第13話 博士とbutthole sunning club②
「全く……酷い目に合いましたよ」
「いや、助手。普通に自業自得だろう」
翌日の部室のこと。
ゲームセンターで店長に事務所に監禁された時は、それはそれは大変な事になった。もはや万引き少年の修羅場とも言うべき剣幕で、呼ばれた母親は警察だけは勘弁してくださいと泣きながら土下座までして、父は仕事の途中だというのに、飛び出すようにやってきては、俺を一発殴ってその後に土下座。ゲーセンの店長はそれを見て少しばかりの同情心が湧いたのか、気まずそうに警察を呼んだ。
結局、俺は厳重注意と言うことで警察にこっ酷く怒られ、ついでに父からもう一発殴られ、更に重役出勤と言わんばかりにやってきた姉は、愉快に笑いながら、しかも酔っ払っていた様子で、何発か顔を殴ってきて、やっと帰宅。
危うく、前科一犯になりかけた。
「もうあんなことは懲り懲りです。万引き少年の親って、あんな感じなんでしょうか。万引きだけは一生しないと心に決めます」
「……いや? 万引きじゃなくて、猥褻物陳列を戒めたまえ」
博士は、俺の行為を猥褻物の露出と言い放った。たしかにそれは事実だが、時に事実であっても、正義か悪かは時と場合によるので、あの場面では間違っていないと思うんだが。だってゲームセンターでうるさくしていたやつを黙らせたんだから。
「君は、何か、助手。生徒会との一見で露出趣味に目覚めたのか?」
「いや、そうじゃないんです。ただ、僕は僕がそうすべきだとおもったことをしたんです」
「ワールドトリガーの名言みたいに言うんじゃない。名作が汚れる」
俺が何したっていうんだろう。親切心の行為を、誰も褒め称えず、しかもまるで悪辣と語るではないか。
「全く……結局ショコラちゃんは取れない始末……。ここは助手が取ってきたチロモちゃんを抱くことで勘弁してやっているんだ。感謝したまえ」
「はいはい」
博士は俺がクレーンゲームで取った、白いハムスターのぬいぐるみを抱きながら、渋々としている。
それ俺のなのになぁ。俺も抱きたいのに。
「まぁあの様子の博士じゃあ、俺がお金を貸したところで取れるかどうか怪しいですけどね」
「バカ言え! あと一回……いや、五回もあればすぐ取れたわ!」
そう言って、五千円くらい続けてましたけどね。
「全く……博士のゲーム代でお金を貸してたら不動産会社の社長でもない限り破産しそうですね。返してくれるか不安です」
「はっはっは! 一ヶ月もすれば部費が入るだろう。それで返すさ」
いやお前、部費でゲームする気かよ。そりゃあ、今度の部費は申請しなくても自由に使っていいって言ってたけどさ。
俺が呆れて何も言えないでいると、唐突に、科学部の部室を叩く、コンッ、コンッ、コンッと、ノックの音が聞こえた。
「客か。生徒会といい、最近は多いな」
「そうですね。はーい! 空いてますのでどうぞ!」
俺が入室を促すと、そこからは男女二人が入ってきた。
男の方はどうにも、濃いというか、くどい顔をしている。濃いもみあげに太く力強い眉、眼力もあるので少し威圧しているようにも感じる。
女性の方は背が高く、細み。髪の長いモデルのような人だ。
「はじめまして。俺は3年の鍵野光輝。よろしく」
「私は今野有紀。2年よ」
男性の方が鍵野さん、女性の方は今野さんね。
「俺は1年の癒音康彦です」
「私は米田モニだ」
「まぁ立ち話もなんですし、座ってください。座布団しかないですけど」
そう言って、俺は4人分の座布団を引っ張り出して、部室に並べた。いつ洗濯したのか分からぬ小汚さだが、まぁ来客の二人は特に文句を言うことはない。
「助手。お茶でも淹れてあげたまえ」
「はいはい。インスタントコーヒーしかないですけど、良いですか?」
「ありがたい。ミルクも貰えるかな?」
「砂糖とミルクも付けときます」
そう答えると、俺はさっさとコーヒーを用意し始める。
「まさか部室に来ただけで飲み物を出してくれるとはね。もしかして、こういった来客は多いのかな?」
「いえ、ただ生徒会と少しやり取りがある予定でして。たまたま準備していたんですよ」
「ああ、耳にしているよ。キミは有名だからね」
キミ……?
俺のことか?
天才博士の方ならともかく、俺のほうがそう呼ばれるのは違和感がある。
「あ、助手。生徒会に出す茶菓子は出さないでくれよ。あれは生徒会へのゴマすり用だから」
「最初から出す気はありませんよ」
「……」
「それを本人の前で言うのは良くないわよ」
博士め、なぜ本人の前でそんなことを言うんだよ。
俺が怒られたみたいじゃないか。
「と、とりあえずコーヒーです。どうぞ」
俺は場を和ませようと、作り笑いをしながら飲み物を4人分、渡した。
「それで、今日はどのような用件でウチの門戸を叩いたのかね」
博士は先輩に対しても、どこかズケズケとした様子で尋ねた。
「ふむ。まずは俺たちの所属からはなさないとな。俺たちは、butthole-sunning-clubという同好会に席を置くものだ」
ばっと……?
