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第004話「彼女が失ったもの」

 村に着き、宿屋に泊まったその翌日。

 日差しのきつさを感じながらも店が開くと同時に私とライトは買い物に向かった。

 とはいえ、元々買うものが少なかった私は早々に買い物を終わらてしまい、私はライトの買い物の付き添いをするのだった。


「えーと、残りは……銀と聖水か。

 レリックは日差しと教会はきついだろ?

 いったん帰るか?」

「あなたハンターなのに知らないの?

 日差しは確かに吸血鬼にはきついけど、教会は別に弱点じゃないわよ」

「え? そうなのか?」

「ええ、吸血鬼にとって日差しは肉体を焼くものだから苦手だけど、教会は日差しになる場所も多いからむしろ快適な部類に入るわよ。

 あと、私は血を吸ったことないから分からないけど、死体から血をたくさん吸えるからそういう面でも快適な場所だと思うわよ。

 まあ、教会に日差しがあっても、教会の外には墓とかそういうものしかなくて日差しが少なくて昼間の移動には不便だから住居には向かないのじゃないかしら」


 実際に昼間に自分が住んでいる居住地をハンターに壊されて日差しで死んだ吸血鬼がいるなんて笑い話が存在するくらいだし、吸血鬼に取って教会は万が一の場合の緊急の避難所と言う認識だ。


「そうだったのか。でも、日差しがきついことには分からないんだろ?

 それなら、やっぱり一度戻るか?」

「別にフードも被っているし、それにさっきも言ったけど、教会に行けば体を休めるうえに、教会は近いから宿屋に戻るのも戻らないで教会に居くのもそんなに変わらないから気を使わなくて良いわ」

