三十七話 出陣
「来る。」
ここ何日間か人化せずに、耳に魔力を集中させて遠くの音を聞いていると、音探知が出来るようになっていた。そんなある日、ガイスの迷宮の向こう側、エルフの里付近で、明らかに大きな翼が羽ばたく音が聞こえた。
「エルフがか。」
クロノアが呟いた。謁見の間で王様に会ってから、俺が大人しくなったもんだから、どうしたのか聞かれていた。それで、音探知をしていることを知っていたんだ。
「あぁ。竜種十体とエルフ二十人、竜種以外の魔物十体だ。」
多いな。魔力、体力足りるかなぁ。
「よし。今すぐ出陣だ。」
王都からは離れた場所まで来れたが、ガイスの海に繋がる森までは辿り着けなかった。竜種の飛行速度が速い。俺はアース王国軍全体に結界を張り、シヴィには更に結界を張った。
「ルヴィ、俺は大丈夫だから。」
「嫌だ。」
結界を張る時、そんな会話をした。クロノアは「相変わらずだな。」なんて言っていた。
俺はアース王国軍とエルフ軍の中間くらいまで飛んでいった。巨大化はしない。当然、縮小化も人化も。他の技に比べて魔力消費量が多いからな。
「ここから立ち去れ!」
「竜よ。この国に居たか!お前が来るなら望み通り去ってやろう!」
クロスのお爺さんだ。里長自ら出向くということは、エルフの里に居る竜種はこれで全部かな。下級が八体に中級が二体。どれも一回進化しただけだった。それ以外の魔物は、中級九体に上級一体か。上級はクロスのシャドウウルフだ。
「お前らに付いていくわけがないだろう!」
「ならば、力ずくで連れていくまで!」
お爺さんの指示で全竜種がブレス攻撃をしてきた。おいおい、進化前だったら、俺死んでるぞ!?ホーリーウォール!大きめの防御壁を作った。この技は反射するんだ。つまり、全ブレスがエルフ側に戻っていった。半分には避けられたが、半分は命中した。すかさず、ホーリーアイスレイン。エルフ達の頭上に大きな魔方陣が浮かぶと、そこから斜めに広がるように氷が雨のように降り注ぎ始めた。
「熱っ痛っ!?」
エルフの誰かが言った。そう、熱いんだ。俺が敵と認識した奴には。氷に聖なる光を纏わせているからな。
「そんなちまちました攻撃で!馬鹿にしおって!」
馬鹿にはしてないんだけどな。だって効いてるし。特に竜種でない中級の魔物はかなり弱っている。まだ何もしていないのに。可哀想。って俺の攻撃か。また、ブレスで攻撃してきた。馬鹿にしてるのはどっちだ?
◇シルヴィ日記◇
ルヴィは俺に結界を張って、エルフ側に向かっていった。自分の身くらい護れるのに。
エルフ側が攻撃してきた。もし、エルフ側の竜種がルヴィと同じようなステータスなら俺達人間は足手まといだ。そう考えるまでもなく、竜種の攻撃は一つ一つが大きく、威力も凄そうだった。だが、それを全部ルヴィが跳ね返したから被害はなかった。それでも攻撃しないわけにはいかない。ルヴィを狙っているのだから。
王立騎士団は下から弱った魔物の相手をしている。竜種から降りるときにルヴィの攻撃が当たっていたんだ。それでも中級の魔物だから手こずっている。
王立魔法師団はみんなで協力して一つの魔方陣を出して、竜種に攻撃している。効いていなさそうにしか見えないけど、それでも攻撃を止めない。




