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博士と助手のさいえんす日和  作者: ぬまろー
博士とキノコ狩り
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第5話 博士とキノコと育毛剤②

「ここが長野だ」


「デカい山がありますね」


 春から夏に向かう季節。新緑に囲まれた山木と木造の民宿や土産屋に囲まれた土地が俺と博士を迎える。

 俺たちは地元の愛知から電車で長野に到着。そこからまた電車、バスと移動して、北信州の野江像村にたどり着いた。


「そこに見える山に登る」


 博士がそう指示をすると、俺たちはさっそく宿泊する民宿に顔を出す。女将さんの案内で部屋に着き、荷物を置いて山登りの支度を整える。


「ていうか、同室なんですね」


「せっかくの民宿だ。料理も美味しいと聞くし、共に料理が食べたいだろう」


「まぁ、それはそうですけど、さっき女将さんにカップルって勘違いされてましたよ」


「はっはっは。この魅惑の美貌を持つ私と恋仲と呼ばれて、さぞ鼻が高いだろう」


「ロリコンって思われたらどうするんですか」


 博士は無言で銃を取り出した。


「ちょッ! 待て待て! それ本物っすか⁉」


「本物だ。山奥で熊にでも遭ったら使うつもりだったが、案外、夜更けの獣払いに使うかもな」


「やっぱり部屋増やしてもらいましょうよ」


「はっはっは。助手は私の無防備な姿を見たら、理性を抑えれそうにないのかね」


「いや、博士が銃で脅して俺に襲いかかるかもしれないじゃないですか」


 パッン!


 と、銃声が鳴る。

 銃弾は俺の真横を通り去った。


「面白いジョークだ。つい銃も失笑してしまったようだね。あまり不用意な冗談を言わないほうがいい」


「ご、ごめんなさい」


 恐ろしい女だ。


「てか、マジで本物なんですね」


「ああ。もちろん政府及び日本ライフル協会に認可された銃だ。IDもちゃんと所持している」


 そう言って、博士はスマホから銃所持の認可書が記載されたPDFファイルを俺に見せる。日本政府、及びライフル協会のサインもある。


「5年くらい前でしたっけ。銃刀法改正で銃所持が認められるようになったの」


「ああ、私は施行当日に銃を購入したぞ。懐かしいな」


「武装する権利、自殺する権利でしたっけ」


「そう。当時のイジメや過労死など、様々なケースで日本人は弱い立場の者を冷遇してきた。そこで皆が平等に強くも弱くなるにはどうしたらいいか。そう、銃だ。相手が銃を撃ってくるかもしれない、そう考えただけでイジメなんて恐ろしくてできないし、ブラック企業もなくなる。加えて、自殺も楽だ」


「撃たれる覚悟でイジメなさい、そんなこと言われてますよね。当時の俺でもそんな上手くは行かないと思ってましたよ」


「しかし案外日本人とは相性が良かったな。イジメっ子が銃で撃たれたと報道されれば、イジメの発生率も減り、加担した教師も撃たれたという事件が起きれば教師も焦って仕事をしだす」


「でも撃つ覚悟ある人は滅多にいませんからね。凶悪事件も案外起こらんものです」


 あ、撃ってきたヤツいたわ。

 目の前に。


「ま、何はともあれ今はシナノダケだ。ほら、私が着替えるから向こうに行ってきたまえ」


「はいはい。小学生の覗きなんてしませんよ」


 パッン!

 と、また銃声が響いた。


☆☆☆


「タマキクラゲだな。食用だぞ」


「うへっ……。流石に食欲湧きませんよこれ」


 場面は変わって、俺たちは山道を登りつつ、キノコ狩りを始めていた。

 博士と言えば、本格的なツナギを着つつ、レジャーリュックを背負い、腰には小さな竹カゴ、革手袋とまるで本職のような装備をしている。


「民宿の女将さんが食べれるかちゃんと見てくれると言ってたしな。一応持ち帰るか」


 博士は枯木に生えているゼラチンのような形をしたキノコを拾っている。本当に食べる気かよ。これに食欲湧くなんて、本当に小学生みたいなロリ博士だ。


「あ、デカいスズメバチがいますよ。これも食べますか?」


「イヤだ。というか不用意に近づくな」


 あ、はい。まぁ、俺もハチはミツバチしか食べたことないから近づきませんけどね。


「お、ヒラタケがある。助手、こっちこっち!」


「はいはい」


 山道を進むたび、博士は枯木に生えているヒラタケやキクラゲ、丸太に生えているシイタケなどを見て、目を輝かせながら慣れた手付きで採取していく。背負うほどの竹カゴを持っているのは俺なので、博士が何か見つけるたびに俺を呼びつけ、ホイッ、ホイッと俺のカゴにキノコを入れていく。


「楽しそうですね。目的忘れてたりしませんか」


「良いじゃないか。シナノダケを保管する余裕くらい持たせておくよ」


 と言いつつ、博士が腰にしている竹カゴはキノコで一杯になっていて、そろそろ零れ落ちそうだ。

 博識にて口が滑るこのロリ博士はほぼ全てのキノコについて何かしらの解説をしながら採取するのだが、時たま、彼女は妙に神妙な顔をして、隠れるようにキノコをポケットに入れることがある。嫌な予感がする。本当に、いざというときの為に毒キノコでも用意してるのだろうか。

