2-4 母の願い
「純子さん、私も同じように苦しんでいたけど、この温泉で願い事をしたら、悩み事が消えたんですよ。あなたもやってみたらどうですか?……騙されたと思って」
本当にそんなことができるなら、ぜひやってみたいと思った京子は、身を乗り出して尋ねた。
「やりますよ。どうしたらいいんです?」
梢女は予想通りの反応をする京子に、笑顔で答えた。
「では、どうしたら解決できるか、具体的に考えてみてください。何か思いつきますか?」
「だったら決まっています。諭が自立する。……それだけです」
「自立……ですか。具体的には、諭さんがどうなることでしょうか」
(自立は自立に決まっている)と思った純子だが、具体的な姿を聞かれると、返答に困った。
「そうですねえ……家を出て働くということでしょうか」
「なるほど……それが一番ですわね。純子さん、やってごらんなさいよ。お風呂で目を閉じて、今言ったことを願うだけでいいんです」
純子は目を閉じ、梢女に言われた通り、諭が自立するように強く願った。今の諭からは具体的なイメージがわかなかったので、ひたすら言葉で願った。
そして目を開けた時には、梢女という女性はいなくなっていた。
「ふっ、なんだか乗せられてやっちゃった。……リラックスするために来たのに、なんだか疲れたわ」
それでも、諭が本当に自立するのであれば、何かと引き換えにしてでも叶えたい。なんとかならないかと思う京子だった。
「諭の自立かあ……本当は十歳くらいに戻して、やり直したいのだけど……」
純子ものぼせそうになったので、風呂から出た。夫の健治は結局道に迷い、家に帰ったということだった。