第12話 博士とbutthole sunning club①
今回は前回の続きではなく、独立した話となります
「はぁぁぁ⁉ 今絶対アームの力が露骨に弱くなったぞ⁉ これ遠隔だろ⁉ メーカーが遠隔でクレーンゲーム操作してるだろ⁉」
「博士、クレーンゲームで大声出すのやめてください……」
ある日の放課後。
俺と博士は近くのゲームセンターに来ていた。
「助手! 金を貸せ!」
「えぇ……」
「早くしろ! ハムカーのショコラちゃんがもうすぐ取れるんだ! ハァァァリィィィ!」
鬼気迫る英語で金を催促する博士。
普段のクールな彼女はどこへやら。無様に落ちたものである。
「仕方ないっすね。両替してきます」
「早くしろ! あと一歩なんだ!」
俺は俺で、水着コッコロちゃんのフィギュアを取れて、余裕があったからハムカーのチロモも取れたので、帰りに飯でも食って帰ろうと思っていたのに、まさか博士の介護まですることになるとは。
博士は意地になっているから、俺が取ってあげようとしても、自分でやれるの一点張り。自分でやれるなら自分の金でやってくれよ。
不満を残しつつ、俺はクレーンゲームの裏にある両替機に向かっていた所、唐突に、博士に負けず劣らずの罵声を耳にした。
「お前なァァァ! 何で援護しネェんだよ!」
「そもそもテメェのトロい強攻撃狙いが負け筋引いてンだよ!」
アーケードゲーム筐体の前で、青年二人が大声で罵り合っていた。
どちらもすごい声量だ。周囲の反応もお構いなし、俺がクレーンゲームをやっていた時も、博士の奇声と異なる周期で不快な声は耳にしていたが、こんな近くにいたのか。
「あのなぁ! 敵の必殺ゲージはもう溜まってることくらい予想しろよ! 強キャラ使ってんだから少しは働けや!」
「元はと言えばお前がマークしてた敵だろ! お前がロマン技に拘るから負けてんだろうが!」
どうやらチーム戦のゲームらしい。こういうゲームは、勝敗1つで罵り合いが起こるのはよく聞く話だ。
俺が周りを見ると、他のお客さんたちは不愉快そうにそれを見ていた。他の人もゲーム中だから注意することは難しそうだし、何より変に関わって傷害沙汰になることを恐れているのだろうか。
「……仕方ない」
俺は満を持して、彼らのいるアーケードゲームの筐体に足を踏み入れた。
「そこの二人」
「アァン⁉」
「ンだよ。何か用か?」
俺が声をかけると、二人はガンを飛ばしてくる。敵意満々、一触触発。今にも手を出してきそうだ。
「君たち二人は……ランクDか」
「ンだよ。文句あっか?」
「コイツが味方のせいで勝てねぇんだよ」
「何だと⁉」
少し話題を出しただけで、二人は剣呑な雰囲気になる。これは少々厄介だな。
「……君の使うディテクティブバットってキャラは、遠距離のから繰り出すコンボを無理に狙うんじゃなくて、一発目は牽制程度に打つといい。相手の動き次第で次の手が出しやすいんだ。対して、スティールマンは強攻撃は強力だけどタメが長い。ただし、一発のダメージはガード越しでもバカにならない。不意打ち狙いよりも、弱攻撃で相手を捉えて、ガード上から強力な一撃を叩き込むのが強いキャラだよ」
「な、なんだお前……」
「お前もこのゲームやってんのかよ、偉そうにしやがって。そこまで言うなら対戦しようじゃねぇか」
「いや、止めておくよ」
「ンだよ、逃げんのかよ!」
「いや、俺このゲームやったことないし」
「お前ブチ殺すぞ!」
「今のアドバイスは高ランクプレイヤーじゃねぇとしちゃいけねぇやつだろ! お前よくそんなやったことも無いゲームでそんなこと言えたな⁉」
「意外と、適当なこと言ってもそれっぽくなるもんだね」
「「お前頭湧いてんのか⁉」」
