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博士と助手のさいえんす日和  作者: ぬまろー
博士とキノコ狩り
7/25

第7話 博士とキノコと育毛剤④


 場面は変わって、キノコ狩り遠征から2週間が経った。

 テストの点数で博士と俺の間でちょっとしたイベントを挟みつつ、我ら科学部はシナノダケの研究を始めていた。

 場所は奈落手高校の理科室。部室だと器具や環境も良くないということで、生徒会に利用申請したのだ。予想通り、ハゲの教頭や1年の生徒指導部の石塚なんかは快く賛同し、育毛剤が形になり次第、是非に実験体になると言質も頂戴した。見事に博士の手のひらである。


「助手、そこのアルファ1を取ってくれ」


「はい」


 α−1と名札が付いている試験管を博士に渡す。シナノダケに含まれる男性ホルモン促進成分が高い順に、1から5まで試薬を分けている。これ以上のことは知らない。けれど、まだまだ検証段階ということで、アルファが駄目ならベータ、ガンマと変えていくらしい。

 ちなみに、博士も俺も、白衣にマスク、安全保護のゴーグルを着用している。


「ラットの経過反応を観察するに、アルファ1と4をメインに進めていくか」


「アルファ1は炎症が出るんじゃありませんでした?」


「程度も弱いし個体によってマチマチ。人間に処方したデータも欲しいところだ。アルファ4からの副反応は皆無だな」


「ああ、教頭なんかは生徒の積極的な部活動を是非応援したいとか言って、多少のリスクは大目に見るとか言ってましたね」


「アルファ1は教頭に処置させるか。生徒の科学的活動に寛大な教員に感謝だ」


 博士のノリに感化されたせいか、俺も教頭や石塚をラットの延長上にある実験動物に思えてきた。マッドサイエンティストってのは、こうやって生まれてくるのだろうか。博士に倫理科学だか倫理工学だかの分野があると聞いたが、それはある種、科学者が人の道を外さないように施した手綱なのかもしれない。


「とりあえず今日はここまでにして、明日にでも塗布剤として完成させよう」


「今日は早いですね」


「目処が立ったからな」


 ここ2週間くらい夜遅くまで理科室にこもることが続いた。遅ければ鍵を閉めに来る用務員がやってくる22時まで、土日も返上というマックロクロスケも白く見える研究所だ。しかし、博士からしたら貫徹しないだけ優しい環境だという。慣れるまでは何度と退部を考えた。


「はー。疲れた。さっさと帰ってプリコネしたい」


「助手。片付けを忘れるなよ」


「分かってますよ。この前、それで授業しに来た2年生を困らせましたもんね。あの時は生徒会にこっ酷く怒られましたし」


「うむ。ここまで来て使用禁止にされたら目も当てられん」


 俺たちはラットの入ったケースを隅にまで運び、使い終えたフラスコなどの器具を洗い、保管してある薬品を棚にしまう。


「そういえば、このREDって名前の薬品はなんですか?」


「あー、それか」


 博士はどこか後ろめたい気持ちでもあるのか、少し反応が遅れた。


「まぁ、そろそろ言わなければならないな」


 思えば、このREDという薬品は俺の目の届かないところで開発していた。俺が飯を食ってる時、俺が理科室来る前、もしくは先に帰らせた後、博士が密かに手を付けていたのだ。

 俺は俺で助手としての仕事で手が一杯だったし、何より長時間の拘束によって頭が回らなかったので、とりたて気に留めることはしなかったが、しかしこうやって未知の薬品が形になっているところを見ると気にもなると言うもの。


「これはな、シナノダケとは別のアプローチで毛を生やす為に製作していたのだ」


「へぇ? まぁ色合いなんかが全く違いますよね」


 REDはその名の通り真っ赤な液体だ。ドロドロとしていて、まるでマグマのようである。正味、飲みたくもないし、塗りたいと思わない。カエンダケの禍々しさやヒョウモンダコの模様に恐怖心を覚えるような感覚を芽生えさせる。


「これは※グレンダケとアヤシイダケと呼ばれるキノコの成分を抽出し、合成させたものだ。これを皮膚に塗布すると、グレンダケによる細胞破壊とアヤシイダケによる細胞再生のサイクルが起き、皮膚をより強くさせるのだ」


