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博士と助手のさいえんす日和  作者: ぬまろー
博士との日常①
1/25

第1話 博士と来訪

作中に登場する理論や知識などは一部誤りがある可能性がございます。

そこのところご了承ください。

 米田モニは天才博士である。

 弱冠十六にして多数の論文を執筆し、それらは有名な科学雑誌に掲載されているという。それも様々な科学分野に精通しているものだから、理解に難い横文字が並ぶ多くの学会にも籍を置き、高校卒業後の進路も様々な大学、研究機関から声がかかっているとか。

 ただ理数系が得意科目くらいである俺からすれば、天の上の存在である。共通項といえば、奈楽手私立高校に通う同学年くらいであろうか。友人が多いとは言えない俺の耳にも、彼女の噂を聞き入れることは多い。平凡な高校において、おそらく彼女は最も有名な生徒であろう。


「失礼。ここが科学部で間違いないか?」


 決して広いとは言えない部室に、どこかふてぶてしさを感じる声が響く。


「ええ。まぁ……」


 俺は虚を突かれたこともあり、間抜けな返事でその来訪者を迎えた。


「私は米田モニという。君は?」


「癒音康彦です」


 米田モニ。

 クラスが隣だということもあって、俺は彼女を初めて見たという訳でもない。しかし、初対面と言うわけでもない。噂以上の事をほとんど知らず、勝手に『天の上の人』扱いしていた俺は、唐突にそれとエンカウントした衝撃に今も戸惑いを隠せない。

 日本人離れしたブロンドヘアーにブルーアイ。俺より一回り小さい体型と言うのに、堂々とした出で立ち。髪染めは校則で禁止されているので、もしかしたら彼女はこれが地毛なのかもしれない。


「部員は君だけか?」


「三年の先輩が一人いますけど、今は受験ってことであんまり積極的に顔を出さないんで、実質俺だけです」


「確か、部員が三名に満たなければ部活として認められないと聞いたが」


「去年までは部活でしたけど、今は同好会扱いです。部室のものを引っ越すにも面倒なので部室はまだ借りてますけど」


「わかった。なら私が入部すれば三人になるのだな」


「は?」


 このロリ娘は結論から物を言うらしい。


「よろしく頼む」


 なぜ、どうしてと聞く間もなく、彼女は更に続けた。


「必要書類があれば出してくれ。すぐに記入しよう」


 ☆☆☆

 

「書き終えたぞ」


「ありがとうございます」


 モニさんは部員申請の書類を俺に渡す。不備はない。後は職員室の名ばかり顧問に届ければ、彼女は晴れてこの科学部の一員だ。


「早速だが、この部の活動について聞きたいのだが」


 普通、入部する前に聞くことだろう。


「えっと、当面は文化祭の出し物として何かしらの研究成果を展示ですね。余裕があればイベントの開催もできますが、何分人数も実質二人なので展示だけでも十分かと。

 活動が盛んな年は、地域交流も兼ねて小学生とペットボトルロケット制作をするってイベントとかやってましたけど」


「では去年までの研究成果が記録されてあるデータはあるか?」


「あー、どこにあったかな」


 俺は少ない記憶を頼りに、棚を探る。ここまで偉そうに説明したものの、俺は一年なので去年までの活動記録がどこにあるのかを詳しく把握していない。

 やっとこさそれっぽい記録ファイルを見つけて、モニさんに渡す。彼女は「ふむ」と言いながらペラペラと読み流す。本当に読んでいるのか怪しいくらいの速さでページをめくっているが、彼女が天才博士ともあれば読むに値しないのかもしれない。


「まぁ、高校生ならこんなものか」


 貴方も一応は高校生ですがね。

 しかしまぁ、研究に関しては全国でも有数の成果を見せた彼女からすれば、お遊びのように思われても仕方ない。


「それで、君は現在どんな活動を?」


「まだ俺も入部して間もないので、決めあぐねてますね。試しに簡単なことをいくつかしてますけど」


「ああ、君も一年だったか」


 そういえば、名前だけしか自己紹介してなかったな。


「それで、簡単なこととは?」


「アサガオの観察日記です」


「……は?」


「まぁ、天才博士さんから見たら笑われますよね」


「私じゃなくても笑うぞ、それは……」


 こいつマジか、とも言いたげ(というか言ってる)ような顔でモニさんは呆れた。

 いや、そもそもまだ五月になったばかりなんだから、活動らしい活動ができてなくても仕方ないんじゃないか。


「いや、流石にそんな毎日水をやって日毎に記録つけるみたいな、小学生レベルのことはしてませんよ。むしろ、それにもっと踏み込んだ研究なんです」


「ほう」


「レッドブル派のアサガオととモンスターエンジン派のアサガオ、どっちが成長が早いかって研究です」


「どっちも枯れるわ阿呆」


「モニさんはドクペ派でしたか?」


「そういう問題ではない」


 モニさんはやれやれ、とんだ低レベルな研究だと言いたげにため息をつく。

 俺としては多少サボっても『毎日観察しても芽が出ませんでした』と言い切れることができ、更にどうせ同好会だしこんなものかと不真面目さを許してくれるだろう、最高の自由研究なのだが、この天才博士を前にすれば塵芥のように扱われた。


