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恋人じゃなくて妹です!  作者: にとろ


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39/52

「幕間、妹の場合」

「うがああああああ!!!!」


 せっかく……せっかくお兄ちゃんのスマホへのアクセス権を手に入れたというのに! お兄ちゃんめ……初期化しましたね……


「はぁ……」


 ため息の一つも出るというものです。せっかく隙を見てお兄ちゃんのスマホに監視アプリを入れたというのに……


 ドン!


 思わず床をぶん殴ってしまいました、お兄ちゃんに聞こえないように壁殴りをしなかっただけマシですね。


「落ち着け……落ち着くんです私……冷静に、熱くなるとたいてい自爆しますからね、私の頭はクールなのです」


 大丈夫、お兄ちゃんのスマホデータはちゃんとクローンしておきました。あとはセキュリティを突破してアカウントや秘密のデータを解析するだけです。


「まあ、まともな解析法だと現実的な時間じゃ間に合いませんよねえ……」


 私が永遠に生きる者なら何の問題も無いのですが、あいにく私は定命の生き物です。一億年後に解読できる暗号は十分に強いのです。


 しかしお兄ちゃんも勘がいいですね、気づかないと踏んでいたのですが、あっさりバレました。やはりGPSの座標を常時私の元へ転送する設定がいけなかったでしょうか? GPSはバッテリーをバカ食いしますからね。


「今までのデータをまとめておかなきゃ……」


 見慣れたスプレッドシートにお兄ちゃんの情報を書き込んでいきます。さすがにそろそろ新しいネタも無いだろうと思っていたのですが、お兄ちゃんはつくづく私の探究心をくすぐってくれます。シートに発言の記録シートと、テキストデータをまとめていきます。この時間は私のささやかな楽しみの一部となっています


 その楽しみに新しい要素が入ろうとしていたのにお兄ちゃんの操作一つでおじゃんになりました。悔しいのはお兄ちゃんのせいだと分かっていてもそれをそのまま言ったらワタシの立場が不味いことになる事が確定していることです。後ろ暗いことでデータを集めたいのでやめてくださいとは絶対に言えません。


 お兄ちゃんを操るのではなく陰ながら見守る私としては正直に話すのは悪手でしかないのです。失敗しましたね……お兄ちゃんに正直に見守りアプリを入れさせてくださいとお願いするべきだったでしょうか? お兄ちゃんのことだから当然拒否するでしょう。そのくらいの反応は予想できる程度にお兄ちゃんと一緒に暮らしました。今ではなんとなくお兄ちゃんの意図を汲むことができます。


 だからこそ私は自由意志というものが憎いのです。お兄ちゃんが自由に動くことが、私の意に反して動くことが、お兄ちゃん自身でそれを決めていることがたまらなく悔しいのです。私の、私だけのお兄ちゃんが私の思い通りにならないのはどう考えてもおかしいとしか思えません。兄は妹を甘やかすものではないのでしょうか?


 耳を壁にピタリとつけてみます。何の音も聞こえません。もしも……もしもスマホのマイクが生きていたらこんなまどろっこしい方法ではない、直接的でクリアな音を聞くことができたはずなのです。なんなら美味いこと置かれていればカメラを使うことも可能だったはずなのです。それが全て破産です。


 私はいじけながらもまだチャンスはあるということを知っています。何しろ同じ屋根の下に暮らしているのですから……

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