 ※実在しないキノコです。


「ええっと、壊して直して、を繰り返すことで細胞が元より再生能力が高くなる、ってコト?」


「そんなところだ」


 なるほど、読めてきた。

 博士がこれを隠したがっていたのは、理論上は育毛作用があるけれど副反応がどの程度か測りかねていたという訳だ。シナノダケによる育毛剤は副反応も緩やかで、俺もラットの反応を見たが、目立って苦しんでいたとか炎症を起こしたなどは見て取れなかった。それに対し、このREDは反応が顕著になるのだろう。


「ちなみに、ラット実験だとどんな具合なのですか?」


「まだ行ってない。実験動物とはいえ、忍びないからな」


 そこまでかよ。

 いやいや、たかだか育毛剤だろうに、どんな反応を想定してるんだ。


「いつか黙って助手にでも塗布しようか考えていたのだがな。しかし了承もなく塗布するのは良くないと思っていた」


「は?」


 おい待て。

 今なんて言った。


「ここまで説明して何だが、もう殆ど完成している。助手、未来のハゲの為、実験に力を貸してくれないか?」


「いや待てって」


 理解できない。

 さっき、ラットに実験するのも忍びないって言ったよな。

 それを、真っ先に、俺に?

 もしかして、ラットより俺の命のほうが軽いのか?


「いやいや。そんな顔をするな。たかだか育毛剤だろう。死ぬ事は、な、い……だろう」


 おい、『ない』って言おうとして『だろう』に変わったぞ。


「頼むよ、助手。おそらくラットだと面白……良い反応しないんだ。何というか、物足りないというか、心躍らないというか……」


「お前、人を面白さだけで殺そうとしてないか?」


「考えて欲しい。ここにあるレッドは人体に超再生能力をもたらしかねない究極の理論が生み出した叡智の結晶なのだ。それを未だ危険性が残る中、人体実験したらどうなると思う? 私にも想像ができない。知りたいのだろう? 気になるだろう? やってみたいだろう?」


「もしかしてヒドラの研究員の方ですか?」


 いつぞやのドイツの科学者かお前は。


「とにかく、それは博士の意見に賛同するもの同士でやっててください。ここまで付き合ってきましてが、流石に死ねというなら俺も離反しますよ」


「大丈夫だ、死には、しない……だろう」


 だから『ない』と言いかけて『だろう』に変わるの止めろ。余計に不安になるわ。


「なら等価交換でどうだ」

 

 博士はそう言うと、白衣を脱ぎ、セーラー服のリボンを外しつつ、椅子に座る。そして、彼女は赤面しつつ、スカートを摘み上げた。

 彼女なりの、魅惑のポーズだろう。


「ほら、好きにしたまえ」


「誘うならロリコンにしてください」


 パンッ!

 博士はいつしか、拳銃を手にし、そしてそれを発砲した。


「頼むよ」


 コイツ……銃で脅しに来やがった。


☆☆☆


「やぁやぁ、助手。今日は良い天気だな!」


「……」


 翌日。

 俺が部室に入るやいなや、博士は気持ち悪いほどに元気な様子で、俺を歓迎した。

 キノコを狩っていた時とか、美味しいご飯を食べた時とかに見せた、純粋に喜んでるテンションじゃない。獣が獲物を近くに誘っているような気色の悪い笑みを浮かべている。


「とにかく突っ立ってないで、ほら、座りたまえ」


「……あの、座るって」


「ここだよ。ほら、椅子も用意してあるだろう?」


 皆様は、アメリカがまだ死刑制度を導入していた時期に使用されていた電気椅子を見たことがあるだろうか。俺は、今似たようなものを見ている。

 見た目は木製の椅子。しかし俺が手で掴んで、揺らしてみようとしてもピクリとも動かない。脚が地面に固定されているようだ。更に、手掛けには手錠が付いている。


「……拷問器具か何かですか?」


「そう邪推するな。念の為に用意しただけで、深い意味はない」


 邪推するな?

