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第008話「吸血鬼VSハンター その3」

「づぉぉぉおおお!!」

「う、ぐっ、づっ!!」


 血肉が舞い散り、骨が折れる音を鳴らしながらも一切止まることのない人間の拳の弾幕を私はもはや避けることも出来ず、受け止めるしか出来なかった。

 無論、その一撃一撃が人間にとってはどれほど強烈なものであっても吸血鬼である私には本来なら笑いながら反撃することが出来る程度のものだ。

 だが、しかし――――


「がぁぁぁああああ!!」


 血反吐を吐きながらも、一切止まることのない。お前を殺すと言うその雰囲気が私から反撃の一文字を奪う。

 上に、下に、正面に左右に、もはや技術も何もなくただ本能のままに放つ拳の乱舞。

 その全てが肉体の悲鳴を無視した一撃であり、運よく避けられた一撃は、コンクリートで出来た柱を破壊するほどの威力であった。


「ぐっ、がはっ」

「そこだ!」


 しかし、限界の肉体で全力で拳を放ち続けた結果か、人間の口から突如大量の血反吐があふれ、硬直する。

 その姿を絶好の好機だと判断した私は人間の眼球に向けて指の刺突を放った。


「ぐっ!」


 瞬間、柔らかい何かが潰れる音と感触が指から伝わり、硬直していた男の体が痛みで少し跳ね、その体を一歩後ろに下げた。

 眼球から離れた指先に付着する血。それを掃除するかのように舐め、その味を楽しむとこの好機から私は自分でも分かるほどその口の端を上げた。


「はっ!!」

「う、ごほっ!」


 続けて放った拳は、人間の腹を抉り、臓器が破裂する音と、血反吐の暖かさが私に快感を与え、脳天に優越感が満悦する。


「お前は先ほど言ったな。

 彼女の何が幸せで、不幸せかを決めるのは私たちではないだと。

 ああ、その台詞には賛同してやる。確かに私の言う彼女の幸せは彼女の幸せでは無いかもしれないな。

 しかし――――」


 指先が皮膚を突き刺し、肉と骨が貫くほどの力で拳を作り、肩に力を込める。


「それは彼女が死なないこと前提の話だろうがッ!」

「ぶっがっ!」


 拳銃の引き金を引くように肩を動かした私の拳は、男の頬肉を砕いた。


「生きていれば、死ななければ、彼女は必ず幸せになれる。

 だが、お前たちハンターが居る限り、その保証は無いだろうが!!」


 言葉と共に放つ拳の弾丸は、一発撃ち、当たるごとに人間の体を文字通り破壊する。


「お前ひとりが彼女の仲間になると言ったところで、それが何になる!

 お前がどれほど有名で、著名で、権力を持っていようが、一人の口で放つ言葉は全ての人間の耳には届かず、響かず、振り上げた拳は止まらない!

 そんなことお前も知っているだろうがッ!」

「――――」


 もはや気絶したのか、サンドバックのようにただ攻撃を受け入れる眼前の人間。

 無論、本来ならこのまま殺すところだが、それは奴の全てを否定してからだ。

 何故なら、そうでなければ私は奴の言葉が先に言った言葉を受け入れたくないがために、その命で口を封じたのと同じだからだ。

 ゆえに、致命傷になりつつも、決して死なないように手加減をしながら私は男を殴った。


「だからこそ、たとえ彼女に嫌われようが、望むまいが、私は始祖が彼女を長にすると決めた。

 一瞬の不幸を与えようが、彼女を殺させないと、我らの命をかけて護ると誓――――」


 う。と言う言葉は、突如動きだした男の手が、私の手首をつかみ、完全に停止させた。

 血だらけの男の体。それは一見すれば、死体そのものだが、その額に浮かぶ青筋と怒りの炎がこもった片目がそれを否定させた。


「何が護るだ!

