8-9 もういいのに
「うわ!すげぇの撮れてる!」
賢三の雄叫びで目覚めた佳奈は、寝室のベッドから起き上がり、賢三の声がするリビングへ行った。
賢三は床に座って、昨夜の記録映像をチェックしている最中だった。
「カナちゃん起こしちゃったか、ごめん」
いつの間にか呼び方がカナちゃんになっていた。
「これ見て、ほらここ」
その動画には、くっきりと、呪いさんの顔と手が写っていた。
「良かった」
佳奈は呪いさんに感謝した。
「カナちゃんのおかげだよ。本当に助かった。ありがとう。……これで気持ち良く次の物件に行けるよ」
「えっ?」
佳奈は耳を疑った。
「でも、最後にこんなすごいの撮れるとは、思ってもいなかったなあ」
佳奈はやりすぎたのだと分かった。スッと影だけ見せる程度にしておけば、賢三は残ったかもしれないが、はっきりと顔と手の映像が撮れたことで、賢三は満足してしまったのだ。
賢三はテーブルに置いてあったメモを佳奈に渡した。
「これ、今度の引っ越し先。カナちゃんといると楽しいからさ。遊びに来てよ。今度はもっとうまい物作るからさ。……それよりデートかな?うん、お礼を兼ねてさ」
思いもよらぬ誘いに、佳奈の鼓動は高鳴った
「ナルケンさん居なくなるの寂しいけど、デート受けます。どこにでも連れてってください」
佳奈は賢三の胸に顔を埋めた。
呪いさん出演の動画は人気を博し、再生回数二百万超えを果たした。そして賢三の登録者数も一気に二十万を超えた。
二年後佳奈は、新築一軒家に引っ越した。
これで呪いさんともおさらば……そう思っていたらーー
佳奈達が新居に入ったその日に、呪いさんはやってきて、隣の人を追い出してしまった。
そして、今やその家は地域の心霊スポットとなっている。
「もういいのに……」
お腹の大きくなった佳奈が、隣の家を見て呟いた。
「やっぱり、佳奈はああいうの引き寄せる力をもってるみたいだな」
賢三が後ろから抱きついてきた。
誰もいないはずの隣家の明かりが、何度も何度もついたり消えたりしていた。
第8話、最後まで読んでいただきありがとうございます。気に入っていただけたら、ブックマーク登録お願いします。第9話は売れないお笑い芸人の話です。