1-3 ヒアリング
「担当……ですか?私なにも頼んでませんが……」
「失礼ですが、何か悩みを抱えていらっしゃるのではありませんか?それをお話しください。私どもで解決してさしあげます」
(なるほど……誰かの悪だくみかしら?それにしても大掛かりな……。ふっ。いいわ。騙されたフリして、こっちがからかってやりましょう)
「そうですねえ、実は五年つきあっていた彼氏と別れまして……なんとかしていただけますか?」
成美は意地悪そうに言った。
「かしこまりました。ではどのようにして解決いたしましょうか。当方では解決方法を依頼主様に提示していただくシステムとなっておりますので、よくよくお考えください」
(解決すると言っておきながら、その方法は任せるなんて、本当にあやしい。だいたい解決方法なんて一つしかないじゃないの)
「この邪魔な記憶。……彼との記憶。全部消して下さい。二度と思い出したくないんです」
「かしこまりました」
梢女は成美の額に軽く手を当てた。
「では少しだけ記憶をのぞかせてください」
風呂に入っている客の額に店員が手を当てる。そんな滑稽な光景があるだろうか。
(なに?これ……まるでコント……)
梢女は手を離すと、暫く考えて言った。
「お客様の記憶の半分は丈瑠さんとの関わりがあるので、それを消してしまうと五年分の記憶がまるごと喪失されてしまいますが、それでも構いませんか?…あと、コントってなんでしょう」
(この子、私の考えをよんだの?)
成美はゾッとして浴槽から出た。