高坂シド風サッカー大河ドラマ『タマシイって何だかわからないけど抱いてやる』
サッカーをルールすら知らない作者(私)がサッカー小説を書くとどうなるかという趣旨でやってみました。
高坂さまからは丁寧な許可をいただいております。
『バロンドール』
それはしいなにとって初めて聞く栄誉ある賞の名前である。
たぶん映画でいえば……なんだっけ、大衆音楽でいえばグラミー賞、世界平和でいえばノーベル賞。そんなものであろう。
なんとなく『マタドール』に似た響きがあり、カッコいいと思う。『ビスクドール』は……違うかも。
Jリーグ『パジアーノ岡山』に在席する向島巨大吾は小学5年生の時に身長が既に168cmあった。将来はどんな巨人に育つかと思われたが、38歳になった現在の身長も168cmである。魚をあまり食べなかったのが災いしたのであろう。
ちなみにしいなは164cmである。大して変わらない。
サッカーの世界一を決める高松宮記念が3月10日、ここ大都会岡山にある倉敷マスカットスタジアムにて行われていた。
「さて巨大吾くんなら、バロンドールをどう演じるかな?」
試合前、スポーツ記者のお姉さんにそう聞かれ、巨大吾はこう答えていた。
「私は声優を目指していました。私ならバロンドールを演じられます!」
試合が始まった。
決勝戦の相手はよくわからないチームだった。しいなはどこがサッカーが強いところなのか、よく知らないのである。
「ヘイ! ジョルジーニョ! 俺にパスをくれ!」
そう叫んでパスを貰おうとしていた巨大吾は、叫んだことで簡単にパスコースを読まれ、敵選手に容易くインターセプトされてしまった。
「しまった!」
パスを奪った敵選手は走った。その走りにはタマシイがこもっていた。サッカー選手は誰もが苦しい修行を積んできている。誰もに主人公補正はあるのだ。
巨大吾はボールを追った。敵選手の足は速かった。足にボールが吸いついているかのように、彼のタマシイが彼を全力以上に走らせていた。
しかし巨大吾にもタマシイはあった。タマシイとタマシイの戦いは壮絶だ。獲物を奪い合う虎とライオンのごとく、命を賭けてひとつのボールを互いに追う。
「おえんがな!」
巨大吾は叫ぶ。ボールを追えないわけではなかった。敵選手の足が速すぎて、手に負えないという意味での岡山弁、『負えんがな』が口から飛び出したのだ。
ゴール前にはディフェンダーのしいなここみがぼーっと立っていた。敵選手はその横を通り抜けると、渾身のシュートを放った。
「食らえ! タ◯ガーショット!」
しかし巨大吾が回り込んでいた。炎を纏うタイガー◯ョットをばしっ! と胸で受け止めると、それを強く抱きしめた。
そのまま巨大吾が走る。
ボールを強く抱きしめたまま、カウンター攻撃に移る。
このボールは誰にも渡さない。小学生の頃から伸びなかった身長を周囲にバカにされた思い出が、その反動が、彼の胸に強きタマシイを育てていた。
敵選手たちが四方八方から襲いかかってくるが、巨大吾はボールを離さなかった。
巨大吾は生まれて初めて思い知った。なんだ、最初からこうやって手でボールを守りながら走ればよかったんじゃないか。今までめんどくさいルールなんか気にしてて損してた。
そのままボールを抱えたまま、巨大吾は体ごと敵ゴールへ飛び込んだ。
敵キーパーをタックルで吹っ飛ばし、竜巻のごとくゴールネットを突き破った。
「ゴーーーーール!」
試合は終わった。
巨大吾の属するパジアーノ岡山の優勝だ。
「やったぞ!」
試合が終わると両チームの選手がユニフォームの交換をする。いわゆる『オフサイド』というやつである。
そして向島巨大吾は『バロンドール』となり、表彰されたが、たぶん実際にはこんなに簡単になれるものではない。
ふと鏡を見やる。
年月を経たその中に、限界という名のものはもう訪れることはなかった。
~了~
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