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第003話「一か月たってもそんなに距離が縮まらない二人」

 同居開始してから約一か月。

 ライトもこの生活に慣れてきたのか、私が文句を言うような言動をすることも、掃除のミスもなくなり、また屋敷の構造も把握し、迷うこともなくなった。

 対して私の方も彼との生活に慣れてき始め、食卓などで彼が居ても特に気にすることもなくなり、また彼が食事を出しても迷わずに食べれるようになった。

 強いて言えば、彼が掃除を協力することで夜に暇な時間が出来てしまったことだけが現状の悩みだが、それ以外は特に問題と言う問題はなかった。

 因みに彼が作る肉はまだ結構焦げ臭かったりしている。


 そんな日常を過ごしていたのだが、彼が以前大量に角砂糖を食べてしまった結果、予想よりも早くに在庫がきれてしまい、茶葉も含めて買い出しが必要になり、その日の夜、私は隣町へ買い物に行くために目覚めると同時に準備を始めるのだった。


「それじゃあ私は買い物に行くから。

 帰るのは二日後の夜になると思うからそれまでは自由に過ごして良いわよ」


 そして準備を終えた私はライトに言うとそのまま外へ出ようとするが、直後に彼に止められた。


「おいおい、買い物は別に構わないがまだ夜だろ?

 こんな時間に出歩くのは危ないだろ」


 はぁ、この人は本当に何のためにここに来たのか忘れたのかしら?


「それは人間の場合の話でしょ?

 私は吸血鬼なのよ。なら、たいていの人間は私を倒すどころか捕まえることすら不可能だから危ないなんてことはありえないでしょ。

 それに日が昇る前に村の近くの木陰に隠れて日が暮れるころに村に入った方が安全でしょ?

 だから出かけるとしたら夜に出るのが一番安全なのよ」


 まあ、多少なら日に当たっても特に問題ないが、日の光を我慢して早めに村に入るより、少し待って安全に村に入った方がましなので、私は買い物の際はいつもそうしている。


「ああ、言われてみればそうだな。

 だがな……お前のことは信じているが、万が一人を殺しかけたり、吸血なんてことは俺としては見逃せないというか……」


 まあ、そりゃそうでしょうね。

 いくら何でもまだ出会って一か月で、私が人間の血を吸ったことが無いことを知っているとはいえ、そう簡単に信じてもらえないか。

 出来れば、村には一人で行きたかったけど、まあそこまで言われたら断れないわね。


「分かった。あなたも一緒についてきていいわ。

 その代わり、あまり待つのは嫌だから支度は早めにしてね」

「分かった。俺の我儘を聞いてくれてありがとうな」


 別に気にしない。さっさとしろと手を振る私の姿を見たライトはそのまま後ろを向いて準備に向かうのだった。

 そして、待つこと数分。私の目の前には武器と皮の鞄を持ったライトが息を切らしながらやってきた。


「よし、準備終わったぞ」

「……ずいぶんと早かったわね」

「まあな! 流石に待たせるわけにはいかないからな。全力で準備したぞ」


 なんか私と戦った時よりも疲れているような気がするんだけど。まあ準備が早く終わる分には良いか。


「それじゃあ、さっそく行くわよ」

「おう!」


 そして、私たちは全力で隣村へ向けて走りだしたのだった。


「ふぅ、どうやら日の出前に着くことが出来たみたいだな」

「そうね。それじゃあ夕暮れまでここでしばらく待ちましょうか」

「ああ、そうだな」


 家を出てからおよそ数時間。

 空が明るくなり始めたころに、村の近くの大木に着いた私は大木に背中を預けるように座り、暇つぶしの本を読み始める。

 そして、そんな私に合わせるようにライトも私の隣に座り、自分の仕事道具であり命綱である銀槌の整備を始めた。

 穏やかで互いの息継ぎが聞こえるほどの静寂。

 そんな静寂に耐えられなかったのか。それとも暇だったのか、不意にライトは私に向かってしゃべり始めた。


「それにしても村には何のために来ているんだ?」

「基本的には紅茶用の茶葉と砂糖を買うためよ」

「茶葉と砂糖って、そんな金あるのか?

