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第009話「吸血姫とハンターの出会い」

「はぁ、はぁ、うぐぅ」


 吸血鬼であった神父を殺し完全に静まりかえった教会の中、俺は意識が絶え絶えになりながらも簡潔な治療を行い、何とか動ける状態にまで回復した。

 しかし、いつの間にか盛られていた毒がその効果を発揮し始めたのか、体が指先から徐々に痺れはじめ、呼吸も徐々にしづらくなる。

 普段ならいったん宿に戻り、解毒剤を打つのだが、どこかにとらえられ、何かをされている可能性のある彼女を見つけるまでは休むことも、戻ることも出来ないため、俺は足を引きずりつつも歩き出した。


「くそっ、レリック……どこに居るんだよ……」


 しかし、聖堂の裏、寝室、神父の自室と次々と部屋を見て回るが、レリックの姿は何処にもなく俺は途方に暮れていた。

 同じ場所を行っては調べ、戻っては調べてを繰り返すが、一向に成果は出ず、徐々に意識が無くなっていく。

 そんな状態だったせいだろうか、気づいた瞬間に俺の背中に鋭くて冷たい何かが突き刺さった。


「あ、ぐっ」


 瞬間、一気に突き刺された部分が熱くなり、刺されたと言うことを察した俺は振り返った。

 まだ殺していない吸血鬼が居たのかと銀槌を振り降ろそうとしたが、その姿を見た瞬間に、俺は瞬間的に銀槌を止めた。


「あ、ああ……」


 そこには俺の血が付いた刀を持ちながら、震えている一人の子供がいた。

 一瞬、この子供も吸血鬼と思ったが、俺の血が付いた刀に喉を鳴らすどころか、怯えていることから違うと言うことが分かった。

 ゆえに、このまま無視しして、レリックを探しに戻ろうと考えるが、この子供はレリックがどこかに連れていかれたところを見たかもしれないと考えた俺は、その体を壁に叩きつけ、この教会の地図を見せながら本気の殺意を子供に叩きつけた。


「クソガキ、死にたくなかったらさっきどこかに連れてかれた女の居場所を言え」

「あ、ああ」

「しゃべるんじゃねえ。そのナイフで印をつけろ」


 俺の脅迫に震えながら、ナイフに着いた血で印をつけた子供。

 その子供を離し、数枚の金を渡した。


「お前が一体何の用でここにいて、俺を刺したのかは知らねえが、死にたくなかったらこれを拾ってこのまま後ろ向いて散れ」

「え、で、でも、神父様が、刺せば、お母さんに合わせ――――」

「三度目はねえぞ。このまま後ろ向いて散れ。クソガキ」

「う、うう……」


 俺の本気の脅迫に耐えれなかったのか、子供は後ろを向くと、唇を噛みしめながら去っていった。


「くそっ、悪いことしちまったな」


 いくら気を失うまでの時間が短いとはいえ脅迫した上に泣きながら教会の外へ逃げていく子供の姿に罪悪感を感じつつも俺は、そのまま子供が記した部屋に入り、部屋の中を確認する。

