木山花名美風異世界恋愛風メタフィクション 『木山になったしいなです。~数瞬後にはバカに戻るのでお気遣いなく~』
木山花名美さまの文章を物真似したメタフィクションです。
木山さまからはかわいく許可をいただいております。
何を見つめても、涙が溢れてしまう。
シーツをかきむしって、身を捩らせて。
こむら返りを起こした足を慌てて抱きしめて。
自分の名前を独り言で確かめる。
私はここみ……。しいなここみ。
けっして木山花名美ではない。
しかし心の奥から、灰色の声がそれを希求させ、叫びを上げるのだ。
「書きたいよ! バカなものが書きたいよ! 天才の物真似をしながら、すごくバカなものが書きたいのだ!」
私のアイデンティティ────
それはヘンテコなコメディーを書く、バカななろう作家。
けっして一万ptを超えることのない、人気ジャンルの書けない不器用な。
劣等感はくっきりと爪を立てながらも、しいなと木山を彷徨うこの心は、なんとかバカなものを霧の中に探し当てようとしている。
「飛び降りるのですか? お嬢さん」
そんなイケボを背中に聴いたのは、私が高いところから身を乗り出している時だった。眼下には遥か遠くに冷たそうな石畳。
諦めちゃ駄目だと思いながらも、挫けそうになる心は、私を甘やかな死に誘っていた。
振り返ると声の主は黒いプードルを頭から被った、若い男のようだった。プードルが邪魔で顔がよく見えない。
「どうして私が飛び降りると?」
「だって一目瞭然じゃろ」
「私、木山花名美の物真似ができなくて……はっ?」
だからといって、死ぬことはなかった。追い詰められていた私を、黒いプードルの男は正気に戻してくれた。一時はあんなに鮮明だったインポッシブルが、水っぽい絵の具のように薄れ、私を包み込みはじめるポジティブ・シンキング。
そうだ。
木山花名美は登場キャラを不幸にしない。
『ざまぁ』が好きではないのだ。一作だけ、ざまぁを書いていて驚いたが、その作品は感想受付停止にしていた。
だから、きっと出来る。
きっと来る来るハッピーエンディング。
『私は、木山花名美の物真似をしながら、とんでもなくバカなものを書くことが出来る!』
「……来い」
私の手を握り、人気のない路地裏へ向かう男。怪しい背中に黙って付いていく。やがて建物の陰へ入ると、男は辺りを見回してから、私に向かい、こう言った。
「おまえは天才だ」
「え、天才? うへへ(„ಡωಡ„)」
「そして先ほど一度死んだ。死体のようなものだ」
「天才になった死体です(´- `*)」
「木山花名美がなんだ! 一人称を肉にしてやれ!」
「よし、あの肉を野菜と一緒にシチューにぶち込んでやる(; ・`д・´)」
「そして……自分の今いる場所を、よく見ろ!」
「……え?」
出来ていた────
私はいつの間にか、木山花名美の真似をしながら、バカなものを書けていた。
◇
四年後────
私は彼の屋敷で、『小説家になろう』を開いていた。
木山花名美は書籍化作家となって、遠いところで微笑んでいる。
私は『しいなここみ』に戻った。
黒いプードルを脱ぐと、彼は白いフェレットになり、私のペットとなった。
やはり木山花名美は登場キャラすべてを幸せにする。……してくれる。
すべてを愛し、すべてをキラキラとさせる、女神なのだ。そして天才か!
そんな木山花名美に嫉妬する私は、今日も肉なしシチューを作るのだ。
いつか天才の肉をここに入れることを夢見て────
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