11-9 本心
家に帰った義弘は、来週のスケジュールを見て、誘いのメールを女性に送った。もちろん返事はOKだった。
「やったね義君!私達の勝利だね。本当に良かった。加藤さんかわいいし、いい子じゃない。おめでとう」
婚活が成功したのも嬉しかったが、里見が喜んでくれたことが、何より義弘を歓喜させた。
「ありがとう。里見さんのおかげだよ」
里見は立ち上がると、キッチンに立った。
「じゃあお祝いに、今日は義君の好物、唐揚げを作っちゃおうかな。……義君がお風呂から上がるまでに作っておくから」
義弘は里見に言われるまま風呂に入った。お湯はいつも里見さんが溜めてくれているから、いつもこんなタイミングで入浴していた。ただ、いつもと違ったのは、風呂から上がっても、里見さんがいたことだった。里見さんは晩御飯を作るといなくなるというのが、二人の生活パターンだった。
「里見さん、今日はどうしたの?」
義弘が聞くと、里見さんはテーブルの椅子に腰掛けた。
「こういうのも、終わりかなって思ってね」
「どういうこと?」
「梢女さんに、義君の婚活を頼まれたけど、もう私がすることはなくなったように思うの。それに彼女ができたのに、私みたいのがいるのは変でしょ。だからこうして話せるのも最後だろうって思って」
義弘は里見の話を聞くと、何も言えなくなって、その場に立ちすくんだ。
「私って、義君に厳しいことばかり言ってきたから、義君には窮屈な思いをさせたと思うんだ。でもこの数週間、私にはとってはこれまでにない楽しい期間だったの。これも全て、義君のおかげ。……それを言いたかったの。ありがとう」
「義君には、いつももっと優しくなろうなんて思ってたのに、見てるとつい、厳しい言い方になってしまって……でもこんな私なのに、素直に受け止めて、一歩一歩成長している義君を見ていると、本当に自分のことのように感じて、幸せを感じたの。たくさん話せたし、今までできなかったことをいっぱいやれて……もう、心残りはないわ。これで気持ちよくここを去れそうよ」
そこまで言うと、里見はフッと消えてしまった。
義弘はなぜか分からないが、心に大きな穴が空いたような、自分の一部がどこかへ行ってしまったような、なんともせつない感情に囚われて、しばらく何もできなかった。
そしてその日以降、里美は姿を現さなくなった。