正しい気もする。あまり乱暴な扱い方をして欲しくはないが、小説はだいたい既読で読み込んでボロボロになっているので気にすることでもないな。


 俺の読んでいる五巻の佳境に入ってきた。ライバルキャラと異能バトルが始まったが、もはやこれがホラー要素があったと言って信じてくれる人の方が少ないのではないだろうか?


「すぅ……すぅ……」


 テーブルの方から茜の寝息が聞こえてきた。どうやら暇つぶしには成功したらしいな。頭の下に置いてある本が1ミリくらいしか進んでいないことは気にしないことにしよう。


 そっと茜にタオルケットを掛けてやり、俺は続刊を読み始めた。しばらくしたところでガタッと音を立てて茜が目を覚ました。


「おはよう、よく眠れたか?」


「今何時ですか!?」


 俺は時計を指さした。時計は十二時を回ったところをさしている。


「うぅ……お兄ちゃんとの休日が……」


「まだ半日ほどあるだろうが」


 茜はスマホを取り出して何やら操作を始めた。本のタイトルを見ながら何かを入力しているようだ。


「その本に興味でも出たのか?」


 茜は首を振って言う。


「あらすじだけでも追っておこうと思いましてね、お兄ちゃんが読んでいる本ですし、趣味は共有したいじゃないですか!」


 それ自体は構わないのだが、あらすじをググるのを趣味を共有していると言えるのだろうか? 本の読み方なんて人それぞれではあるのだが、その読み方はつまらないような気がする。


「よしよし、把握しましたよ! 読書家のお兄ちゃんに合わせて私も読書家路線を進みましょうかね!」


 読書家はググった内容で本を語らないと思うのだが……まあ世の中には読んでいない本について堂々と語る方法等という本も実際にあるので案外そういう需要はあるんだろうな……


「お兄ちゃん! 私も読書がしたいのですがオススメの本とかありますか?」


「とりあえずコンビニでプリカを買ってくるのオススメ。専用端末でなくてもスマホで電子書籍は読めるしな」


「所有感がないんですが……」


「本は積み出すと切りがないからな、始めっから電子で集めてれば部屋が本で埋まるようなことはないぞ」


 書籍で部屋が埋まり徐々に放置していき、目をそらし続けてため続ける羽目になるからな。あと地味に紙は結構重いので集めると片付けるのが非常に面倒くさい。体が悲鳴を上げるような重さまで本を積むのにそんなに時間はかからない。何より……


「スマホなら読めるだろ? 活字が苦手ならフォントで読めばいい。俺にはその違いがイマイチ分からないんだがな」


「分かりました! ちょっとコンビニまで行ってきますね」


 そう言ってさっさと家を出て行った。俺はそれを見送って六巻を読もうかと思ったのだが、そこで一つ気がついてしまった。プリカで電子書籍は購入できるのだが、アプリ内購入が出来ないことを教えるのを忘れてしまっていた。そういえば最近になってどこもブラウザから買えという方針に変更になったことを伝えていない。


「ただいま!」


 あっという間に返ってきた茜に俺はアプリではなくブラウザで購入する方法を教えておいた。茜は『面倒くさいんですねえ……』と言っていた。


「よし! ギフト券も登録しましたし、何を買いましょうかねえ?」


「……」


「何を買いましょうかねえ?」


「……」


「お兄ちゃん! アドバイスをくださいよ! 私がすごくアピールしているでしょう!」


「本なんて表紙と解説見てビビッときたものを買えばいいんだよ。直感で選ぶのが一番の正解だよ」


「ではこの『妹と兄の禁断の関係』でも買いましょうかね」


「その本を買うと俺の前で宣言する胆力は素直にすごいと思うよ……」


 メンタルが鋼の妹を俺は呆れながら見ていた。結局、茜は楽しそうに電子書籍を読めていたので、やはり本に印刷された文字とスマホに表示されるフォンでは違うのかなと思った。

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