10-8 復讐
梨穂が取り出したのは、ベロを車で跳ねた加害者からの謝罪文だった。
「今見ても腹が立つ。謝罪したいなら、家まで来いって言うのよ。しかもこのきったない文字。こんなのだったら、パソコンで打とうとか考えなかったのかしら」
梨穂はテーブルに手紙を置いて、スマホのベロを近づけた。
「ペロ。こいつの匂い覚えて。色々混ざってると思うけど、そこから私と私の部屋の匂いを削除して。それが悪者の匂いだから」
やりながら梨穂は、自分の行為に陶酔し、気分が高揚してくるのを感じていた。
(悪いやつは、世の中からいなくなればいいのよ。そうすればペロみたいな、私みたいな思いをする人はいなくなるんだから)
次の日、梨穂は目覚めると、一番にスマホを開いた。ベロの様子を見るためだ。
もし、ペロが思い通りの行動をとっていたら……、
血だらけになったペロを想像するとゾッとしたが、楽しみの方が先にあった。
「ない!どうして?」
梨穂のスマホからベロのアプリがなくなっていた。昨晩まであったはずなのに、どこを探しても見つからなかった。
梨穂は絶望に打ちひしがれた。
ーー那楽華の湯ーー
「今回は危なかったですね」
受付の女性が梢女に話しかけた。
「本当に……。あの子があんなに殺意を秘めているとは思わなかったわ。あのアプリは人間にとってオーバーテクノロジーだったってことね。私は危うく殺人の幇助をするところだったわ」
「殺ってたら、大王様にお仕置きを食らっていたかもしれませんね。早希の母親のことでも(第6章)怒ってましたからね。『未来を変えるんじゃない』って」
梢女は体を震わせた。
「やめてやめて、思い出しただけで身震いするから。とにかく梨穂って子はやばかったわ。あのままにしてたら大量殺人してたかも。梨穂自身も地獄の最下層行き決定となるところだったわ」
「あの子あれからどうなるんです?」
「知らない。もうあの鬼みたいな人間と関わりたくないわ」
梢女はもう懲り懲りという様子で何処かへ消えていった。
「鬼の梢女さんが言うことですか」
受付の子は苦笑いした。
第10話、最後まで読んでいただきありがとうございます。次話は、婚活に失敗ばかりしている男の話の少し切ない話です。