「とにかく研究題目は即刻変更したまえ。言っておくが、科学的見地から私が内容を精査せてもらう。科学を冠する団体として恥じない研究を求める」


 何だ偉そうに。

 ちょっと持て囃されてるからって調子乗りやがって。俺のアサガオをバカにしやがる。

 俺は腹立つ思いを飲み込んだが、しかしである。

 その日を境に、俺と博士の悪夢のような科学部活動が始まったのである。


☆☆☆


「高校生どころか幼稚園児でもできる研究内容。やり直し」


「活動内容が曖昧。練り直せ」


「活動内容が倫理的に顰蹙を買う。モルモットも1つの命なのだぞ? お前、精神状態大丈夫か? 病院紹介するぞ?」


 俺とモニさんの科学部活動の日々は、俺にとって最悪もいいところであった。

 まず、彼女によってアサガオの観察日記は活動停止された。理由は、小学生レベルの研究だからである。

 そして新たな研究題目の条件として、科学的価値に富み、既知の研究をさらに発展させる成果が得られる活動である。

 なんだそれ。

 と思って適当な思いつきを話してみれば、内容が稚拙だの曖昧だの、難癖つけられて突っぱねられる。

 モニさんは呆れ半分で翌日から様々な分野の論文を持ってきて、ちゃんと読むようにと押し付けてきたが、どれも睡眠導入剤のようなことばかり書かれた難解書物である。またまた彼女は呆れて、ついには読書感想文のような宿題まで課してきた。

 求めるハードルが高すぎないか。

 俺は少々の苛立ちを覚えてきたとき、彼女は唐突にこのようなことを呟いた。


「そういえば、PCはないのか?」


「ないですよ」


「ならば今まで私物でやりくりしていたのか」


「いや、知らないですけど……」


 本当に知らない。

 いや、俺も過去の活動記録を拝見したが、PCなんて必要とは思えないが。

 しかし、モニさんにしてみればPCなしで研究とは信じられないという感じである。


「ノートPCは必要だな」


「部費が足りないです」


 部費の申請について詳しくないが、それは確かに言えた。

 今までの活動から、低コスト低パフォーマンスが前提に思われる。ならばノートPCなど学校に申請して通るとは思わない。いや、低スペックの中古とかなら分からないが、そもそも部費の申請は教師から生徒会に審査が入るはずなので、それなりの理由が必要なはず。ノートがその2つの関門を通れるものか。


「ならば、君も私物を部室に持ち込めるように申請すればいいだろう」


「いや、PCなんて持ってないですけど」


「……」


 まーたやれやれ仕方ない奴だと言う顔。この金髪ロリが入部してから、何度この顔を見たことか。


「理系に身を置く身分で、なんと情けない」


「まだ文理選択してません」


「では早期に購入し、揃えてきたまえ」


 勝手過ぎる。


☆☆☆


「君の一週間を観察していたが、そろそろ言わせていただきたい」


 モニさんとの科学部活動から一週間が経つ。

 俺が論文だの四力だの微分積分線形代数だのの教材を並べたテーブルに飽き飽きしている中、彼女は唐突に言ってみせた。


「流石に自堕落すぎないか」


 何をいうか金髪ロリ野郎。


「これでも、クランバトル時にはクラン内上位になるほどの活動をしてましたけど」


「そもそも部活中にプリコネはやめたまえよ」


 なんて酷い発言だ。

 そもそも、俺の科学部活動はソシャゲの周回をしたり、読書したりの生活である。しかし彼女はまるで科学部員のような発言でそれに誹謗中傷する。許せないなこのロリ。 


「そもそも君はまだPCを用意し、研究活動に専念する気もない。そんな体たらくで貴重な部活動を潰してしまってなにか思うことはないのか。私がせっかく用意した論文にちゃんと目を通しているか。 君のディスクにある教材だってそうだ」


