咲月そら風BL小説『相撲って、強さを確認するものだろ?』
作者は相撲にまったく詳しくないので、ツッコミはご容赦願います。
咲月そら様からは楽しげに許可を頂いております。
ちなみに咲月そら様は相撲小説を書いていらっしゃいません。
「なぁ、ピザっていくら食っても腹一杯にならないけど、しっかりお肉にはなるからいいよな」
愛乃海がそんなどうでもいいことを言うけれど、私は今、来場所のことで頭が一杯だった。
彼にはどうでもいいのだろうか。
確かに十両昇進がかかっている私と違い、彼は幕下にとどまることが確定している。
「ピザばっかり食べてるとイタリア人のおばさんみたいなでぶになっちゃうよ? ちゃんと、さ。ちゃんこも、食べなよ」
「ははは、なるほど恋乃花の強さは、ちゃんこか」
恋乃花だなんて、四股名で呼ばないで。
ちゃんと本名で『まさし』って呼んでほしい。
私は彼を呼ぶ時はいつでも本名だ。
「ねえ、厳太。あんたは上に行きたくないの? あんたも同じ力士なら、共に強くなろうよ。少年相撲の頃から共にうっちゃり合って来た仲じゃないか」
「俺はお前の引き立て役で構わないよ。なんなら来場所、お前との取り組み、わざと負けてやってもいいぐらい、お前のこと、好きだよ」
ピザを食べる唇が艶っぽく笑う。
そういうとこ、イライラする。
そういうのが優しさだと勘違いしているのだ。
「私、あんたが一緒じゃなきゃ、幕内力士になんてなりたくないよ」
精一杯、すねて見せるしかなかった。
わかってほしい。
私はあんたと一緒にテレビ画面の中で、まわしを取り合い、肌と肌をぶつけ合いたいのだということ。
しかし彼はそんな私の気持ちなどどうでもいいようにテレビを観はじめる。
画面にはどうでもいいバラエティー番組が映り、彼が楽しそうに笑いはじめたのを見て、私はつい、言ってしまった。
「こないだ横綱に稽古をつけてもらったんだけど、彼の肌、とっても逞しかった。ピチピチしてて、当たりも激しくて、私、あっという間にうっちゃられたよ」
彼は黙ってテレビを見つめている。
「やっぱり横綱って素敵だよ。強くて、優しくて、頼り甲斐もあって……。私、早く大観衆が見守る土俵の上で、横綱と体をぶつけ合いたいな」
彼は手に持っていたピザを置くと、テーブルに音を立ててつっぱりを一つ、かました。
破裂音のようなものが部屋に鳴り響き、私のお肉に波を立てた。
「勝手にすればいいだろう。……帰る」
そう言うなり彼は立ち上がり、さっさと部屋から出て行ってしまう。
私は怒らせたかったわけじゃないのに……。でも、何だか嬉しくて、なのに後を追えなくて……。
彼のつっぱりはやっぱり凄かった。
私は知っていた、わかっていた。
彼にはつっぱりだけで、番付を駆け上がって行けるほどの力があることを。
時間を置いて、木製のテーブルが、彼のつっぱりで割れた。
さらに次には建物が崩壊した。
外は雪が降っていたが、私にはそれが舞い落ちる桜の花弁に見えてしまって、つい微笑んでしまう。
テーブルの上では真っ二つになったピザが、まるで仲の良い夫婦にこれから食べ始められるもののように、夫婦茶碗のように……なるわけないか(笑)
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