 電気椅子紛いに手招きして怪しい薬品投与しようとしてる状況でよく言えたな。

 21世紀を生きる科学者の倫理観じゃねぇだろお前。


「ほら、紅茶でもどうだ? 砂糖も入れてやるから」


 博士は珍しく、自らお茶を用意していた。その上、何も言わず大量の砂糖を紅茶にぶち込んでいる。俺は確かに甘党だが、普通はシュガレット一束入れて、あとは相手に任せるものではないか。


「実験は大量のエネルギーを消費する可能性があるからな。グルコースをたくさん摂取してくれ」


 一挙手一投足、すべての言動が不審すぎる。

 とは言え、銃で脅されてる手前、下手な抵抗もできず、俺は電気椅子に腰掛けた。これ、座り心地悪いな。それに、紅茶は糖分が過剰に混ざっていて、ドロドロしている。もはや飲み物ではない。

 俺が訝しい訝しいと思いながら紅茶を啜っていると、それを見た博士がニマニマしながら笑って言う。


「おやおや。助手ったら少し楽しみにしてたりするんじゃないかぁ?」


「いや全然」


「マーベル映画のキャプテン・アメリカが誕生するシーンを知っているかね。今宵はその名シーン顔負けの思い出となり得よう」


「どちらかと言うとデッドプールだと思いますけど」


 そもそも、本来の目的は育毛剤だよな?

 なんで超人血清やミュータントの話題が出てきているんだよ。


「思えば、助手との付き合いも決して短くはなかったな。そろそろ1月経つ頃か」


「あー、もうそれくらいですか。長いような短いような」


「最初こそ、君は自堕落で道徳が死んでいて、プリコネをしていて、更に私に対してイヤらしい視線を送る最低の人間だと思っていた」


「おい、最後おかしいぞ」


「しかし、振り返ってみるとどうだ。中々に、楽しい日々だったかもな」


「……おい、今生の別れみたいなセリフ止めろ」


「君との青春の日々、そして科学への情熱は、消して私の記憶から薄れないものだ」


「おい止めろ! 死にゆく人間を弔うみたいなセリフはマジで止めろ!」


 こいつマジでさぁ!

 と、俺が博士に襲いかかろうと椅子を離れた瞬間である。

 椅子の手錠から触手のようなケーブルが伸びて、俺の手首を拘束した。


「なッ! なんだコレ⁉」


「悪く思うな、助手。これも科学の発展のため……。科学の発展に犠牲は付きものというだろう」


「ふざけるな! 弁護士を呼べッ! こんなの人権迫害もいいところだ!」


 と、抵抗しようとしたものの、椅子の脚からも手錠が伸びてきて、俺の足を拘束した。

 博士は博士で、ビニール手袋を付けて、あのREDを容器から取り出している。


「離せコラァ! 離らせコラァ!」


「私が開発した拘束具に勝てるわけ無いだろう」


 抵抗は無駄らしい。

 俺がどれだけ万力込める勢いで暴れても、拘束具には一切のダメージはない。

 そして、博士はREDを気持ち多めに拭い、俺の頭皮に塗布する。


 すると。

 俺の頭に炎が上がる。


「あ゛っずい‼」


 頭が焼ける。

 頭からガソリンを被ってそのままライターに当てられたような痛みが、俺に襲いかかった。


「あずうずうずい‼ ダズげでぇぇぇ‼ じぬ! じんじゃぅぅぅぅぅ‼ あだまがもえでう‼」


「落ち着け助手。単に君の頭皮細胞の破壊が激しくなっただけだ。 君の頭が燃えているわけではない」


 博士が何か言っている。


「サイクル1。頭皮が細胞破壊を起こしている反応だ」


 なにお前、冷静に俺の状況をメモ取ってるんだよ‼


「じっげんをやめろ!」


「……まだイケるか。流石の精神力だな、助手」


 お前マジぶっ殺すぞ‼

 炎症反応。

 それは皮膚が赤くなったり、傷ついたりした時の症状とばかり思っていた。

 いや、だからといって。

 文字通り、炎が出るような痛みが出るなんておかしいだろう。


「あああああいやああああああ‼」


 吠えても叫んでも。

 博士は冷製沈着と俺を観察し、事あるごとにメモを取っているだけだった。悪魔か?


「あっ……あぁっ……」


 少し時間が経過して、頭に火が点いたような感覚は穏やかになっていった。

 しかし、体の関節がヒシヒシと痛み、更に体が異様にダルい。というか、頭の熱が、ジワジワと体全体に行き渡っているような気がする。


「サイクル2だな……どれ、体温を測ってみるか」


 おかしい、気がする。

 頭に火が点くような苦しみはないが、代わりに自分が炎になったと思うほど、体が異常に熱い。目眩は当然、インフルエンザにかかっているときの数倍もある熱で体が死に朽ちている感覚がある。