 お前はあいつの命を護るために、心を殺そうとしているだろうがっ!!」

「うぐっ!」


 自分の額にひびが入ることすら厭わない男の頭突きの衝撃に私の口は強制的に閉ざされ、舌を噛み切らされた。


「俺はあいつが本当の吸血鬼にならない限り、俺はあいつの味方であり続けると誓った。

 だが、それは逆に言えば、あいつが本当の吸血鬼になった時、俺はあいつの敵になるのと同じで、そしてそうなったとき俺はあいつを必ず殺すだろうなあッ!」

「う、ぐぅ、な、ならば!!」

「だがッ!!」

「う、がはっ!」


 私の台詞はその言葉を放つ前に頭を抱えられ、自らの膝の皿を破壊しながらも放たれた膝蹴りで、無理矢理止められ、更なる連撃が私の顔面を吹き飛ばす。


「それはあいつの心を救うためだ!

 誰よりも人として生きたがっているあいつが本当の吸血鬼になって、その心が死ぬ前にあいつを楽にするための選択だ!

 お前みたいに、自分の都合で決めたものじゃねえんだよ!!」

「あ、がっ、がか、かか、くくく」


 楽にするための選択? 心を救うため? 何を恰好つけてものを言っているんだ? この馬鹿は。

 人間にとって重要なのは生命の維持。心の維持なんて生きるためには必要ない。

 泥水を啜ろうが、最愛の人間が死のうが、家族全員の血を吸って殺そうが、そんなもの慣れれば心は勝手に生き返る。

 そして生き返れば、また新しい幸せを見つけることが出来る。

 それこそ、始祖によって吸血鬼になり、家族全員を殺している私が新たな幸せを見つけたように。


「都合の良いおとぎ話だなッ!」

「うぐっ!」


 言葉を否定するように放った蹴りは、男の鳩尾を容赦なくうがち、悶絶させる。

 何度も殴り合った結果、気づけば周囲は互いの血肉と死骸であふれており、床すら赤に染まっていた。


 恐らく、もう眼前の男の肉体は限界を超えている。

 実際に、そろそろ聖水を渡す際にこっそりと盛った毒がその効力を発揮し、体に痺れと、息苦しさ。そして確実な死を男に与えるだろう。

 ゆえに、フラフラになっている男の拳を避けることなど赤子の手をひねるのと同じであり、自分の思い、そして彼女と共に歩む未来への希望を拳に、男の全てを否定する言葉を喉に込めた私は、男の放った拳を紙一重で避けた。


「お前は私を自分勝手な都合で決めたと言ったが、お前こそ彼女の可能性を自分勝手な都合で潰す気満々だろうがッ!」

「あ、がっ!」


 過去最高純度で放たれた拳は容赦なく男の脇腹を穿ち、その背中まで貫いた。

 ぼたぼたと、垂れる血に、傷口からあふれる臓器の数々。

 それは確実に致命傷であり、もはや、私の言葉すら否定する気力もないこの男はこれから死ぬまでの残り数秒を無念と後悔を抱いたまま死ぬだろうと、思っていたその時。


「ああ、そこは確かにそうだな。

 俺は俺の都合でそうなったとき、あいつの可能性を一切見ないで命ごと潰すだろうな。

 だがな……」

「なっ!?」


 一体どんな奇跡か動かないはずの体を動かし、先と同じように腕を貫いた私の手を掴んだ男は、私の足を蹴り、その体制を崩させた。

 一瞬で空中に浮かんだ私は倒れないように踏ん張るが、私の体は重力には逆らえず、そのまま地面に落下した。

 ゆっくりと、一メートルに満たない距離を落ちていく。だが、その程度なら、吸血鬼はもちろん人間だってそうそう死なない。

 ゆえに、この場で私を地面にたたき落とすのは、何か理由があるはずだ。と思った私はその落下地点に視線を移動させる。

 そこには想定通り、血で染まった真っ赤な床だけで、他には何もないはず……だった。


「やめろ、やめろ止めろ止めろ!

 離せ! 離してくれぇぇえええええ!!」


 私の視線の先、そこには血で隠蔽された銀槌があり、私の頭を潰さんとそこにあった。

 目の前に急遽死が存在したからか、懇願と停止の言葉がとめどなく溢れていく。

 しかし、眼前の男はそんな私の懇願を一切を無視し――――


「俺はあいつが真の吸血鬼になると言う可能性を一切信じていないんだよ!!」


 そんな男の決意のような叫び声が、私の耳に入ると同時に600年の私の人生は幕を降ろしたのだった。

あと3~4話で終わる予定ですので、最後まで良かったら付き合ってください。

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