1-5 ブン太
成美が家に帰り、電気をつけると、カラーボックスの上に全裸の男性が座っていた。
「ぎゃー!!」
成美は六階建てのアパート中に鳴り響くほどの悲鳴をあげた。
「そんなに驚かないでよナルタン」
「あんた誰よ!警察呼ぶわよ」
叫んだ後、成美は自分でも不思議なほど冷静になった。しかも不思議と恐怖心はなかった。
アニメなんかでいう「あいつから殺気は感じなかった」からなのかもしれない。もちろん成美にはそんな能力はないのだが……。
「ぼくだよ。ナルタン。……ブン太だよ」
本当に親しい友達しか使わないナルタンという呼び方、ブン太のお気に入りの場所にその男がいる事、本当にブン太なのかも……という思いがわいてきた。
「ブン太なら私が最近気にしてること言ってごらんなさいよ」
「太ったことでしょう? 失恋太りw……人間はストレスで太るんだよって僕に教えてくれたよね。昨日の体重五十……二点三だったかな」
成美はそれを聞いて確信した。昨日の体重をピタリと言い当てたからだ。
「ブン太!ブン太なのね」
ブン太は自分の名前を呼ばれて、カラーボックスの上からまるで猫のように──いや、実際猫なのだが──成美の胸元に飛び込んだ。
「ギヤー!」
成美は両手でブン太を弾き飛ばした。無理もない……今のブン太はどこから見てもただの全裸男子なのだから……。
ブン太はしなやかに転がり、成美を見た。
「とにかくこれを着てちょうだい」
成美は丈瑠のために残しておいた衣服をブン太に渡した。