 心臓の鼓動が大砲のように、ドォン! ドォン! ドォン! と、鳴り響いている。それも、尋常でないほど早い間隔でだ。


「66.6℃……うおっ、これは本当に死ぬかもな」


 今の言葉は、絶対に錯覚だろう。人間が耐えきれる体温ではない。そもそも、普通の体温計なら、42.0℃までしか測れないはず。そして、何より、本当にその体温が真ならば、博士に少しでも人の心があるならば、それを見て冷静でいられるはずがない。はずが、ない……。


「やはり、本来数ヶ月のスパンで行われるはずの自己治癒能力を1、2分に圧縮することによって、代謝能力に無理をさせているな。それも人体が本来持ち合わせない、メキシコサンショウウオやメキシコサラマンダーなどを筆頭にした特殊な再生機能を強制的に発動しているから、人体が耐えきれるか怪しい過負荷となっている。スゴいなぁ。離れていても、助手の心臓の鼓動が聞こえてくるじゃないか」


 意識がはっきりしない為、博士の言葉をよく聞き取れなかったが、頭のおかしいことを言ってることははっきりと分かった。


「とりあえずポカリでも飲みなさい。辛くても飲むんだぞ」


 そう言って、博士は俺の口にポカリスウェットを突っ込んだ。俺は口内の筋肉すらマトモな感覚が無かったので、博士は俺の顔を上に向けて無理やり飲ませてきた。それも、2Lを丸々と。呼吸できなくて死にますよ?


「どうだ、調子は良くなったか?」


「あ、ああっ……なんとか気分は晴れてきました」


「おお、良かった。サイクル4に入ったか。助手、おめでとう。君はこの過酷な実験を見事に生き残ることができたようだな」


「ありがとうございます。死ね」


 いつかこいつをロシアの奴隷商人に売り飛ばしてやる。


「しかし、案外死なないものだな。行幸行幸。これで育毛効果が出るのであれば、市販しても良いんじゃないか?」


「正気ですか? これれっきとした拷問ですよ」


 やっと口が回るようになってきた。

 つうかマジで冥土を行き来すること前提の実験だったのかよ。良くもまぁ、死なないはずなどと言えたもんだな。


「しかし、最初さえ乗り切れれば耐性が付いて、次の死亡率はグッと低下するはずだ。頑張りたまえ」


「は? おい! また塗る気か! ふざけるな!」


「いや、今日はもう塗ることは無い」


「おい、それはどういう……」


 と、俺が言葉の意味を聞きかけた瞬間である。


 ボッ、と俺の頭が燃えた。


「ギャアアアハアアア‼」


 REDが塗られたわけでも無いのに、再び俺の頭に火がついた。


「サイクル1。言っただろう。REDは破壊と再生の繰り返し。あと20周は同じことを繰り返してもらう」


「ふざけるなてめぇぇぇ‼」


 発狂して暴れ回っても、それに意味はなかった。拘束具に少しのダメージもなく、目前の、悪魔のような女に手は届かない。


「頑張れ助手ッ。未来のハゲの為にッ」


 心にもない鼓舞をしながら、博士は俺の症状をメモしていた。


☆☆☆


「助手。大丈夫か?」


「あっ……ああっ……」


 何度と頭が燃えては高熱を出したか分からない。意識を失えれば良かったものの、どうやら超再生能力によってそれすら出来なかったらしい。

 結果、俺は死んでも死にきれぬ苦しみの中で意識を保ち、やっとREDの地獄を乗り切った。

 博士が手足の拘束を解くと、俺は立つことすらままならず、バタンとその場で倒れた。


「ごろじで、ごろじで……」


 涙は枯れた。出し尽くした。それでも博士は拷問を止めなかった。だから博士が俺の願いを聞き入れる訳がないことを知っている。だけど、俺はそう願わずにはいられなかった。

 やっと感覚が戻ってきた俺の鼻腔に強烈な悪臭がくすぐった。思い出した。たしか拷問の途中で俺は糞尿を漏らしたんだった。視線をズラすことはできないが、きっと椅子の周りは汚らしいものが散乱しているに違いない。


「辛いことがあっても、我々は生きていくしかないのだよ」


 神様、どうかお願いします。

 いつか博士が苦しんで死にますように。

 

☆☆☆


「アンタ、なんか髪伸びてない?」


 翌朝、洗面所で顔を洗っているところ、突然出てきた姉にそう言われた。

 改めて、俺は鏡に視線をやる。

 姉の言うとおり、俺の髪はボサボサと無秩序的に生えてきていている。数ミリくらいは前日より伸びているような。髪をセットするのも面倒なので、早いところ床屋にでも行きたい。