 くどくどくどくど。

 モニさんの口は説教をしだすと止まらない。一週間、こればかりだ。

 俺はそもそも彼女に見合う高尚で意識の高い部活動ライフを求めているわけではない。自堕落で、日々の暇を潰すようにプリコネをしたり読書をしていたいだけだ。

 逆に言わせてほしい。

 ここに偉そうに物を言う金髪ロリこそ、俺にとって有意義な自堕落生活を潰している。

 そう思うと、腹立たしさが芽生えてきた。

 こうなれば、俺はこのロリータをいっちょ分からせてやらなくてはならないだろう。


「モニさん……。確かに今週の俺の姿を見れば、そう思うのも当然だと思います。しかしですね、それは貴女のせいでもあるんですよ」


「というと?」


「いえね? 俺たちは確かに思いを共にした科学部員の仲間かもしれません。しかし、それと同時に男女でもあるわけです」


「なるほど、見えてきたぞ」


「男女、密室、七日間……。何も起きないはずがないんですよ。確かに貴女は女性としては未発達で性的魅力は皆無ですが、しかし生物学上雌には変わりありません」


「皆まで言うな……。わかるぞ。私のセクシィダイナマイツボディを前に、君はたじろいでしまって集中できないのだろう。いやいや、悪いね。美しさセクシィさは罪だね」


 調子に乗るな。


「とにかく、いつか俺は貴女に対して間違いを働いてしまう可能性もあるわけですよ。男女の体格差くらいわかりますよね? 俺がちょっと押し倒せば貴女は玩具のように弄ばれてしまいますよ」


「つまりは、性的衝動による間違いが起こりうるということが。しかしそれなら私はどうしたらいいか」


「悪いことは言いません。他の部活に行くか、研究にしても他のところでやることをおすすめします」


「なるほどな」


 納得してくれたのか。

 と思ったが、彼女の表情を伺う限り、素直に従うようでもない。

 というか、脅しに対しても平然としていて、危機感がなさそうである。

 こうなれば仕方ない。

 力で分からせるしかないな。

 と、思い至ったがなんとやら。俺はこれみよがしと立ち上がって、カーテンを閉め、部室に鍵をかけて、ちょこんと座布団に座って読書しているモニさんの前に立つ。俺の影が、小学生ほどの体型であるモニさんにかかった。


「な、何をする気だ。大声を出すぞ」


「声を出したらね、すぐ口を塞がれて後が無くなりますよ」


 我ながら、手際の良い脅しである。

 引き金を引くのは貴女の方ですと言うわけだ。もしかしたら、俺にはこういう才能があるのかもしれない。


「腕相撲をしましょう」


「……は?」


「いや、冷静に貴女の肢体を観察すると、襲うほどに性的な魅力がやっぱり感じられなくて……。俺ロリコンじゃないし……。でも力でわからせてやるといった手前、何もしないわけにもいかないんで、とりあえず腕相撲しません?」


「最低の行動を最低の発言で上書きしてきた……」


「と言うわけで、ほら、さっさと腕出してください。俺が勝ったら、今後は科学部での活動は貞操の危険があると判断して退部してくださいね」


「……」


 今までモニさんの呆れた顔はよく見てきたが、今回限りは哀れみの表情をしていた。

 まぁ、それも今回限りだ。こんな小学生みたいな少女相手には純粋な腕力でわからせるに限る。

 

☆☆☆


「いだいいだいいだい! ああああああ〜〜! じぬぅ! じんじゃうのぉ!」


「おやおや、康彦くん。また負けてしまうのか? 自分より一回り小さい女の子にまた腕相撲で負けちゃうのか? ほれほれ、最初の威勢はどうした? こうしたらどうなるかな?」


「いだいのぉ! もう死んじゃうのぉ!」


 分からされた。

 腕を組んだ途端、電撃の様な衝撃が体に走った。彼女によれば、どうやら手の組み方次第で相手の人体の急所を突き、激痛を走らせることが可能らしい。すごく痛い。

 この時点でもはや十全に力を出せないのだが、更にモニさんはジムにも通っていて、それなりに力には自慢があるとか。見た目は細腕だが、その中身はゴリラのようだった。

 すでに五連敗。

 俺は悔しさから何度と再選を申し出て、モニさんは面白がってそれらを承諾。そして何度とわからせられた。


「おやおや、もうそろそろ君の手の甲が地に伏しそうではないか。どうした? これでは女の子に腕相撲で負けてしまうぞ?」


「いやなの! 女の子に腕力で分からせられちゃうの! もう負けたくないのぉ!」


 まるで女の子のように悲鳴を上げる姿が、部室を超え、棟全体に響き渡った。

閲覧して頂き、ありがとうございます。

日々の空き時間の中、暇を見つけてスマートフォンで執筆している為に改行など読み辛い部分があるかもしれません。

不便を感じることがあれば、感想欄などでお教え頂けると幸いです。

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