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11.召喚士と召喚獣の在り様1

 

 グランはエタンが立派な召喚士だと周囲に認められるように、と気負っていた。けれど、いつの間にか、いっしょにいられたらそれで良いと思うようになっていた。

 だから、今ではそうせっつくことはなかったが、エタンに「天気も良いし、たまには召喚士の仕事を受けてみるか」とほとんど散歩に出るような気軽さで誘われ、街にやって来た。


 召喚獣は召喚書から出していると魔術を持って行かれる。しかし、ある程度の自由を与えておかないと、召喚獣がストレスを感じる。そのため、召喚士組合は大きな厩舎きゅうしゃが併設されており、大型の妖獣たちが寝そべっていた。

 嗅ぎ慣れない臭いに、グランは好奇心のままに厩舎をのぞいた。そこにいる召喚獣たちはいずれも強そうで、彼らと比べて見劣りする自分にがっかりする。


 小型の妖獣であるグランは召喚士組合の建物の中に入ることを容認されている。エタンの後について行き、マルタンの姿を探す。厩舎には彼の召喚獣で豹種のパッシオネはいなかった。

 召喚士組合では一種異様な雰囲気に包まれていた。


「なにかあったのか?」

 エタンが受付で聞くと、石像化した召喚獣が見つかったのだという。

「石化の技能を持つ妖獣と遭遇したのかな」

「おそらくは。ただ、その召喚獣の契約者は見つかっていないのです」

 逃げおおせたのか、それとも召喚獣と同じく石像と化した後、衝撃で崩れ落ちたのか。


「その妖獣が召喚獣だと知っていた者がいるんだろう? そいつはなにか知らないのか?」

「それ以上のことは情報を得られたとは聞いていないです。組合でも詳細な情報を得ようと動いているところです。もし、大型の召喚獣を石化させ得る相手だったら———」

「災害級の妖獣だな。有翼かもしれん」


 妖獣は同じ種族でも毛色や大きさ、形態の違いがある。中には、様々な種族の部位を集めた者もいる。角を持つ者や有翼の妖獣はその種族の中でも上位に座す。

 飛翔を可能とする妖獣はそれだけでアドバンテージを持つ。だからこそ、有翼というのは力ある存在だと認識されるのだ。


『な、なあ、その石像化した召喚獣って、パッシオネのことじゃないよな?』

「さあ、どうかな。マルタンを探してみるか」


 グランは受付にマルタンへの伝言を託し、街のあちこちを巡った。目についたものを買い込みがてらで、グランに暢気だと怒られた。

「店員にマルタンを見なかったかと聞いているじゃないか」

『買い物をする必要はないだろう?』

「ただで情報はくれないよ。買ったら思い出そうとするかもしれないし、後からマルタンを見かけたら俺が探していたって言ってくれるかもしれないだろう?」

 エタンの言葉に、そんなものかとグランは矛を収めた。納得した様子の黒猫に、エタンは買い込んだ菓子やら串焼きやらを与える。


 そうしていると、同じように店で質問しているマルタンを見つけた。

「例の石像化した話は知っているか?」

 とたんにマルタンは表情を陰らせる。

『も、もしかして、』

 グランがふたつ尾をぴんと先まで真っすぐにする。


 場所を移して店に入り、疲労色濃い様子のマルタンに料理を勧める。食べながら事情を聞いたところ、石像化したのはパッシオネではないと判明した。グランが大いに安堵して、もりもり食べ始める。

「心配してくれたのか。ありがとう」

「マルタンはなにか調べている様子だったが、なにかあったのか?」

「ああ。石像化した召喚獣はパッシオネではないが、俺の友人の召喚獣かもしれないんだ」

『えっ?!』

 グランが驚いて顔を上げる。口元に肉の破片を付けている。


「石化した妖獣が召喚獣だと言ったのはマルタンだったのか」

 正確には、マルタンの他にひとりふたり確認しており、いずれも「おそらく」そうだろうと言っただけで断定はしていない。

「それで、組合から調査を引き受けたんだ」


 自分では荷が重いのを知っている。けれど、討伐ではなく調査だ。友人はどうしようもないところもあるが、幼いころに一時期いっしょに育ったことがあり、見捨てられない。生死だけでもはっきりさせたい。

 マルタンはそう語った。


 グランがどんどんしおれていき、とうとう料理にも口をつけなくなった。

『エタン、石像化させるような妖獣についてなにか知らないのか?』

 人の好いことだと内心苦笑するエタンに、マルタンも身を乗り出す。

「なにか知っていることがあれば教えてくれ。蛇という話があれば、雄鶏だという噂があるんだ」

 それで混乱しているのだという。


「ああ、多分同じようなものだな」

『そんな適当な』

 グランが冗談を言って良い状況ではないと憤慨する。

「いや、バジリスクとコカトリスのことだよ」

 エタンは頭に冠の模様を持つ蛇の姿の妖獣と、雄鶏と蛇がまじりあった妖獣について語った。この二頭には大きな、そして強烈な共通点がある。


「どちらも猛毒を持ち、視線で石化させる」

「そんな手ごわい相手が二種も存在するのか」

 マルタンは唸った。

「バジリスクは有翼じゃない。コカトリスは有翼だが、飛翔は出来ない」

 さり気なく放ったエタンの言葉に、マルタンはごくりと喉を鳴らす。

「だったら、災害級とまではいかない、か?」

「辛うじてな」

 猛毒と石化という稀有な能力を持つから、有翼でなくてもギリギリの線である。

 マルタンは考え込んだ。


『これから、どうするんだ?』

 グランは不安そうに尋ねた。マルタンが動けばパッシオネも同行することになる。つまり、マルタンが危険に飛び込めば、パッシオネも同様となるのだ。


「とりあえず、そのバジリスクとコカトリスのことを調べる。あとは、石像化した召喚獣が見つかったというところへ行ってみようと思う」

『危険だ!』

 すかさずグランが言う。

「もちろん、戦う気はない。ただ、」

 友人を探したいだけなのだという。生死だけでも判明させたい。

 

 グランは口をつぐんだ。力が入っているへの字口からは、俺も行くという言葉は転がり出てこなかった。自分に同行するだけの力はなく、なんなら足手まといになることは分かっていた。

 やれやれと思いつつ、エタンはマルタンの事情を知ったときから、こうなることは予想していた。

「俺も手伝うよ」

 グランがはっとエタンを見上げる。それに笑いかけてマルタンに視線を戻す。


「いや、そんな危険なことをさせられない」

「大丈夫だよ。俺は召喚士としては駆け出しもいいところだけれど、魔術師としてならそれなりに経験を積んでいるし」

 正確には当代随一であるが、以前魔術師をしていて、今は召喚士と二足の草鞋わらじを履いているのだと説明する。


「正直なところ、バジリスクとコカトリスのことを詳しく知っている様子だし、なにより、先だって共闘した際、パッシオネがフォローが巧みで非常に戦いやすかったと言っていた」

『えっ!』

 グランはとても嬉しそうな表情をした。

『俺なんて、大した手助けはできなかったと思うけれど、』

 グランがそわそわする。とても嬉しげである。


 グランを喜ばせることができたのだから、手を貸すくらいは良いかなとエタンは思い直す。こうしてマルタンは思いもかけず、大賢者の力を借りることとなった。つまり、相手が災害級の妖獣でも討伐すら可能であるということだ。

 そんなことは知らないマルタンとグランは「じゃあ、行こうか」と気軽に言うエタンに緊張気味に頷いた。




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