3-5 迷路
那楽華の湯の履歴はスマホのどこにも見つからず、検索にもかからなかった。
省吾は自販機のある場所から歩き始めた。曖昧な記憶を頼りに……。
チラシが残っていることも期待していたが、貼られた後すら残っていなかった。
1時間も歩いただろうか……那楽華の湯は見つからず、それらしき住宅地にさえ辿り着くことはなかった。
諦めかけていたその時……スマホの呼び出し音が鳴った。
非通知?!
非通知着信拒否設定をしているのに、有り得ない……しかしそれを言ってしまうと、ここ数日、省吾の周りで起きていること全てが有り得ないことなのかもしれない。
そう思うと、省吾の指は自然と動いていた。
「那楽華の湯の梢女ですが、またお困りですか?」
梢女から電話がかかってきたことに違和感を覚えながらも、渡りに船とばかりに話を進めた。
「そちらの場所が分からないんですよ。教えてもらえませんか?」
「また当施設をご利用いただけるのですね。ありがとうございます。それではそのまま振り向いて下さい。タバコ屋は見えませんか?」
梢女の言う通り振り返ると、遠くにタバコ屋が見えた。
「見えました。そこを左でしたね」
「そうです。それではお待ちしております。気をつけてお越し下さい」