 部屋の中を隈なく探すこと数分、本棚と壁の間に不自然に横に動かされた跡があることを見つけた。


「ふんっ!」


 ゆえに俺は本棚と壁を壊す勢いで槌を叩き下ろす。

 粉々に吹き飛ばされた本棚と壁。

 その奥には予想通り隠し階段があり、俺はそのまま階段を下りたのだった。


「どんだけの人間を食っていたんだよ」


 階段を下りるごとに感じる人間の死臭と腐敗臭に、この先にある光景を何となく想像出来つつ歩を進めた。

 そして、階段を下りきった先はやはり想像通りの光景だった。

 ここは恐らく奴らの生ごみの廃棄場所なのだろう。

 鉄の牢屋の中には腐った人間の死体から始まり、獣に砕かれたような人骨、中には血を吸われすぎてミイラ化しているものまであった。


「う、ぐっ、レリック……どこだ?」


 先の戦いの負傷と、毒による痺れと呼吸困難、そして周囲の腐敗臭で叫べなくなりつつも、俺は牢屋の中身を一つ一つ確認し、レリックの姿を探す。


「居ない……ここも居ないか」


 次々に牢屋の中身を確認するが、その何処にもレリックの姿はなく、俺は徐々に焦りを感じる。


「ここに……居たかレリック」

「…………」


 そして、何個目かの牢獄を開けた時、俺はようやく地べたに倒れているレリックを見つけた。

 今までとは違い、清潔感のある牢獄の端に血が入っている皿を見た俺は、レリックが血を飲むことを拒否していたことに安堵を浮かべる。

 しかし、俺は倒れているレリックの表情を見た瞬間に、一気に血の気が引くのを感じた。


「おい、レリック!

 しっかりしろ!」


 元から白い方だったレリックの肌は、一目で彼女の身に何かがあったことが察せられるほど青白いものに変わっていた。

 あいつら、俺のようにレリックに何か盛ったのか? いや、神父の言動からそれは無いな。となると……

 俺はレリックの胸元を見る。するとそこに何時もあったはずの銀の指輪が無くなっていた。


「くそっ、いくら血が飲みたくないからって自殺するかよッ!」


 指輪を飲んでからどれくらい経ったか分からないが、顔色を見る限りはかなりの時間が経っていることは確実だろう。

 ゆえに、レリックを助けるためにはもう手段も危険性も考慮する余裕はないと判断した俺は銀の小刀を手にし、レリックの胃をめがけてナイフを振り下ろした。


「う、ぐっ」


 瞬間、口から血を吐き出すレリック。

 そんな彼女を無視し、俺は彼女の切り口を大きく開き、胃から順番に中身を切り裂き、中身を確認する。

 肉の柔らかさと生暖かさ、血のべたつきに不快感を感じながら、彼女の体内にある指輪を探す。


「くそっ、どこにあるんだよ」


 悪態をつきながら、牢屋を探す以上の焦りを感じつつも、俺は指輪を探し続ける。

 その時、不意に長くボロボロな麻紐を見つけた俺は、それをそのまま引き抜いた。


「はぁ、はぁ、見つけた」


 胃液で溶けてしまったのか、以前よりもボロボロになった指輪は俺の手平に置いた。


「どうやら間に合ったみたいだな」


 顔色が徐々に戻っていくレリックに俺は安堵の溜息を吐く。

 だが、強い肉体を持つ吸血鬼で顔色が戻ってきたとは言え、かなり弱っている彼女を体力が戻るまでこの場所においておく訳にはいかないな。

 ゆえに、俺は彼女を抱きかかえ、宿に向けて走りだすのだった。


 俺とレリックが出会うのは、一か月前のあの時が初めてじゃない。

 レリックは忘れているだろうが、俺とレリックが初めて出会ったのは、二十年前、俺の故郷が吸血鬼たちによって滅ぼされた時だった。


 二十を超える吸血鬼たちは、夜、現れると同時に次々と人を殺しては血を吸い、死体を使って楽しんでいた。

 それは俺の家族も例外なく、俺の家族は捕まり、殺されては、その死体を弄ばれ、飽きたら残った家族を探して捕まえ殺して、また弄ばれを繰り返し、俺も今まさに殺される瞬間だった。

 多くの血を吸われて、短い走馬灯を走らせながら、自分の死を感じた俺は、憎々し気に吸血鬼を見つめていた。

 しかし、俺は殺されることはなく、その日偶々俺の村で買い物していたレリックによって助けられた。


 レリックは、今の時と同じ鉄扇を使用し、次々と吸血鬼を殺し続けた。

 そして、日が明ける頃には吸血鬼はレリックを除いて全員殺された。


「ねえ。そこの君、君の家族は……」


 レリックの気まずそうな声に、俺は小さく頷く。

 そんな俺の頭を撫でながらレリックは『そう。じゃあ、しばらくの間、この家から離れていなさい』と言い、当時彼女をハンターだと思っていた俺は吸血鬼の生き残りを探すのだろうと思い、そんな彼女の言葉に素直に従った。