 いや、まぁ深くは考えないでおこう。俺が背負ってる竹カゴもだいぶ重量を帯びてきて、歩くだけでけっこう大変だ。いちいち詮索するのも億劫というもの。


「それで、シナノダケの方は見つかりそうですか?」


「うむ……。まぁゆっくり探す他にない」


 俺が腕時計を見ると、捜索からそろそろ2時間が経過していた。博士の寄り道があったにせよ、そろそろ手がかりなしという状況は焦りが見えるか。


「そういえば、シナノダケは食用ですか?」


「いや、無味無臭、一応エネルギー源として長野の山奥に住んでいる部族とかには重宝されていたと聞くな」


「部族?」


「あー、地方の民俗学を少し習った程度だが、どうもこの山の奥には今も集落があって、そこで生活してる人がいるらしい」


「へー。まぁ長野ですし不思議じゃないですね」

「どうもその辺りは専門家の中でもエンカウント自体がレアで、その詳しく分かっていないようだが」


「はぐれメタルみたいな奴らですね。長野ですし不思議じゃないですが」


「不思議な土地だな、長野というのは。未だに解明されず、住民票にも載ってないアフリカ民俗のような輩もいるらしい」


「へー、それって全身毛むくじゃらで身長百五十センチくらい、泥だらけ、獣の皮で出来た服を着こなし、片側乳首露出させてる原始人みたいなやつだったりします?」


「詳しいな。まるで見た事あるように語るではないか」


「ええ、そこにいるので」


 そう言って俺が指差す方向には、毛むくじゃら低身長、泥だらけ、獣の皮でできた服を着た片側乳首露出の原始人男性がいた。


「……長野県民だ」


 いやいやいや。

 それは長野県民に失礼だぞ、博士。


「どうしますか」


「とりあえず、様子を見よう」


 博士は穏便に済ませようとしているが、既に銃を取り出している。まるで熊にでも出くわしたようでは無いか。


「v25w6m9jgma@po5y3so/」

 長野県民が特定不能言語でこちらに話しかけようとしていた。


「……通訳お願いできます?」


「英語、ロシア語、ドイツ語エトセトラ。十を超える言語をある程度修めているが、聞いたことのない言語だ」


「凄いですね。マルチロリンガルってわけですか」


「うるさいなぁ。撃ってもいいんだぞ?」


 ちょっとした皮肉にご立腹な博士。

 俺たちが戸惑っている中、長野県民はゆっくりと俺たちに近づいてきた。


「!」


 そして、道に転がっているカラスの死体を蹴り飛ばし、俺たちにぶつけてきた。


「痛っ……」


 軽く悲鳴を漏らす俺。

 痛いと言うより、行動が理解できない恐ろしさが上回った。

 いきなり道端にあるカラスの死体を蹴り飛ばし、訳のわからない言語を吐きかける。これが平均的長野県民の姿とも言うのだろうか。驚きのあまり、言葉が出ない。


「Hello, Nagano citizens. We are Narakute High School Science Department. I came here looking for Shinanodake」


 お、博士がまるでグーグル翻訳したような英語を披露。地球の公用語ならば、と果敢にコミュニケーションを取る姿に惚れてしまいそうだ。


「5o5ov,'2o1sl76;so」


 あ、やばい。

 長野県民、英語が通用しない。


「Здравствуйте, жители Нагано. Мы - научный отдел средней школы Наракуте. Я пришел сюда в поисках Шинанодаке」


「/3szv;5y5sosoq」


 流石にロシア語になると、俺からすればコンタクトが取れてるのか分からない。


「34zy22sky6sx!」


 あ、長野県民怒ってる。

 多分コンタクト取れてないな。

「無理だ。コミュニケーションが取れない」


 パッン!

 と、音が鳴る。


「えっ?」


 突然、発砲した博士の行動に対し、俺は理解が追いつかない。


「ええっと?」


 長野県民は見事に弾丸が命中したようで、ピクピクと体を痙攣しながら地面に伏している。


「助手。英語よりも伝わりやすく、何より手軽な快刀乱麻的コミュニケーションツールを知っているかね」


「いや……?」


「暴力だよ」


 頭イカれてるな、この女。


「それよりも、助手。そこに気絶している長野県民の懐を探ってくれたまえ」


「イヤどす」


 博士はまるで死体漁りまがいを強要したが、俺は流石に拒絶反応を表した。そこに伏している長野県民は、いつ風呂に入ったのかも分からぬ、現代の衛生観念とかけ離れた風体をしているのだ。触ったら病気を移されそうである。


「シナノダケを所持している可能性が高い」


「自分で弄っておくんなし」


 パッン! 

 と、博士は威嚇射撃。


「やれ」


 博士は端的に命令する。

 あゝ、俺に拒否権はない。

 明日にでも、銃規制推進運動に参加しよう。

 

長野県民の描写は私や知り合いの長野県民の体験談を参考にしております。

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