 レリック、お前仕事しているようには見えないんだが、大丈夫なのか?」

「ええ、少なくともあと千年分くらいの茶葉と砂糖のお金はあるわ。

 前も言ったでしょ? 私の家は名家だったのよ。なら、金だけじゃなくて歴史的な遺物も結構あるのよ。

 それを商人に売れば結構お金になるのよ。

 だから安心しなさい。誰かのものを奪ったものでもなければ、違法な方法で手に入れたものでもないから」


 そう言って私はジャラジャラと大量に金貨が入った財布をライトに見せる。

 それを見て安心したのか疑って済まなったという言葉を吐きながらライトは頭を下げるのだった。


 そして、それから適当に暇を潰したり、適当な一言二言の会話をして時間を潰すと、気づけば外は夕暮れになっていた。


「そろそろ時間ね。

 私は慣れているけどあなたはこの村に入るのは初めてだから審査されると思うけど、大丈夫?」

「ああ、問題ない。

 これでもハンターだからな。これさえ見せればたいていの村は顔パスだ」


 そう言って、ライトは胸にある牙のついた人間の頭に十字架がついた紋章付きの自身がハンターである証明書でもある銀のペンダントを私に見せた。


「そう、なら門が閉まる前に早く行きましょ」

「了解」


 そして、私たちは並んで歩きながら門へと向かうのだった。


「おーい、そこのご両人。そろそろ門を閉めるから来るなら早く来い」

「はーい、分かりました。ほら、ライト急ぐわよ」


 少し先で手を振る門番に同じく手を振って合図すると、私は夕暮れの眩しさと暑さで少し汗をかきながら門へ向けて走り出した。

「はい、それじゃあ本人証明をさせてもらおうか」

「分かった。はい、それじゃあいつも通りよろしく」


 私が普段使用している証明書を門番に渡すと門番は普段通りにすらすらと手帳に文字を書き、スタンプをつけ、手続きを始めた。


「レリック。滞在時間はいつも通りか?」

「ええ、そうよ。

 因みに目的はいつも通り日用品と食料の買い物よ。

 はぁ、それにしてもガド。私は常連なんだからいい加減顔パスにしてよ」

「すまんなレリック。これも仕事なんだ。

 手を抜いたら俺が怒られるんだ。勘弁してくれ」

「はいはい、分かってますよ」


 適当に雑談すること数分。完了だの言葉と同時に私に証明書を門番のガドは返すと今度は私の隣に居るライトへと顔を向ける。


「それで、あなたは一体……って、なるほど。ハンターですか」

「ああ、ここら辺で出没する吸血鬼の調査をするためにここに来た。

 彼女とは道中偶然会って道案内してもらった」

「そうですか。なら審査の必要もないです。それではわが村へようこそ」


 言葉と同時に門を開いたガド。

 そんなガドににこやかに礼をしながら私たちは村へと入るのだった。


 門を開いた瞬間に、視界一杯に広がる賑やかな人とたくさんの出店。

 周辺では一番栄え、流通の中心であるこの村では日常的なその光景を慣れた足取りで進みながら、普段使用している宿へ辿り着く。


「すみません。大人二人で、私は一泊。あなたは?」

「俺も一泊で」

「分かった。それじゃあ大人二人、一泊でお願いします」

「ええ、分かったわ。レリック。

 それにしてもあなたが誰かと一緒だなんて珍し。いえ、初めてわね。

 もしかして、これかしら?」


 いやらしい顔でまるでどこかのおっさんのように小指を立てる宿屋の女将。

 その表情に若干、イラっと来る私だが、その表情をなんとか顔に浮かべずに私は机を叩きながら金貨を出す。


「いえ、彼はここに初めて来るみたいだったので、手助けで宿屋に連れてきただけですよ」

「そうなの。それは残念ね。

 貴方ももう良い年なんだからいい加減に良い人見つけたほうが良いわよ。

 なんなら私の息子を――――」

「お断りしまーす」


 何時もの女将さんの言葉を否定しながら、部屋の鍵を貰った私は、一つをライトに渡してライトと共に部屋へ向かうのだった。