「ねえ、君。こっちに来なさい」


 それからしばらくして、レリックの言葉が聞こえた俺は彼女のもとへ戻る。

 すると、シーツでくるまれた赤黒い何かが外に置いてあり、俺はこれが家族の死体であることと、彼女は惨殺された家族の死体を見せないために俺を家から離したことを察した。


「ほら、最後の挨拶をしておきなさい」


 彼女の言葉に頷いた俺は、そのまま手を重ね、彼女と共に家族に最後の挨拶をした。

 その後、彼女は小さかった俺の代わりに家族の墓を作り、俺の家族の墓を作り終えた後は他の家の人の墓も作った。

 そして、すべての家の墓を作り終えた彼女は、恐らく他の家から集めたであろう大量の食糧が入っていたバックと大量の金貨が入った財布を俺に持たせた。


「君、親戚とか居る?

 そうか……居ないか。

 じゃあ、近くの村までお姉さんが連れて行くけど、それで良い?

 それともこの村に残る?」

「近くの村に行く」

「そう、分かった。

 それじゃあ、一緒に行こうか」


 そう言って、俺は彼女と共に数日かけて村へと向かった。

 今思えば、日中にも関わらず、俺と共に行動してくれた彼女はかなり無理をしていたのだろう。

 しかし、見知らぬ子供であった俺のために、彼女は特に文句も言わず、俺を村まで連れていくとその村の村長に吸血鬼に滅ぼされた村の生き残りだと伝え、その村長に俺を託し、彼女と俺は別れた。


 その後、子供のいない村長の養子となった俺は、老いた村長の代わりに山で猪や鹿を狩ったり、山菜を取ったりしながら、彼の子供として日々を過ごした。

 穏やかな日々を過ごしていた俺だが、吸血鬼に対する憎しみは消えず、あの日のことを思い出すたびに、その憎しみは強くなっていった。


 だからだろう。

 村長夫妻を看取り、葬儀が終わった後、俺は吸血鬼ハンターとして生きることを決め、村を出た。

 今までの村とは違い、ハンターとしての日々は毎日死にかけるほどで、実際に訓練で何人もの同期が死ぬのを見続けた。

 その後、正式なハンターとして認められた俺は真っ先に俺を助けてくれたレリックの姿を探した。

 元々、復讐のためと言うのもあったが、一番は俺はレリックに礼を言うために、ハンターになったからだ。

 無論、ハンターでもなければ吸血鬼である彼女と俺が、出会うはずもなく、あらゆる吸血鬼ハンターのもとへ向かい、任務をこなしながら彼女の姿を追い続けた。


 そんなある日だった。

 突如、ある村に昔から生息している吸血鬼が居ると言う話がハンターたちに上がり、俺はその吸血鬼の似顔絵を見て驚愕した。

 何故なら、それは俺を助けてくれたレリックの姿であり、俺はその時彼女がハンターではなく吸血鬼だと知った。


 無論、最初は騙されたと思ったり、あの時俺を家族の死体から離れさせたのは血を吸うためかと思ったが、俺を助けてくれたこと、村へ向かう数日間俺を襲わなかったことから、俺は彼女は血を吸っていない吸血鬼なのかと思い始めた。

 ゆえに、他の全員の言葉を無視し、俺は一人で彼女の正体の確認と、二度とハンターに関わらせないために一人で彼女の元へと向かい、そして俺の予想が正しかったことを確信した。

 まあ、あの時と違って予想以上に口が悪かったことだけは想定外だったけどな。


 その後は、一か月ほど、レリックと共に過ごし、彼女に対する疑心感は今は完全に晴れた。

 正直言って、今もなお吸血鬼は憎い。

 でも――――


「……何で、そんなボロボロになってまで私を助けたのよ」

「理由なんてたくさんありすぎるから、ノーコメントでお願いするよ」


 初恋の相手で、命の恩人である彼女だけは、どんなことをしてでも護りたいと俺は思っているのだ。

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