70年代少女漫画風ホラー 『血の池に黒いメスが光る』
「ここは?」
私が目覚めたのはとっても暗い場所でした。
ゆうべはロマンチックなスキーホテルの白いベッドで眠ったはずだったのに……。
「お目覚めかい?」
フレンチな香りのする男性の声に、振り向くとそこには胴よりも足のほうが二倍も長いひとが立っていました。なんて長いまつ毛! なんて尖ったアゴ! 茶色いとっくりのセーターに裾のラッパみたいに広がった白いジーパンが似合うハンサムです。まるでレッド・ツェッペリンのロバート・プラントみたいなハンサムです。
「あなたは……? ここはどこ……?」
そう聞いてしまってから、自分の名前をまず言わないのは失礼かしらと気づき、私は名乗りました。
「私はエミよ。あなたはだあれ?」
「だあれが殺した、クッ◯ロビン」
そのひとはいきなり歌いました。
「私を覚えていないのか、エミ? 迎えにきたよ」
あぁ……
このひとは私を迎えにきたのだわ
誰だか知らないけど
私はもしかしてと思い、聞いてみました。
「もしかして……あなたが紫のバラのひと?」
「それは速水だ」
なんてひどいネタバラシ!
「あんなに後のほうになるまでに早く気づけ、マヤ」
ガラスの◯面ネタはいい加減にします。
そのひとはいいました。
「私の名はデイモンだ。おまえは私の恋人シレーヌの転生した姿。どうか私を思い出せ」
私はツッコみました。
「デ◯ルマンは少女漫画じゃありませんわ」
「デビル◯ンではない。デ◯モスの花嫁だ」
そういうと、そのひとはいきなり懐からメスを取り出しました。
「思い出さないのならば、おまえの脳を取り出して、シレーヌの死体に移植する」
「そ……それじゃ高階良子の『地獄で◯スが光る』じゃない!」
「たぶん誰も知らないぞ」
「大体そんなこと──時代錯誤だわ! 現代のコンプライアンスに反するわ!」
「今は70年代という設定を忘れるな」
そこへ袋小路くんと姫皮さんがばん! と扉を突き破って助けにきてくれたのです。
「エミさん! 助けにきたぞ!」
「ホーッホッホ! ハニー・フラッシュ!」
「みんな!」
あまりの嬉しさに、私の瞳はあえかな無数の星で輝き、背景には満開の花が色とりどりに咲き乱れました。
「フッ……。仲間に愛されているようだな」
カッコをつけてデイモンはそう言うと、逃げるように背を向けました。
「ハートがでっかい友達を持つのはいいことだな、青春貴族だよ、おまえたちは」
そして「デュワッ!」と声をあげると、空を飛んで消えて行きました。
後に残されたのは赤い沼。その底にある暗い洞窟の中に私は閉じ籠められていたのです。
子どもたちの歌がどこからか聞こえてきました。
かーごーめー、かーごーめ
だって私にとって、少女漫画でホラーといえば高階良子なんですもの!
あぁ……。そういえば『はいからさん』も『カバ丸』もギリギリ70年代かしら? 入り切らなかったわ。
く……、悔しい……! (←ハンカチを噛む)




