2-5 まさかの出来事
次の日、純子が朝食を持って諭の部屋の前に行くと、諭の唸り声のようなものが聞こえてきた。
「諭?どうしたの?あけて!」
純子は激しくドアを叩いた。何度も叩くと、諭が這うように部屋から出てきた。
「あんた、顔が真っ青!」
諭は腹を抱えてそのまま倒れてしまった。
「お父さん!救急車呼んで!諭が倒れた!」
胃潰瘍──二週間の入院だった。
お医者さんからは「お子さんも四十五ですから、定期検診くらい受けた方がいいですよ」と呆れるように言われた。
健治の運転する車で帰る途中……純子は呟いた。
「まさかね」
(家を出て働くという願いの半分だけ叶ったとか。そんな訳ないか。二週間で戻ってくるんだし)
純子は諭の手術後しばらく病院に通った。さすがに病院では暴言や暴力を向けられることはなく、普通?の親子の様に振る舞うことができた。
「諭さんのお母さんですね。似てらっしゃるので、すぐ分かります」
担当の看護師が検温に来た。丸顔で朗らかな感じのよい女性で、純子は好感をもった。
「この子が子供の頃よく言われましたよ。今は体形まで似てしまって」
純子は自分の腹をポンポンと叩いて見せた。
「余計なこと言うなよ」
諭が睨んできた。
「36.1」
看護師は忙しそうに病室を出ていった。
「いい感じの看護婦さんね」
「そう?」
諭はそっけなく答えた。