2-1 熟年夫婦
第2章 自立
引きこもりの40代息子を抱える母親は、那楽華の湯で息子の自立を考え、その解決方法を模索する。そして導かれた結果は……
本木 純子 68歳
一人っ子の長男 諭(45)夫 健治(71)の3人家族
「お前が……お前が悪いからこうなったんだろ?黙って俺のいう通りにしろよ。お前には言い返す権利なんてないんだからよお」
今日もちょっとしたことで引きこもりの諭がキレて、純子たち夫婦に暴力を振るってきた。
(もういっそ、この橋から飛び降りて死のうかしら)
買い物帰り、橋から身を乗り出して川の水面を見ていると、何かが足に絡まった。
拾い上げて見ると、一枚のチラシだった。
「この湯に浸かれば、どんな悩みも解決!入泉料500円 タオル貸します ── 那楽華の湯──」
(そういえば、日帰り温泉なんてしばらくいってないわね。お父さん誘って行ってみましょうか)
家に帰った純子は健治にチラシを見せた。
「おう……風呂くらいなら行っていいぞ。どの辺だ?その温泉」
純子はチラシを見た。チラシには、「詳しくはこのQRコードを読み込んで」と書いてあった。
「もう……何?このQRコードって」
「わしは知らんぞ。聞いたこともない」
「これじゃ分からないわね」
純子ががっかりしていると、スマホに一通のメールが送られてきた。そのメールを開くと、スマホの画面に那楽華の湯までの地図が表れた。
「最近のスマホって便利ね」
何か高度な技術がはたらいたくらいに考え、目の前で起きたことにそれほどの違和感を持たない純子だった。
2人は地図にしたがって歩き始めた。