「てか、アンタって昔、頭を撃って針を縫うくらいの怪我してなかったっけ。それで10円ハゲがあった気がするけど、そこも無くなってるわよ」


「ほんと?」


 手鏡で後ろ髪を見てみると、確かに昔の傷跡も消えていて、そこには普通に髪が伸びていた。毎日観察していたとかでは無いが、最近までそこには髪が生えてなかったはず。

 あの傷は結構な怪我だったはずだ。確か、小学生の頃、女の子とデートしに行った時に、姉が俺をデパートの2階から突き落として、更に手元にあったコカ・コーラの瓶を頭に喰らってできた傷だ。あの時は、『俺みたいな男と付き合ったら貴女を不幸にするから別れてください』と、泣きながら土下座して女の子と別れ、更に姉にも何かよくわからんけど土下座して謝った覚えがある。


「昨日の毛生え薬のせいか」


 凄い効果じゃないか。自己治癒能力がうんたらと言っていたが、もはや再生治療の最高峰なのではないか? 副作用というか、拷問のような地獄が伴うが。


「ああ、何か言ってたわね。育毛剤を作るとかなんとか。最近のアンタ、帰り遅かったわよね」


「昨日それを博士に無理矢理に投与されたんだよ。そのおかげかなぁ」


 パンッ! 

 と、姉は俺の頬をビンタした。


「昨日、それを博士に投与させられたんです」

「よし」


 敬語を使わないと、姉は俺を殴る。


「てか、アンタのバッグに入ってたこれのこと?」


 そういって、姉は懐からREDの入った小瓶を取り出す。


「えっ、何で持ってるの……ですか?」

「アンタのバッグに入ってたからよ」


 何で勝手にバッグから取り出してきてるの?

 と言うか、俺はREDを持って帰った覚えがない。そもそも、部活が終わったあたりの記憶が一切ないのだが。

 となると、博士が勝手に入れた可能性が高い。理由は分からんが、もしかして俺が忠実にももう一度、それを頭に塗布して研究材料を増やすなんて思ってるのだろうか。バカがよ。そんなことするわけ無いだろ。


「ふーん。そんなに効果あるんだ。あの米田モニが作ったもんね。ちょっと使ってみるか」


 と、姉な小瓶を開ける。


「ま、待て! 地肌でそれを触れるのはヤバい!」


 と、俺が制止するも姉は聞き入れない。姉はなんの躊躇もなくREDに指先を触れた。


「あっっっつ! ナンッ⁉ これ! ふざけんなッ!」


 姉は暴走族のように声を荒くして叫び、更にREDが付着した手で俺を叩いた。


「アッチぃァァァ‼」


 少なからず、俺の頬にもREDが移って、その被害が俺にも及ぶ。昨日よりかは少量だが、タバコを押し付けらたか焼印でも入れたれたか、それ以上の熱で頬が焼けた。


「クソガッ‼ てめぇホントふざけんなよ‼」


「俺が言いてぇよバカ姉貴!」


 姉はすぐさま指先を水で洗い、俺はそれに続こうと蛇口から出る水を手ですくおうとしたが、姉に蹴り飛ばされた。コイツ、災害時に平気で人を蹴り落として避難するタイプだわ。

 その後も何とか水洗いしたくて這い上がって見るも、蛇口を占領する姉に蹴り飛ばされ、更に逆恨みからか執拗に蹴り技を喰らった。


「ホンッ! オマッ! 水で洗っても痛み落ちねぇ‼ 何だこれはッ! なぁッ!」


「俺が聞きてぇわッ!」


 その後、俺と姉は例のごとく高熱を出し、俺は高校を、姉は大学を休んだ。

 昨日よりは少ない量しか塗布されていなかったが、午前中はお互いに軽く三途の川を見るほど体調を崩す。閻魔様とはそろそろ顔見知りになってしまったかもしれないな。

 

 そういえば、博士からラインが来た。


 『体調不良とは情けない。健康管理がなってないぞ。RED塗布の経過反応が見たいから無理してでも部活には来るように』


 だそうだ。

 俺は一言。


 『死ね』


 と、返信しておいた。







  


 

キノコ狩り編、終わりです

書き溜めがそろそろ無くなってきました

週に3くらい投下できるよう目標にします

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