 少しだけ長い廊下を歩き、自分の部屋の前に着いた私は隣の部屋に入っていったライトを目の端で確認すると、鍵を扉に刺し、部屋に入った。


「はぁ、やっぱりここに来ると疲れるわね」


 手荷物を適当なところに置き、座りなれた椅子に座った私は疲れを吐き出すように溜息を吐くと、不意にドアがノックされる。


「レリック。ライトだが、ちょっと入って良いか?」

「どうぞ」

「ああ、失礼するぞ。

 ちょっとこの村について教えて欲しいことがあるんでな」

「まあ、そうだろうと思ったわ。

 あと、紅茶ありがとう。いただくわ」


 気軽に手を挙げながら部屋に入り、椅子に座ったライトは普段のお返しだと言うかのように慣れた手つきで自分の鞄から取り出した水筒の中身の紅茶をカップに移し、カップと一緒に大量の角砂糖の入った瓶を私の前に出した。

 角砂糖を一つだけ入れ、紅茶に溶かして飲む。

 その味は……うん。別に味にそんなにこだわってはないけど苦くはないし、少なくとも飲めないものではない。


「30点ね。飲めなくはないけど、これならまだ私が入れたほうが良いわ」

「あー、まだ30点か。まだまだ紅茶道は長いな」

「まあ、最初の頃の苦い紅茶よりかは進歩したわね」

「そりゃ良かった。

 わざわざハンターに依頼してもらった高級茶葉だったからな。

 不味かったら流石に――――」

「高級茶葉でこれならマイナス20点。

 今度からは安物茶葉でこれを出せるようにしなさい」

「うげ、まじかよ。厳しい評価だけど、今度はそうしてみるよ」


 言葉とは裏腹に少し嬉しそうな表情を浮かべたライトは、ボリボリと角砂糖を食べながらそう言った。


「そうしてちょうだい。

 それで話を戻すけど、あなたはこの村の何を教えて欲しいの?」

「ああ、そうだ。レリック。これが売っている場所を知らないか?」


 渡された二枚の紙の一枚にはこの村の地図があり、もう一つには恐らく買い物のリストなのだろう。

 手袋や針と言う日用品に始まり、銀の棒、聖水などのハンターの仕事道具に続き、虫のエキスや蝙蝠の体液など使用用途が分からないものが記載されていた。


「せっかくだから今のうちに必要なものを買っておこうと思ってな。

 ああ、もちろん知ってたらで良いぞ」

「分かった。一応知っている範囲しか言えないけど、手袋とこれは、ここ。

 銀とか聖水はここにある教会にあったはずよ。

 流石に虫のエキスや蝙蝠の体液は分からないけど……この薬屋に類似されたものがあったからもしかしたらあるんじゃない?」

「なるほど、分かった。ありがとうな。レリック」

「どういたしまして」


 ポンと投げるように適当に紙束を渡すと私はライトを視界に外し、再び高級茶葉の味を楽しむのだが……


「何? そんなじろじろ見られると紅茶が不味くなるんだけど」

「いやー、何というか。

 さっきの門番と宿屋の女将と比べて俺の台詞が何だか厳しい気がして、それがちょっと気になってな」


 ああ、そのこと?


「私が遥か年上だとしても、他人に対してきつく当たるなんてしないのが常識でしょ」

「それはそうなんだが。その割には俺には随分と辛らつな言葉が多い気が……」

「はぁ、そんなの当たり前でしょ。

 今は同居人で敵じゃないことは知っているけど、あなたがハンターでいる以上は何時か私を殺しかねないのよ。

 なら、常に警戒したり、距離を取りながら行動するのは当たり前じゃない」


 それに、ライトとは数年後には永遠に合わなくなるし、そんな相手に情なんてわきたくないからね。


「言っていることは分かるんだが……流石に一か月も過ごしていながら、そこまで警戒されているとは思わなかったぞ」


 少し肩をすくませるライトを見ながら私は紅茶を再び飲むのだった。

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