十七話 二人きり
「何だ?」
クロノアは俺を屋上まで連れてくると、防音結界まで張って互いに向き合う形を取った。それも俺を両手で持って。この構図は小さい俺にとっては、顔が近くに感じて嫌なんだが。
「ここまで賢い竜種は居ない。ルヴィリカ、お前は何者だ?」
何が目的だ?
「俺は俺だよ。逆に聞くが、なぜ居ないと断定出来る?」
「父上に竜種のことを聞いたら、王族のみが見れる書庫にある竜種の本を与えられた。」
やっぱり隠されてたか。
「それにどのくらい賢いか書いてあったと?」
「あぁ。人間には及ばないが人間の次に賢いとあった。だが、お前は人間と同等だ。何故だ?」
怪しまれているが、転生者なんて気付くはずもないだろう。知られたら何かに利用されるかもしれない。
「答えたくないね。その本には竜種の強さについて書かれていなかったか?」
「?進化前は弱い。だが、進化先に初級、中級、上級全てが含まれており、その全てが魔物の上級の強さとなる…と。何故、竜種のお前が俺に聞く?」
不思議に思いながらも、答えてはくれるんだ。
「俺は竜種だが、竜種のことを知らないからだ。」
「親に聞いていないのか?」
「前も言っただろ。竜種と会ったことがないと。確かに生まれてすぐ親は見たが、話をする暇なく別れ別れになったんだ。会ってないに等しい。」
「知らないことはわかった。だが、生まれてすぐからそんなに意識があったのか。本当にお前は何者なんだ?」
また怪しまれた。危ない危ない。
「興味本位で聞いているなら絶対に答えない。」
「俺はお前がこの国を害する者かそうでないか見極めねばならない。今、その気がなかったとしてもだ。」
それなら、転生者であることは言わなくても良いな。
「それに対する答えは、お前達次第だ。シルヴィを害する者に対して俺は敵対する。俺はシルヴィに護られてきた。だから、シルヴィを護る為だったら何だってするつもりだ。」
「俺はシルヴィを害するつもりはない。友だからな。だがそうか、意地でも答えてはくれないか。」
困った顔をするクロノア。
「シルヴィの守護者。それで良いじゃないか。」
対して笑って答える俺。
「もうそれで良い。」
クロノアは困り笑顔で降参した。
「守護者と言うなら早く進化してシルヴィを護れ。」
「言われるまでもない。」
キリッとした表情で当然のことを言うクロノアと同じ表情で言ってやった。
◇クロノア日記◇
最初は弱い竜種を親友と呼ぶ面白い者が居ると思った。竜種は人の手が届かない場所で暮らしている。例えば、牢獄だったり、屋根裏部屋だったり。この国の王子である俺が何故知っているのか。幼い頃に広い城を探検していたからだ。その時に見た竜種は、追いかけたり、捕まえたりしようとすれば逃げ、何もしなければじっと此方を見る程度だった。だが、ルヴィリカは違う。人に慣れているのはシルヴィと一緒に居るからだろうが、人と同じように話すようになった。城で育てられている魔物で念話が出来る魔物でも、単語を言う程度しか出来ない。竜種は育てられていないから、父上なら知っているかと思い、聞いてみると、王族のみが見れる書庫に案内された。初めてこの書庫に入った。今までは幼いからと入る許可が降りなかった。そこにあった竜種に関する本。「人間には及ばないが人間の次に賢い。念話が使える竜種とは片言でかろうじて会話が出来る。」かろうじてか。ルヴィリカは普通に会話が成立している。成立しすぎている。ルヴィリカは普通の竜種とは違うのだろう。先日、生まれた時から意識がはっきりしていたかのような会話をしていた。俺がそう思っただけかもしれないが。だが、怪しい反応もしていた。何かを隠していそうな。それを確認する為に何者か聞いたのだが、言わない。その隠していることが国の害になるなら、その時は。