終章~黄金旗の行方~
「こうして草原と隣接する四ヶ国の軍は壊滅した。
魔の者が現れた噂は敗残兵によって各国に広まり、草原に手出しする王はいなくなった。
結果、この地は平和になった」
老人はそう言ってこの物語を締めくくると、ゆっくりと腰を伸ばして立ち上がった。
「しかと心に刻み込め。いつか必ずこの物語が必要となる日がくる」
少年は座ったまま語られた物語を心の中で反芻している様子だったが、老人についで立ち上がった。
「うん。僕は忘れない。約束する」
「うむ、そうか。では最後に見せよう、私の業を。騎士の一刀を」
輝く瞳で見上げる少年を前に老人は右手を天に上げた。
手刀を大上段に構えた老人は、もはやこの丘の上へ登ってきたときのような哀愁漂う老残者ではなかった。背筋は伸び、両足は力強く大地を踏みしめ、眼光は周囲を威圧して、少年には老人が正真正銘、ひとりの騎士と映った。
老人は静かに呼吸を整え、天地一体、忘我の境地に至ったとき、手刀で空を切った。
「王道楽土は我が手の先に!」
それは老人の生涯最高の一刀だった。
すると見よ、その一刀が曇天を切り裂いたとでもいうのか、分厚い雲が左右に割け、わずかな晴れ間が覗いたではないか。
それは大いなる神が老人を哀れと思して恩寵を垂れ給うたか、はたまた単なる偶然か。
晴れ間からは丘の上に立つ老人へ斜めに光が射し、そこを明るく包み込んだ。
光の中に老人は確かに見た。
昔日の栄光の象徴、黄金旗を。
それは長い長い時を経ても全く変わらず、あの時の姿のまま老人の前に翻っている。
波打つ旗が斜めに射す光をあるいは遮り、あるいはそのまま通して、もやのなかに光と影が交互に踊っていた。
「おお、見える。一生かけて探し求めた黄金旗は、ここに。やはり、やはりここにあったのか」
老人は右手を伸ばし黄金旗をしっかりと握りしめた。
少年も両手を伸ばし黄金旗を握っている老人の手を上から包み込んだ。
「お前にも見えるか。黄金旗が」
少年は否定も肯定もしなかった。ただそのまま、老人には重ね合った手を通じてじんわりと温かさが伝わってきた。
季節外れの大鴉が一羽、雲の裂け目の彼方を目指して飛び去って行った。
《完》
謝辞
最後までお付き合いいただきありがとうございます。
公表している小説ですので、当然、誰かに読んでもらいたいと強く思っています。
ですから、私の「書く」という行為は、今この文章を目にしている貴方が「読んだ」ことで、はじめて完結したと言えるのです。
私は誰かに読んでもらえたらと述べました。その誰かが貴方であったことに縁を感じ嬉しく思います。
もし貴方がこの「黄金旗の行方」を少しでも楽しんでくれたら幸いです。
2019.12.18全力背走