ええっと、日本語で言うところの何クラブになるんだ?
「博士、和訳してください」
「……イヤだ」
「は?」
博士は訝しむ様子で、俺の要望を断固拒否した。
いやいや、分からないとか知らないとかならともかく、イヤだってどういう事だ?
「呆れたわね。光輝が期待する新人って聞いたけど、buttholesunningの理解がないどころか、知らないとはね。隣のロリに至っては、偏見があるみたいだし」
「何だと⁉ ヘンタイにロリ扱いされる筋合いはないわ!」
「落ち着きなよ、ロリ」
「ムキーッ!」
俺が博士を気を静めさせようとすると、博士は俺の髪を引っ張るなどして乱暴し始める。いかん、状況が悪化した。
「えっと、無知で悪いんですが、何をする集まりなんです?」
「肛門日光浴だ」
「……は?」
「普段、日光に当たらない肛門を日光に晒すことを目的としている」
「……ええっと、すいません。ちょっと邪推しちゃってるっぽいんで、再確認します。学校の日当たりとかを改善しようとしたりする目的のクラブ……なんですかね?」
「いや、学校の校門の方ではない。尻の穴を日光に晒すんだ」
「……」
さーて。
どうやってコイツらを追い出そうかな。
「ええっと、失礼ですけど、よく同好会として認められましたね?」
「当然よ。立派な健康療法だもの」
今野さんが自信満々というふうに言ってみせた途端、博士が呆れた顔で口を挟む。
「いわゆるエセ科学療法の一つだ。根拠に乏しく、むしろ皮膚癌を引き起こしかねない」
「はぁ……」
まぁ、博士が言うなら専門家のお墨付きは得られていないのだろうな。一応は、医学とか薬学にも精通してるらしいし。
「まぁ、そういった厳しい声もあるね。ただ、生徒会に認められた団体であることは知っておいてほしい」
「ちなみに、その部を承認したのは生徒会長ですか?」
「入鹿氏だよ」
でしょうねぇ……。
ヘンタイはヘンタイの繋がりがある。というか、理性的だが苦労人の生徒会長のことだ。入鹿がゴネて、仕方なく承認……という寸劇が目に見えるよ。
「えっと。まぁ活動内容は分かりました。それで、ご用件とは?」
「単刀直入に言う。癒音康彦くん。我が部に入らないか?」
ヤだよ。
「君の噂は聞いている。生徒会までパンツ姿で連行され、あられもない姿を清廉たる生徒会に晒す。更には、先日はゲームセンターで自らの肢体を見せつける行為に及んだとか」
「はい、そうですけど?」
「やはり噂は本当だったか。期待通りの逸材だ」
鍵野さんが何が納得したようにしている。
いや、何がなんだか分からんわ。
「不可解な事がある。君たちの団体は、尻穴を健康の為に日光に晒すのであろう。しかし、それを助手に期待するという理由に、彼の今までのヘンタイ的行為は合致しない。……もし、君たちが『ヘンタイ的行為』を目的としているというのが前提であれば、話は別だがな?」
おお。博士が良いところを指摘している。俺が疑問としていた所を、なるべく簡潔に言語化してくれた。
さて、それに対して二人がどう反応するのか、と俺が興味を膨らませて彼らの顔色を伺おうとすると、今野さんが睨みつつ答えた。
「ヘンタイ的、ねぇ? 天才的な頭脳とかなんとか言われてても、見た目通りの知見の狭さかしら?」
「誰がロリだ⁉」
「誰もあなたをロリだなんて言ってませんよ」
今野さんの煽りに対し、怒りを露わにする博士。
もっと煽り耐性を付けてください。
「しかし、そこは俺もはっきりさせて欲しいです。これまでの俺の行動と、貴方達の活動に何の関係が? 少なくとも、露出クラブではなくて、れっきとした健康を目的としたクラブなんでしょう」
「……いや、butthole-sunningというのは、活動の一端に過ぎない……いや、むしろクラブ活動として正式に認められる為のお飾りと言ってもいいかもしれない」
「え、じゃあ本当は肛門を日光に当ててないんですか?」
「まぁ、週に2、3ってとこだな」
やってるんかい。
「私は日課として続けてるわよ」
お前は毎日やってるんかい。
「話を戻してくれ。君たちの本来の活動内容とは、何だ?」
「本来の活動目的、それは、人類が衣服から解放されること……つまりヌーディズム活動だ」
そう言って、鍵野さんは服を脱いだ。
もう、勘弁してくれよと。
突発ネタだったのですが、裸体主義、自然回帰などはなかなか面白そうですね
次回は少し調べてみたいと思います。文献がすぐに見つかればですが。




