1-1 ならかの湯
入浴すると悩みを解決できる銭湯があるという。対人関係、金銭トラブル、子育て…様々な悩みを抱えた現代人が、半信半疑でその銭湯を訪れ、藁にもすがる思いで悩みを打ち明ける。しかし慎重に解決策を選択しなければならない。なぜならそこは、地獄の入り口と繋がる那楽華の湯なのだから……。
27歳独身女性、市之瀬成美は、五年間付き合った彼氏の浮気を知り、三日前にけんか別れしたばかりである。
現在|悲痛の真っ只中にあり、過去と決別すべく、スマホに残る丈瑠の写真をひたすら消去していた。
別れてからの三日間、丈瑠とのやり取りを思い出しては、ため息を大量生産していた。
「成美は俺を縛りすぎだよ。……あの子とは何の関係もないって言ってるでしょ! どうして分かんないかなあ。こんなだと、もう無理だね。俺たち終わりだよ」
「んー、もう!」(飲まなきゃ、やってられない)
成美の気持ちを察したのか、唯一のパートナー、猫のブン太が膝の上に乗ってきた。
「ごめん、ブン太、コンビニ行ってくる」
成美はブン太を膝から下ろし、近くにあったカバンを持って立ち上がった。
その時、……郵便受けに何かが投函される音が聞こえた。
入れられたのは一枚のチラシだった。
「なに?これ。ナラカの湯なんて聞いたこともないんだけど。新しくできたのかなあ」
成美はチラシを靴箱の上に置いて、予定通りコンビニに酒を買いに行こうとした。だがチラシの内容が妙に気になって仕方なかった。
「この湯に浸かれば、どんな悩みも解決!入泉料500円 タオル貸します ── 那楽華の湯──」
(宣伝文句が変だけど、お風呂で厄払いするか……)
カバンに必要なものを詰め込み、早速家を出た。
チラシに載っている地図を見ると、家から七百メートルの所に那楽華の湯はあった。
「こんな近くに温泉?聞いたこともないんだけど……」