俺はもしかしたら、この名も知らぬゲームの才能があるのかもしれない。凄いな、適当に言っただけなのに高ランクプレイヤーに思われたらしい。
「とにかく関係ねェ奴は引っ込んでろ!」
「引っ込まない」
「チッ。勝手にしろよ。無視するからな」
「なら、俺は君たちのプレイを後ろで見ながら、『あー、そこでそれは悪手だわぁ〜』とか『あーあ。やらかしたねぇ』って呟く役をやります」
「お前マジ殺すぞ⁉」
「ゲームプレイしてて一番やられたくないやつじゃねぇか!」
そうですね。
俺もそれをされたら液晶でソイツの頭を叩き割っていると思う。
「僕はね。何というか悲しいんだ。ゲームというのは、皆が楽しむための物。対戦ゲームは勝負とはいえ、敵同士ではなく味方同士で争うなんて」
「はっ! 門外漢が語ってんじゃねェよ。対戦ゲームで吠えるくらい悔しがられ無い奴は真剣にプレイしてねぇって事なんだよ」
「偉そうに説教してるけど、お前何様だよ」
「ゲームセンターのお客様だ」
「俺もだろ。だったら俺とお前は対等なんだから文句言われる筋合いはねぇ」
「……悲しいけど、まだうるさくするつもり何だね」
「だったら何だよ。おっ? やるか? 陰キャがよぉ。やれるもんならやってみろや!」
青年の一人が立ち上がって、拳を振って挑発してくる。
……。
とはいえ、俺は彼の挑発には乗らない。ここで殴りあったところで、俺は警察の御用となり得るし、出禁にもされてしまうかもしれない。良識的な行動をするならば、暴力はもっての外。
しかし、言葉では彼らの心に届かない。
ならば。
行動で示すしかない。
「僕は君たちを殴る気はない」
「だったら引っ込んでろよ」
「だから。俺は服を脱ぐ」
「は?」
「えっ?」
青年二人の鳩が豆鉄砲を食ったような顔を無視し、俺は制服のカッターシャツを脱ぎ捨てた。
「おまっ! 何やってるんだよ!」
「服を脱いでいる」
そして、俺はズボンも脱ぎ捨て、俺は青年二人の間に椅子を起き、挟まれるような形で腰を落とす。
「さ、ゲームを続けて?」
「続けれるかボケェ!」
「何だコイツ、頭イカれてんのか⁉」
暇だったので、俺はパンツも脱いだ。普段は人目にさらされるはずのないモノが、ゲームセンターという娯楽施設に顔を出す。なかなか、貴重な体験だ。
「いやいやいや! ムリムリムリ!」
「何だコイツ! 警察!」
青年二人はゲーム画面をつけたまま、尻尾を巻いて逃げ出した。
ま、俺の勝ち、ってところかな。
「おーい‼ 助手ゥゥゥ! 早く金をもってこイィ!」
「はいはい」
俺は、青年たちが去ったのを見て満足し、もとの目的を果たすために両替機で小銭を落とした。
「あの、少し良いかな?」
「あ、はい」
俺が振り返ると、三十路程度の男性がいた。制服を着ているところから見て、ゲームセンターの店員……いや、社員か店長かな?
「えっと、店員さん?」
俺が尋ねると、男は戸惑いつつ、
「ま、まぁね。店長だけど……。えっと、一つ聞いてもいい?」
「店長さん……お礼は良いですよ」
「へっ?」
「俺はゲームセンターでうるさくしていた客が煩わしかっただけ。別にゲームセンターの為にこんな事をしたわけじゃない。人助けでもなんでもない、俺のエゴなんです」
「は、はぁ……」
「じゃあ、俺は連れがいるんで。また来ますよ」
そう言って、俺が踵を返すと、
「あの、服、何で着てないの?」
「……」
「ちょっと裏まで来てもらっていい? 親御さん……警察にも連絡するから」
「……いや、これはうるさくしてた客を追い出すために仕方なくて」
「話は裏で聞くから。良いね」
「チョッ! 待って! 何で俺が捕まる側なんだ⁉ 俺は無罪だ!」
「助手ゥゥゥ! ショコラちゃんがァァァ! ハイエナに取られるゥゥゥ!」




