2-3 母の休養
「やっぱり大きなお風呂はくつろげますよね」
「えっ、えー」
純子はぎこちなく答えた。
「少しお話ししませんか?……私、梢女といいます」
「こずめさん……ですか。珍しいお名前ですね。私は本木純子といいます」
「純子さん……と呼んでいいですか?」
純子は軽く頷いた。
「実は純子さん……私……その背中のアザが気になってしまって、お隣に来てしまいました。……あっ、気に障られたらごめんなさいね」
純子は顔をしかめた。一番触れて欲しくないことを、初対面の相手にズバッと言われたからだ。
純子の体にはいくつかのアザがあった。それは諭の暴力を受けたためにできたものだった。
「ちょっと転んでしまいましてね。気になさらないでください」
「そうですか……それならいいのですけれど……私も数年前までそんなアザが絶えないことがありましてね。原因はお恥ずかしいのですが、息子の暴力によるものでして……それは大変で……」
「今もここの傷跡が消えないんですよ」
梢女は右肩の傷を指差した。
梢女が話す家庭内暴力の話を聞きながら、純子は次第に親近感を持ち始めた。
「私も実は……」
純子は苦しい胸の内を話し始めると止まらなくなった。
梢女はそんな純子の肩を叩き、励ました。