9-5 若手ナンバーワン
こうなると、笑門の勢いは止まらなかった。関西系のテレビ番組が次々と決まり、演芸場は毎日出ることが当たり前になった。
そして、今年のお笑いナンバーワンを決める「なにわお笑いグランプリ」
「こんにちはー、笑門でーす」
「最近、ちょっと運動始めてなあ。運動すると頭もスッキリして気持ちええでえ」
「まあ、この腹見ると、そろそろ始めた方がええかもな。それで、どんな運動してん?」
「運動か?こうやって、足をまず動かしてからな、右手に体重を乗せてグッと押す。その後、右手、左手って上げて、おはようございますって言うんや」
「そりゃお前が、ここに入ってくる時の動作やないか」
「ダメかあ?ほな、他のでいこか」
最終戦も大爆笑を誘い、見事グランプリに輝いた。そこから二日くらいは、寝る間もないくらいのテレビ出演が続き、笑門の知名度は全国レベルになった。
しかし、ふっと一息ついた時、笑太は、この笑いは実力なのか、まやかしなのか悩むようになっていた。
「何や、一人だけ深刻な顔して、ほら、CMまた決まったで」
福助が心配して声をかけてくれることもあったが、温泉で起きたことを信じてくれるはずもなく、真実は話せなかった。
「なあ、俺ってホンマにおもろいか?」
福助は目を丸くして、微笑んだ。
「グランプリとったウチらがおもろくないわけないやろ。特に笑太の話は普段からおもろい。聞いただけで笑い転げてしまう。俺が保証したるわ」
そこが問題なのだ。と笑太は思った。那楽華へ行ってから、誰かと会話していると、自分が意図してないところで笑われてしまうことが幾度となくあったからだ。
「ネタを聞いた人が大笑いする」そう言った……。笑いのネタとは言わなかった。だから、笑太が何か話題を話すと、どんなことでも周りが反応するのだ。