「そうか、ならすまないけど最後まで付き合ってくれ」

「ええ、良いわよ」


 そう言って、私はライトと共に並びながら教会へと向かうのだった。


「それじゃあ、買い物しているからしばらくの間、待っていてくれ」

「はいはい、待っているから。いってらっしゃい」


 教会へつき、神父へ一言二言話したライトは私への返事を聞くと神父と一緒に何処かへと向かった。


「はぁ、やっぱり疲れるな」


 こんなに長い間外に出たのは久々だからか、私は疲れを渡すように壁に寄りかかり、そっと目を閉じる。

 そう言えば、私が死んだときに目覚めたのもこんな教会だったな。

 当時はこんなに大きなところでもなければ立派な建物でも無かったけど、それでも……


「はぁ、気分悪い」


 吸血鬼は平気でも、目覚めて真っ先に地獄のような光景を見た私にとっては教会はそれらを思い出すかなり嫌いなところだった。

 でも、それでもここに来たのは単純に何時か敵になるかもしれないライトに弱いところや、苦手なものを知られたくなかったからだ。

 だから、日差しで疲れていても、教会と言う嫌いなところへ行くことを受け入れた。


「ん?」


 そんなことを思い、過去の地獄の光景を思い出さないようにひたすら気持ち悪さも一緒に我慢していたからだろうか。

 不意に服を引っ張られるのを感じた私がその先を見るとそこには小さな子供が居た。

 私をじっと見つめる正面の瞳。その瞳は助けての一言に満たされていた。

 周囲に親がいないかどうかを確認するが、子供の親らしきものはおらず、むしろ周囲には私しかいなかった。

 清潔な服を見る限りは捨て子や親から逃げた類じゃないことは分かるけど……

 はぁ、面倒くさいけど、この教会の孤児じゃない可能性もあるし、そうだったらこのままにする訳にもいかないか」


「どうしたの? お父さんとお母さんとはぐれたの?」


 私の言葉に大きく頷く子供。

 やっぱり迷子か。


「それじゃあ、家の場所は分かる?」


 次の言葉に首を左右に振る子供。

 家は分からないか。ちょっと面倒だな。


「お姉ちゃん。今、お友達との買い物の途中で、もう少ししたら買い物が終わるの。

 そしたらお友達にお願いしてぼくのお父さんとお母さんを探すからそれまで待ってもらって良いかな?」


 また再び大きく頷く子供。

 そんな子供の頭を私は優しく撫でた。


「良い子。それじゃあ、お姉ちゃんの友達を待っている間、お姉ちゃんと一緒に遊ぼうか」


 私の言葉に今まで以上に大きく頷いた子供の手を引きながら、私は面倒くさいなと思いながらも外へと出るのだった。


「聖水に、銀に、あとはこれで十分ですかな?」

「ああ、問題ない。代金を確認してくれ」

「はい。分かりました。少々お待ちください。

……はい、数え終わりました。それでは、こちらをどうぞ」


 袋に包まれた商品を年老いた神父から受け取った俺は、神父に軽く頭を下げると、レリックの元へと足を向けた。


 レリック・アーカード。

 吸血鬼の姫と呼ばれ、傍若無人なその女は、吸血鬼だけではなく、多くのハンターを退け、殺してきたと言われてきた。

 そんな彼女の噂を知った時に俺が真っ先に思ったのは、信じられないだった。

 何故なら俺は昔、彼女に――――


「もう……がい……はやい」


 教会のロビーに出た俺は、レリックが居ないことに一瞬驚いたのだが、その瞬間に外から漏れる声に安堵し、俺はそのまま外へと向かう。

 するとそこには――――


「ほら、そんな早く走らないの。

 あと、墓石をそんな風にして遊ばないの。ここには人が寝ているんだから静かにしてあげないといけないでしょ」


 小さな子供とかけっこをして遊んでいる彼女が居た。

 その姿はあまりにも清々しく、楽しげで、日常を謳歌している女性の姿そのものであった。


「なかなか、美しい光景ですな」

「そうか。俺はむしろ逆の光景に見えるよ」


 まるで何か尊いものを見ている神父の言葉。それを聞いた瞬間、俺は即座にその言葉を否定する。


 同居を開始して、一か月。

 彼女の日常を見るたびに俺が思うのは彼女はどれだけ吸血鬼と言う存在から奪われたのだろうの一言だった。


 寝ているときに偶にこぼす苦しそうな寝息。

 本を読むときも、文字を一切読まずにむしろ何かを思い出しては唇を噛むその表情。

 今日も、否定こそしていたが、買い物で幸せそうな家族を見るたびに、彼女はどこかそれを羨ましそうに見ていた。


 家族を作り、幸せな家庭を過ごし、そして家族に看取られると言う本来だったら得るはずだった人としての平凡で幸福な人生。

 それらを奪われた彼女にとって、日々の日常は地獄なのかもしれないと思い始めた今、この平凡な光景は何処か彼女が奪われた幸福の代替行為にしか俺には見えなかった。


「そうですか? 彼女は笑うときはいつも仮面を被った笑顔をしているのですが、今はそれが無い笑顔を浮かべている。

 そんな彼女の姿はこの世のどの姿よりも美しいのですよ」

「…………」


 何だ? この神父。

 確かに彼女の美貌は絶世と言っても過言じゃないと思いはするが、だとしてもここまで、それも生涯独身を貫いている神父が入れ込むか?


「彼女とはそれなりに長い付き合いなのか?」

「いいえ、彼女とは昔少しだけ付き合いがありましたが、その時も会話どころか目線を合わせたこともなかったですし、実情は私が一方的に彼女を知っているだけですよ。

 それに彼女はあの通り一目見たら忘れない容姿ですし、最近美人なお嬢さんが来たとこの村では、有名なほどで、彼女が外を歩くだけでそこら中に噂になっていましたから。

 実際に今日も買い物の際にあなたと一緒に居て、ついに彼女に相手が出来たのかと噂が出たほどですから」

「そうか」


 だとしたら、そこまで不思議じゃないか。

 まあ、俺も目立つ方だし、そんな俺が彼女と並んで歩いていたらより目立つか。


「さてと、おい、君」


 会話が終わり、昼食になり始めたころに、不意に神父が隣をすれ違ったシスターに手を招く。


「は、はい。神父様何かありますでしょうか?」


 すると、急に呼ばれたことに驚きながらも、この教会の風習か、即座に膝をつき神父に祈りを捧げるポーズをシスターはする。


「いえ、そろそろ昼食の時間なので、彼を呼んでください。昼食にしましょう」

「は、はい。分かりました」


 なんでこのシスターはこんなに震え……いや、喜んでいるのか?

 食は人間の楽しみの一つとされているが、肩を揺らすほど喜ぶか?

 まあ、相当な食道楽で、相当腹を空かせているなら分かるが、その割には彼女はそんなに太っていないし……

 次々と頭の中で疑問が浮かびながらも、その答えが出ないことにもやもやしていると、不意に神父が俺に声をかける。


「そうだ。折角ですし、彼女含めて昼食を一緒にしませんか?」


 神父の提案。普段の俺なら特に理由もない限りは一緒にするが……


「いや、彼女を随分待たせているし、今回は遠慮させてもらう」


 俺の言葉に、一気に意気消沈をする神父。

 そんな神父を見たのか、さっきまでレリックと遊んでいた少年を連れたシスターが、何事かと大げさに声をかける。


「いや、何でもないですよ。

 ちょっと昼食の誘いを断られただけですから」


 その神父の言葉を聞いたシスターは、さっきまでの喜びを一気に消し、断ったにも関わらず、せっかくだから昼食を食べようと誘ってくる。

 それこそ、命を懸けるほど必死に。


「シスター。そんな無理矢理誘ってはいけませんよ。

 さ、君も手を洗ってくださ……と、その前に、遊んでもらった彼女にお礼は言いましたか?」


 よほど神父を尊敬しているのか、その一言の制止で、俺の誘いをやめ、一気に意気消沈するシスター。

 そんなシスターと同じように、神父の一言で、レリックと遊んでいた時とは反対の暗い表情のまま、彼女に向けて手を振る少年。

 そんな二人の様子に更に頭に違和感を抱きつつも、それに満足な回答が出来ないでいながらも、俺は何もすることが出来ず、ただただ二人を見送るのだった。

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