5-6 訴える女
瑠美は梢女の指示を受け、一樹を訴えた。ーー慰謝料三百万、貢いだお金の返済五百万
訴えたのは、お金欲しさでなく、一樹の家庭崩壊を狙ったものだった。
瑠美の思惑通り一樹の夫婦仲は崩れ、家庭では一樹の妻が泣き崩れた。
「結衣、信じてくれよ。あれはあの女のでっち上げなんだ。一回関係を持ったのは謝るよ。二度としない……だから。なっ」
泣く母親のそばでどうしていいのか分からない二人の姉妹は困惑した顔で母親を見ていた。この夫婦は少なくとも子供の前で喧嘩などしたことがなく、それを初めて見た子供はどうすれば良いのか、皆目見当がつかない状態だったのである。
裁判は二度三度続いた。しかし裁判というのは、証拠が無ければ思うようにはいかないものである。貢いだお金は借用書もなく、結婚の約束も口約束だけで、メールにすら残っていないのである。
結果、瑠美の訴えは退けられ、裁判費用だけが残ることとなった。
それに追い打ちをかけるように、一樹の妻結衣が瑠美を訴えた。
結衣に対する慰謝料三十万円が課せられた。しかも一時は成功しかけた家庭崩壊も、一樹の嘘を絡めた謝罪で、元の鞘に収まっていた。
結衣もまた、一樹を愛していたのだ。
瑠美は激しく裁判所の机を叩き、顔を伏せた。