1-6 ブン太との生活
「ブン太、猫なのにニャーとかニャンとか言わないのね」
「ナルタンはそんな喋りがいいのかニャン? 希望するならそうするニャン」
「いや、やめて。私に移りそうだから」
服を着たブン太はスラっとしたさわやかイケメンだった。身長は丈瑠ほど高くないが、それでも百八十五センチある丈瑠の服を普通に着ていることから百八十くらいはありそうだった。顔も猫らしく、小さくシュッとして、少し吊り上がった涼しげな目が成美の心を捉えて放さなかった。
ブン太との日常は、成美にとって新鮮で楽しいものだった。猫だから気まぐれなところもあったが、料理や掃除、洗濯も教えればやってくれたし、何より自分のことだけを見ていてくれることが、今の成美の心を癒してくれた。
仕事から帰ると、ブン太の作ってくれた晩御飯を食べ、愚痴を聞いてもらい、一緒にお風呂に入る。そんな毎日が続いた。そして丈瑠のことをほとんど思い出すこともなくなりかけていた頃……丈瑠から電話がきた。
成美は一瞬迷った後、電話に出た。
「はい、成美です」
横にはブン太がいて、いつものさわやか笑顔で成美を見ていた。
「成美……ちょっと会って欲しいやつがいるんだ。最後の願いだと思って来てくれないか?」
どうして今頃。と思ったが、丈瑠の意味深な呼びかけに成美の気持ちも動いた。
「いいよ。暇だから」
「ありがとう。嬉しいよ。……じゃ、駅前のマックで待ってるから」